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【完結】霊亀の息子は硬度最高  作者: 真打
第六章 霊亀・零漸
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6.9.時間稼ぎ


 乾いた破裂音が轟き、天使を襲った。

 ワルフは『ホーリーソード』を地面に叩きつけ、黄色く光る壁を展開する。

 四方に作られた壁は『空気圧縮』の爆発を完全に押さえ込み、無効化した。

 土煙を払ってアマリアズを見据えるが、既に彼はそこにいなかった。


 予想はしていたことだ。

 接近戦は苦手な体つきをしていたし、技能に頼った攻撃が得意なので距離を取ること自体は間違っていない。

 それに、先ほど倒されてしまった仲間の天使に仕掛けた数多くの罠。

 あれだけの数を用意できるということは、魔力も普通の人間よりは多く持っていそうだ。


 長期戦になると、こちらが不利になる。

 そう考えたワルフは『ホーリーソード』を一度解除し、透明のままその場を移動した。


 一番最初に仕掛けた時、アマリアズはこちらの存在を認識していなかったはずだ。

 たまたま上を見上げ、たまたま見つけただけ。

 運が良かったのだろうが、こちらを目視した時の表情から察するに、恐らく気配を探り当てる技能は所持していないはずだ。

 それに、まだ子供。

 戦闘経験を積めば殺気を感じ取ることはできるが、子供であるがゆえに戦闘経験は浅く、気配を感じ通ることはできないはず。


「……だが敵を認識する技能は持ち合わせている、と」


 二名の天使は、この場から相当離れた場所で倒されてしまった。

 アマリアズがずっとあの場所にいたのだとしたら、決して天使は目視出来ない。

 であるからして、索敵系技能は所持していると考えた。


 しかし欠点はあるようだ。

 透明である自分を察知できず、今も尚仕留めきれずにいる。

 場所が分かっているのであれば、透明だろうが何であろうが攻撃を繰り出してくるはずだ。

 それがないということは、姿を消している、見えなくしている場合は、索敵系技能に引っ掛からないのだろう。


「……?」


 周囲に、何かが浮いている。

 それに気付いた瞬間、それは一つではないということにも気付いた。

 パッと見る限りでも数百はあるように見える。

 どれもが半透明の球体であり、やけに見覚えがった。


 拙い。

 そう思ったのも束の間、それは連鎖する様にほぼ同時に破裂する。

 凄まじい音を発しながらそれなりの高威力の爆発が続き、周囲にあった木々が折れ、地面が抉れて小石が何度も吹き飛んでいった。


 敵の姿が見えないのであれば、敵がいるであろう場所に弱めの『空気圧縮』を設置して同時に破裂させる。

 なんと無茶苦茶な攻撃なんだ、とワルフはすぐにその場を離れた。

 空中を飛べば、脅威は遠ざかる。

 森を見下ろす場所に位置取り、一つ呼吸を置いた。


「あれを成せるだけの技量があるのも恐ろしいが……なんて魔力量だ……」


 もとより『空気圧縮』とは一定時間空気を圧縮する必要があるので、あそこまで量産できるのは異常だった。

 同時に、そして瞬間的に空気を圧縮する技量を持っているということと、それを実現させられる魔力が体内に残っているという事。

 彼は。技能の派生技、“魔術”の扱いにも長けているということが、今の攻撃で分かった。


「それだけの技量を持つ者が、ここで作業をしているとなれば……!」


 霊亀は、ここにいる。

 そしてもう一人が爆発を起こし続けて穴を掘っているところを見るに、霊亀は地面に眠っているのだろう。


 活路が見えた。

 にやりと笑って、穴を掘っている人間をまず始末しようと、そちらへと急接近する。

 真上に来てから滑空し、重力に従って落下しながら『ホーリーソード』を手の中に出現させ、頭を叩き切る!


 ガンッ。


「わっ」

「……? ……!!?」

「あ」


 ドオオオンッ!!!!

 頭を剣で殴ったことで、宥漸は目測を見誤り『爆拳』を変なところで使ってしまった。

 相当な力を込めて繰り出そうとしていたのでその爆発は大きく、ワルフはそれに巻き込まれる。

 穴の外にぽーんと放り出されてしまい、受け身を取ることすらできずに地面に転がった。


「がっ!? げぇっほ!!」


 痛む体を何とか持ち上げ、口の中に溜まった唾と血を同時に吐き出して前を見据える。

 バンッと片手を胸に当て、『治癒』を施して肉体の傷は癒すことができたが、内臓が未だに痛んだ。

 肋骨が折れているのかもしれない。

 喀血したということは、肺が損傷している可能性がある。


 外傷の治癒は得意だが、内部の傷は自分では治癒できない。

 動けないことはないが、久しく感じていなかった痛みというのは、なかなかに堪えがたいものである。

 歯を食いしばりながら『ホーリーソード』を構えると、真横から濃厚な殺気が飛んできた。


「んぐぬ!?」

「避けんな!!」


 『空圧剣』を長剣の形にして振るってきたアマリアズは、忌々し気にそう叫ぶ。

 追撃してみたが、やはり『ホーリーソード』に阻まれる。

 アマリアズは『空圧剣』をそのままに、すぐに後退した。


 ワルフはまた破裂させる気だろう、とそのままの体勢で踏ん張った。

 『ホーリーソード』が前にあれば、全ての攻撃を防ぐことが可能。

 なので破裂させるまで待ったが、それより先に、自分の足元に何かが刺さった。


「……!? 別の『空圧剣』!」

「はいご明察!」


 アマリアズはまた走り出してきていた。

 それを見たワルフは、目を瞠る。


「自爆する気か!?」

「それもご明察!」

「くっ!!」


 行動に移そうとした時には、すでに遅かった。

 まず足元に刺さった『空圧剣』が破裂し、次に『ホーリーソード』で押さえていた『空圧剣』が破裂する。


 ズパパパァンッ!!!!

 ワルフの左足が、吹き飛んだ。


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