第22話
翌日。
各メディアへ伝達したのちにわたしは雅人くんの研究室へ。
総平くんは葬式の段取りがあるので別行動です。
「あなたが焚きつけたんでしょう?」
別館の扉を開け放ち、雅人くんの姿を探すまでもなく見つけました。
ちょうど昼休みですし、わざわざ僻地に来るような学生連中はいません。
雅人くんは1人でコンピューターと向かい合っています。
「智司くんに宗治くんを殺すようにと!」
「!」
振り向いた雅人くんの首を締め上げると、抵抗して腕に爪を立ててきました。
そのぐらいしかできませんよね。
「助けを呼んでみろよ」
声を出してみろ。
泣き喚け。
叫べ。
誰か気付いてくれるかもしれませんよ?
「あなたにはできないことでしたねぇ!」
「ゥ……」
「なんですか? ようやく治ってきたんですか? 出せるようになりました、声?」
雅人くんの人差し指がコンピューターの電源ボタンを押しました。
背後のモニターがパッと明るくなり、そこにもう1人の雅人くんが現れます。
「まさひとをいじめないでもらえる?」
左右のスピーカーから女性の声が出てきました。
口を開閉する動きは画面の中の雅人くんとシンクロしています。
映画の字幕のようなひらがなと記号の表示。
なんですかこれ。
「そのてをはなせ」
わたしは指示の通りに現実の雅人くんの首から手を離しました。
現実の雅人くんより少しだけ若そうですが。
頷きながら「よろしい。自分のことはべんぎじょう“知恵ちゃん”とよんでほしい」と説明してきます。
「雅人くんが作ったんですか?」
わたしは知恵ちゃんではなく雅人くんの顔を見て問いただします。
答えたのは知恵ちゃんのほうです。
「そうです。自分はまさひとがつくった“人工知能”もしくはおはなしあいて」
悪趣味ですねぇ。
自分と瓜二つの姿で、女の声。
「会話のできない雅人くんの代わりに知恵ちゃんがわたしとお話ししてくれるんでしょうか?」
「はなしがはやくてたすかる」
なるほど。
雅人くんと筆談するよりも、知恵ちゃんとお話ししたほうが確かにレスポンスは速いでしょう。
密かにこんなものを作っていたんですねぇ。
研究の一環なのでしょうか。
「いぜん、いちどそうじがここにきたことがある」
初耳です。
宗治くんは気まぐれな人でしたから。
友人がどんなことをしているか気になったんでしょう。
「やつは“能力者”だ。まちがいない」
それも初耳です。
間違いないだなんて断定してしまうんですか?
「知りませんでした」
「そりゃあそうだろう。おしえてもとくがない」
言ってくれますねぇ。
わたしと宗治くんの仲で、隠し事なんてできるはずがないでしょうよ。
ここにきたのを黙っていたのはわたしを想ってのことでしょうし。
「やつの“能力”は【威光】……いってしまえばせんのうだとか、せいしんしはい、マインドコントロールにるいするしろもの」
「待ってください。どうやって判明したんですか?」
信じがたい。
宗治くんが?
「まさひとは“能力”についてけんきゅうしている。“能力者”とくゆうのびりょくなでんじはをかんちするそうちをつくった」
「その装置が宗治くんを“能力者”だと?」
「自分はそうじじしんに“能力”をつたえようとしたけれど、まさひとはつたえなくてもいいといったのでやめた」
雅人くんはテキストエディタを起動し、そのウィンドウのサイズを変更して知恵ちゃんの隣に置く。
キーボードと向かい合うと、雅人くん自身の意見を打ち込み始めました。
『奴が全世界を縦横無尽に飛び回り、紛争や抗争の中を突き進めたのは、その場所で“死亡することはない”と確信していたからだ。
奴はお前の能力を利用して“確率”や“可能性”という概念を破壊させ、己の身に万が一の不幸も降りかからない、無事に日本へ戻ってくる未来を確定させていた』
「しょうがいのともに“利用されていた”じじつをしって、いまどんなきもち?」
そうですねぇ……。
機械であるあなたにはわからないでしょう。
『全世界の人類の平和と幸福の実現――奴の理想は立派だ。
しかし、そんな世界は遅かれ早かれ破綻する。
奴の理想通りに“全人類の平和の為”地球上の資源を貪っていったシミュレーションがこの通り』
前方のスクリーンにグラフが出力されました。
あなたはこのようなコトを真剣に研究なされていたんですか?
大したものですねぇ。
『資源は有限であり、奪い合いが不可避に発生し、誰かが誰かの利益のために誰かを傷つけるだろう。
奴が史上最悪で地上唯一の独裁者へと変わってしまう前に倒さなければならなかった』
「知恵ちゃんは“人工知能”だから、やつの“能力”はつうじなかったみたい」
『政治家の家系でもない風車宗治があの年齢で国のトップの座へ就けたことをなぜ誰も疑わなかった?
どうしてあのとき誰も反対しなかった?』
これで終わりですか?
言いたいことは言い終わりましたか?
話が終わりなら、わたしはこれにて失礼します。
『知恵ちゃん、総平に迎えに来られるか連絡してほしい』
「どうして?」
『異常値が検出されている』
何なんですか?
昨日から続いているこれは夢か何かでしょうか。
頭が痛い。
まだやらなくてはならないことが山積みなのに。
「えー」
『なるべく早く。作倉の頭がおかしくなる前に』
「こんなやつたすけるひつようはない」
『ある』
「……はいはい、わかりました」
考えれば考えるほど気持ち悪くなってくる。
今、わたしはどこに?
ここはどこですか?
どうしてこんなところにいるんでしょう?
戻らないと。
戻って、どうする?
(宗治くんはもういないのに?)
宗治くんは風呂場で足を滑らせて死んだじゃないですか。
違う。
違う違う違う違う違う違う。
何も違うことはありません。
そういうことにするって約束したじゃないですか。
(わたしがあのとき、宗治くんの“死”を確定させた?)
わたしのせいで?
わたしのせいで殺された?
わたしがあのとき、宗治くんが殺される未来を視てしまったから?
「あ、ああ、ああ」
こんな能力がなければ?
なければ宗治くんはあの場で死なずに済んだ?
わたしが?
わたしが……。
そんなの、わたしが殺したようなものじゃないですか。
「うわぁあああああああああああ」
【そんな禍根を残さない】




