第9話
あのひとが死んだ。
宗治くんが諸外国を巡り、同盟国で演説を終えたその翌日。
新聞の一面を、宗治くんと同盟国の大統領が笑顔で握手している写真が飾りました。
12月26日。
風車宗治の二人目の息子である智司くんは産まれました。
そんな記念すべき日に、あのひとは亡くなりました。
子どもを産んで死ぬなんて、身勝手にも程がありませんかねえ。
「迎えにきました」
総平くんを助手席に座らせて、わたしはあのひとの死体と産まれたばかりの智司くんの在る、病院へと向かいました。
何にも知らない総平くんは、「なんかあったんですか?」と、シートベルトを締めるなり訊いてきます。
総平くんがこれからどれだけ傷つき、そこから何を得るのか、わたしには知ったことではありません。
だからわたしは、わたしがあのひとの死を、病院から私用の電話を通じて伝えられて、このわたしが思ったことを、そのまま呟きました。
「ざまあみろ」
総平くんの問いかけに対する答えにはなっていません。
答えるつもりはありません。
答えてやる義理もありませんよ。
これからわかることなのでね。
なので、率直なわたしの気持ちをこぼしておきました。
わたしはあのひとが今日死ぬことなんて知っていましたからねえ。
「?」
総平くんは不思議そうに首を傾げました。
歴史は視たままの未来の通りに動いています。
「どこへ向かっているんですか?」
「病院ですよ病院」
風車美咲は死んだ。
宗治くんの同情心を愛情と勘違いしたまま、この世を去りました。
あのひとにふさわしい最期ではありませんか?
病人は病人らしく、病室でひとり。
ざまあみろ。
【そんな運命を信じぬく】