2.35.移動中
馬車が整備されていない道を走っていく。
ケンラさんが御者を担当し、ウチカゲお爺ちゃんは馬車の中で目をつぶっている。
僕とアマリアズは外を見ることができるケンラさんの隣りに座ってた。
お話も聞きたいし、初めての馬車での移動だし楽しめるところは楽しまないとね!
……アマリアズは未だに馬車にもたれかかって不貞腐れた顔してる。
逃げ出そうとしないのは、多分逃げても無駄だって分かってるからかな。
さぁお話を聞こう!
まだ前鬼の里から出たばっかだけど。
「ケンラさんケンラさん」
「はいはい?」
「なんか、ウチカゲお爺ちゃんの家臣さんから、ケンラさんが家臣の中で一番強いって話を聞いたんです」
「あははは……。ん~これはゲンジンさんが教えたな……?」
ケンラさんは困ったように笑い、軽く頭を掻いた。
あの人は自分のことを評価しすぎだ、と小声で呟いてから僕に話をしてくれた。
「そうですねぇ……。どう説明するのがいいんでしょうか。ああ、そういえば宥漸君は鬼人舞踊無手の構えをウチカゲ様から直々に伝授されておりましたね」
「はい。一通りの動きは……教えてもらったかと」
「自分は鬼人舞踊を伝授していただいたんです。日本刀を使用したやつです」
そう言ってケンラさんは隣りに置いてあった鍔のない日本刀を触った。
そういえばウチカゲお爺ちゃんが『鬼人舞踊には日本刀、無手、槍の三つの型がある』って言ってたっけ。
僕は武器とかあんまり得意じゃないし、危ないから無手になったんだっけ?
いや、確か無手をおすすめされたんだった。
なんで無手をおすすめされたんだっけ……?
五年前のことだから覚えてないや。
「も、もしかして免許皆伝……?」
「はは、実はそうなんです。多分それだけでゲンジンさんは宥漸君に自分が強いってことを教えたんだと思います」
「へぇ~」
そこでちらりとアマリアズを見てみると、不貞腐れ顔がさらに悪化していた。
今の会話の中で何か癪に障ることがあったのかな?
まぁ、いっか。
「でも免許皆伝ってすごくないですか?」
「筋が良い、ってウチカゲ様は自分を褒めておられましたが、未だに鬼の本質を理解できないままでいます。それが分かれば自分も自信を持てるのですが……いやはや、なかなか……」
「鬼の本質ってよく聞きますけど、結局のところ何なんですか?」
「さて、それが分からないから困っていますねぇ。誰も教えてくれませんし、ヒントすらくれません。と、いうのも……自分で気付けなければ鬼の本質を知ったとしてもただの知識として蓄えられるだけなのだとか」
「な、なるほど?」
結局なにかは分からないままかぁ~。
ていうかこれ僕には関係ないかも。
鬼じゃないし……。
でも……武器を使った鬼人舞踊かぁ~。
僕はずっと無手で稽古してきたし、日本刀とは無縁で手に持ったことすらなかったから、ちょっと見てみたいなぁ。
今度稽古風景とか見せてくれないかな。
帰ってからになるだろうけど、もしかしたら無手の構えにも何か応用が利くかもしれないし!
そういえば僕はウチカゲお爺ちゃんと戦ってばかりで、他の人と稽古したことがないなぁ……。
本当にアマリアズだけ。
いや、まぁ……あの修行について行けるのって僕だけだとは思うけど……。
「そういえば、宥漸君はどうして無手を?」
「ウチカゲお爺ちゃんが無手だけを教えてくれたんです。理由は分かりませんが、でも楽しいですよ」
「ウチカゲ様の修行について行けるだけ凄いですよ……。自分はウチカゲ様の『闇媒体』に伝授してもらいました」
「『闇媒体』?」
僕も実戦形式の修行では『闇媒体』に結構お世話になったけど……。
そうか、正確に言うとケンラさんはウチカゲお爺ちゃんの『闇媒体』に修行を付けた貰ったのか。
「ん? でも『闇媒体』ってそんなこと教えられるんですか?」
「なんでもウチカゲ様の『闇媒体』には姫様が誰かの魂を宿したという話を聞いたことがあります。一体誰の魂かは分かっていませんしウチカゲ様も教えてはくださいませんが、少なくとも鬼人舞踊を知っている人物の魂だということは分かっています」
「へ~!」
それは初めて知った……!
……いやいや、そんなことってできるものなのかな?
技能に魂を宿す……って変な話だけど、まぁ技能だしそういうのもあるの……かなぁ?
本当に技能って何でも許されるからびっくりだよね。
「アマリアズは何か知ってるー?」
「魂を技能に宿す技能……は聞いたことがないけど、魂を呼び起こす『黄泉の門』と呼び出した魂を一つの肉体に定着させる『入魂』っていう技能を併用すればできないことはないかも。技能に魂を定着させるっていう発想に至るのは、まずない事だと思うけどね」
「あ、あるにはあるんだ……」
「く……詳しいですねアマリアズ君は……。本当に五歳?」
「頭が良くなる魔法を持ってるからね~。この話は本で見た知識だよ~」
そう言いながら手をひらひらとさせている。
やっぱりアマリアズは何でも知ってるなぁ……。
僕も本とか読めばよかったかも。
あ、そういえばガロット王国まであとどれくらいなんだろう?
全然見えてくる気配がないんだけど……何日くらいかかるのかな?
「ああ、それなら明日の朝には着きますよ」
「わぁ、結構近いんですね」
「のんびりいけばそんなもんです。距離が近いということもあり遥か昔から交流は定期的に行っているそうなのですが、自分はそれに初めて参加する形になりますね」
「僕もです。楽しみだなぁ~!」
「そうですね。ですが、自分から離れないでくださいね? 迷子になったら探すの大変なんですから。それに治安もすべてが良いとは限りませんので、十分にご注意を。特にアマリアズ君。白い髪なんて珍しいんだから、誰かに声を掛けられても無視するようにしてください。いいですね?」
「髪の色は灰色なんだけどなぁ……。はいはーい」
生返事をしたアマリアズに少し困った顔をするケンラさん。
あんまり困らせたらだめだよ。
かくいう僕も、はしゃぎすぎて見失わないように気を付けないとね……。




