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【完結】霊亀の息子は硬度最高  作者: 真打
第1章 痛みを知らない子供
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1.9.カルナの元へ


 僕とウチカゲお爺ちゃんは早速お母さんがいる場所へと足を運んだ。

 少し距離があったけど、疲れたりはしなかった。


 そこは大きな畑が幾つもある。

 あぜ道で仕切られており、すべて長方形の形をしていた。

 収穫ということで多くの鬼が作業に勤しんでいたが、その中にお母さんはいない。

 どこにいったんだろうとキョロキョロと周辺を探してみるが、それでも見つからなかった。


 ウチカゲお爺ちゃんも同じように探しながら、他の鬼たちに声をかけている。

 すると、どうやら作物を納屋へ仕舞い込む作業を手伝っているらしい。


「そうか。分かった。ちなみにカルナの働きはどうだ?」

「力仕事はやっぱり俺たちと比べちゃダメだけど、力が弱い分繊細な作業を任せられるんでさ。野菜も握り潰さねぇし馬の扱いも上手い。助かってまっせ」

「問題はなさそうだな。納屋はあっちか?」

「ええ。明日にでも城下町に持っていく予定でさ」

「寒いのに苦労を掛ける。では、引き続き頼んだぞ」

「へい!」


 懐かしい喋り方をする鬼を見て、ウチカゲお爺ちゃんは労いの言葉を掛けた。

 ああいう話方をする人は、なんだかとっつきにくい。

 でもいい人だということは分かっている。

 話しかけにくいのに変わりはないけど……。


 目的地が分かったところで、僕たちはまた移動する。

 作物が運び込まれる納屋はとても大きく、三棟あった。

 他の場所にも何件かあるらしいんだけど、僕はそこまでこの辺を熟知していない。


 大量の作物が運び込まれている中、馬の世話をしているお母さんの姿があった。

 まだこちらに気付いていないようではあったが、僕はすぐに走り出して飛びつく。


「ただいまー!」

「わぁっ! 宥漸、もう帰ってきたの?」

「うん! ウチカゲお爺ちゃんが話があるんだって!」

「ウチカゲが?」


 顔を上げてお母さんがウチカゲお爺ちゃんを見る。

 話す内容はもう決まっているが、ここでは良くないと場所を変えることを提案した。

 大っぴらにはできない話だと気付いたあと、一つ頷く。


「分かったわ。あねさーん! ちょっと抜けてもいいかしらー?」

「ええー! 困るわー! ってウチカゲ様!!? まぁまぁ、どうしたんですかこんな所へ!」


 納屋から顔を出した少しばかり年配の女性の鬼が、ウチカゲお爺ちゃんを見て大層驚いた様子をしてこちらに走ってきた。

 やっぱりウチカゲお爺さんは人気者。

 うん。


「カルナに用があってな。少し借りてもいいだろうか?」

「そうでしたか。お話は長くかかりそうです?」

「少しな。すまないな、邪魔をしてしまって」

「城主様のお願いは断れないですね。分かりました。いってらっしゃい、カルナちゃん」

「すいません。話が終わったら戻ります」

「お願いねぇ~」


 そう言って、女性の鬼はすぐに周囲を見渡した。

 暇そうにしている若い男を発見すると、すぐに声を出してそちらへと歩いていく。


「アギトー! あんた馬のお世話して!」

「ぬぇええ!? 母ちゃんそりゃないぜ!! 俺昨日蹴飛ばされたばっかなんだぞ!! カルナさんは!?」

「急用。ほらさっさとやる!」

「おいまじかよー!」


 悲痛の叫びをあげながら、アギトと呼ばれた鬼の青年は渋々ながら馬の世話をする為に道具を取りに行った。

 こういう仕事は力加減ができる者でなければ難しいのだ。

 なのでカルナに一任されていたらしい。


 そのやり取りを見ていた僕はくすくすと笑った。

 お母さんは申し訳なさそうにしているが、ウチカゲお爺ちゃんは少し呆れた様子で頭を掻いている。


「本来は私たちでやらなければならないことだというのに……まったく」

「まぁまぁ。えっと、その話っていうのは宥漸も聞いていいの?」

「宥漸の話だからな」

「あら」


 そう言われて、お母さんは僕に疑いの目を向ける。

 だが笑っているので怒ってはいないようだ。


 何もしていないよ、と反論しそうになったけど、何もしていないわけではないので口には出せなかった。

 これから話すのはそのことだ。

 それと、何か知らない話をしてくれるらしい。


 どういう話になるのか分からないので、なんだか緊張してしまう。

 とりあえず人気のない場所へと移動し、周囲に誰もいないことを確認したウチカゲお爺ちゃんは一つため息をついた。


「ここならいいだろう」

「それで、話って何?」

「宥漸が爆拳を使った」

「……え?」


 心底驚いた様子で、お母さんは僕を見る。

 すぐにしゃがみ込んで両手で頬を包み込んだ。

 ……土の匂いがする。


「ほ、本当?」

ふぉーはほ(そーだよ)

「本当だ。あれは確かに爆拳だった。だが無意識に発動させたらしくてな。いろいろ考えたが、宥漸は自分が他の者とは違うと知っていた。だから、私が技能の使い方を教えようと思う」

「でも今って……」

「そう。技能は廃れた。今あるのは魔術と剣術のみ」


 話の内容が分からず首を傾げるしかなかったが、お母さんは妙に納得していた。

 だがやはり、技能が廃れていることに懸念を感じていた。


「技能が廃れているのに、どうするの?」

「まずは許可を貰いたい。私が宥漸に力の使い方を教える。よいだろうか」

「うん、それは大丈夫。今の鬼で技能を持っているのは貴方しかいないもの。それに今回、爆拳は無意識で出したんでしょう? だったら尚更、扱えるようになった方がいいと思う」

「分かった。では宥漸、明日から技能を学ぶぞ」

「はい!」

「で、話を戻すけど……。どうするの?」


 今この世界に、技能というものは出現しない。

 四百年以上生きながらえている人物であれば使用することができるが、今の鬼、人間、その他ほとんどの種族は技能というものを発現させることすらできないのだ。

 これが、失われた技能(ロストスキル)


 だからカルナは疑問だった。

 恐らく今は、ステータスすら存在しない。

 “あのなにか”と戦ったあとに産まれた宥漸が、爆拳を発現させること自体おかしな話なのだ。


 しかしウチカゲは、ある確信があった。


「宥漸は、あのお方の血を引いている。異世界の人間のな。恐らく私たちと対峙した“なにか”も、この可能性は考えていなかったのだろう」

「つまり……?」

「宥漸はあの方の技能をすべて扱えるようになる」


 長年生き続けて約束を守ったウチカゲは、この事に確かな自信を持っていた。

 喚びだされた人物の子供。

 その力が、継承されていないはずがない。

 宥漸は、とにかくこの世界の住民とは違う、特別な存在なのだ。


 それに、実際に爆拳を使った。

 これが確信するに足る証拠となる。


「だから、まずは技能のことについて話そうか」


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