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第12話

 わたしがまだ二十歳だった頃。

 成人式のあった週の土曜日に、小学校の庭に埋められたタイムカプセルを掘り起こすことになっていました。

 わたしは宗治くんと共に集合場所へ向かいます。


「みんな来ているといいな!」


 今日の宗治くんは就職活動にも使えそうなスーツ姿。

 そこまで気負う必要はないのに、ばっちりと決めてきました。

 ちなみに成人式の当日には袴姿です。


「作倉は何埋めたか覚えてる?」


 一方のわたしは普段着。

 やたらと寒いのでダッフルコートを着込んでいます。

 宗治くんは、「くまみたいだな!」と褒めてくれました。


「わたしは確か、手紙を書いたと思いますよ」


 十年前の自分から二十歳になったわたしへ。

 手紙を書いたことだけは覚えていますが、どんな内容だったかは掘り起こしてからの楽しみとしておきますよ。

 思い出そうとすれば思い出せそうですけどねえ。


「宗治くんは?」


 神佑大学の東門から歩いて五分ほど。

 わたしと宗治くんが卒業した神佑大学附属小学校の校舎があります。

 その校庭にある大きないちょうの樹の根元に、十年前の思い出を埋めました。

 わたしたちは集合時間より早めに着きましたが、既に過去の学友は集っています。


「覚えてない! だから開けるのが楽しみだぞ!」


 久しぶりに見る顔もあれば、つい先日会ったばかりのひともいます。

 わたしと宗治くんに気がついて、おーいと手を振っているのは当時の担任。

 宗治くんは嬉しそうに駆け寄っていきました。

 わたしはかつてのクラスメートのなかからひとりの青年を見つけました。

 彼は十年前と比べると明らかに身長が伸び、より精悍な顔つきに育っています。

 まあ、高校もいっしょでしたけどねえ。

 それでもこのようなイベントに来るのは珍しいので、すぐにわかりました。


「まさひとくんは医学部でしたっけ?」


 わたしが話しかけると、むっとした表情になります。

 先ほどまで女性に囲まれてにこにことしていたのに、わたしに向ける視線はそれはそれは真冬の朝にできる氷柱のよう。


「医者にでもなるつもりですかねえ」


 まさひとくんは鈍色のトラッドコートを翻し、わたしの前から立ち去ろうとしました。

 どうやらわたしと会話する気はないようですねえ。

 去年、偶然おなじ講義を履修していたときもこんな様子でした。

 宗治くんが話しかけるのに、無視。


「ご自分で治そうだなんて考えないほうがいいですよ?」


 まさひとくんが立ち止まりました。

 その深緑色のメガネの奥の瞳には苛立ちが窺えます。

 指摘されたくない事実。

 揺るぎない本当のこと。


「あなたは間違いなく賢い。だからわかっているでしょうよ。わたしにわざわざ言われなくてもねえ」


 何も言わない。

 一度背を向けたわたしへ、振り向きました。

 彼は何も言い返さない。

 否、言い返せない。

 心の奥底から怒りを爆発させても、感情を言葉にできない。

 氷見野雅人は喋れないのだから。

 口はあってもそこから言葉が出てくることがない。

 いくら奥歯を噛みしめても、わたしに答えることはできません。


「作倉ぁ! そろそろ始めるってさ! まさひともこっちこっち!」


 見かねた宗治くんがわたしとまさひとくんの手を取って、みんなのところへ引っ張っていきました。

 まあ、いいでしょう。

 今日はこんなところで。




【そんな病は治らない】

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