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【完結】霊亀の息子は硬度最高  作者: 真打
第六章 霊亀・零漸
178/277

6.12.ダメージ


 一瞬、全ての音が掻き消えた。

 草の音も、近くに流れている沢の音も、風が吹く音もすべて。

 鳥たちも何かを感じ、その場を飛び去った。

 しかしその瞬間には、凄まじい破裂音が轟き近くにあったすべての物を破壊してしまう。


 大地が抉れ、岩が砕かれて鋭利になり、大木に深々と刺さる。

 木々は折れて吹き飛ばされ、隣の木に寄りかかった。


「おああああああっ!?」


 自分の技能を間近くで踏みつけたアマリアズは、あまりの威力に吹き飛ばされてしまっていた。

 数秒間空中を泳ぎ、頭から大地へとぶつかって着地する。

 しかし今は怪我をするどころか、痛みすらも感じないのでここまでの無茶ができた。

 宥漸にはあとで感謝しておかなければならないだろう。


 鳳炎は『瞬翼』で移動して事なきを得たらしい。

 しかし遠くの方で『真空地雷』の威力を再確認し、驚愕している。


「……! あ、アマリアズ! あいつ無事か!?」


 アマリアズの存在を思い出し、すぐに動き出して合流する。

 目が良いので場所自体は把握していたのだ。

 近くに降りたって、手を取って起こしてやる。


「まったく無茶をする!」

「宥漸君の『身代わり』があったから平気だよ」

「む……それは零漸と同じ技能であるな。なるほど、それで自爆を選んだわけか」

「だけど魔力がもうない……。一人仕留めたまでは良かったんだけど……」

「私が奴を押さえていればよかったのだがな。なにせ、こちらの方で大きな動きが見えたからな。なんだあの爆発の回数は。あれでは天使が集まって来るぞ」

「仕方ないんだって……」


 地面に埋まっているとは、さすがに分からなかったのだ。

 今までここで修行してきて、この辺を走り回っていた。

 そんな足元に、彼がいるなど聞かされていなければ誰も知り得ない。


「そして何より穴掘る道具がない!!」

「穴……? って、零漸の野郎、地面に埋まってんのか!!?」

「ご明察!」


 バスッ。


「……?」


 アマリアズの肩に、何かが当たった。

 違和感がある。

 そっと触れてみると、手には真っ赤な血がべっとりと付着していた。


 それを見た瞬間、激痛が肩を襲ってくる。


「いっ!!?」

「な……。あいつまだ生きていたか!」

「いいいいいっぐぐ……! 子供の体……! 痛み感じやすすぎる、だろぅがぁ……!」


 ずいぶん深くを傷をつけられてしまったようだ。

 押さえて止血を試みるが、なかなか止まらない。

 そして激痛が走り続けており、膝を地面につけてしまう。

 これでは動くことができなさそうだ。


「おいアマリアズ! 君は『身代わり』をかけられていたのではないのか!?」

「そぅ……だけどぉ……!!」

「クッソ、防御貫通のような技能か……」


 問題は、そこだ。

 確かに今も尚『身代わり』はアマリアズに掛けられている。

 だが、そこで考えられる可能性は二つあった。


 一つは応錬と同じく『防御貫通』という技能を所持している場合。

 だが今アマリアズに傷をつけたのは、明らかに刃だ。

 なので『防御貫通』と同じ効果のある技能が使用された可能性がある。

 確かにアマリアズは、そういう技能を幾つか作ったと記憶していた。


 そしてもう一つの可能性は……。

 今アマリアズを傷つけた技能の攻撃力が、“宥漸の防御力を上回る”ことだ。

 

「ほ、鳳炎さん……! 零漸って人の、防御力って……どれくらい?」

「今聞くことか!? だ、だが一万に近かったという記憶はある! 恐らく応錬の方が詳しい! しかし防御力を二倍にする技能があると聞いたことはある……」


 今、宥漸がそれと同等の防御力を持っていた場合……。

 少なく見積もっても彼の防御力は五千はあるだろう。

 それが二倍となれば、一万。

 それ以上の攻撃力を持つ技能など、あっただろうかとアマリアズは痛みをこらえながら思案した。


 だが、それはすぐに判明する。

 土煙がようやく払われ、天使の姿が次第に露わになってきた。

 彼女は槍を力強く握っており、穂先を天に向けている。


「『天神槍(てんじんそう)』か!!」

「な、なんだそれは!」

「絶対受けちゃ駄目! 回避専念!!」


 アマリアズがそう叫んだ瞬間、天使が力強く槍を引いてから、突きを繰り出す。

 それを見た鳳炎は即座にアマリアズの首根っこを掴んで回避した。

 二人が先ほどいた場所へ向かって斬撃が飛んできたようで、空気が、ブレる。


 見た目は派手ではない。

 いかにも普通の斬撃のように思えたが、二人の後ろにあった岩に、綺麗な穴が開いた。

 それは貫通し、木々を貫きながら地面に沈んでいく。


「……要するに、私たちではあの攻撃を防げないと」

「それで、あってる……。いぐぅ……!!」

「君を運びながら回避するのは、至難の業だな」


 アマリアズに負担を掛けないようにしっかりと体を支えて彼を抱いていた鳳炎は、苦笑いをして天使を眺めた。

 ゆっくりとした動きでこちらを再び睨め付けてきた天使は、何処か恐ろしいと、感じた。


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