第11話
「お久しぶりですねえ、雅人くん」
この神佑大学に来ること自体が何年ぶりになるのでしょう。
卒業以来になりますかね?
がたいのいいスーツの男ふたりを引き連れて現れた旧知の友を見て、氷見野雅人は表情をこわばらせました。
ええ、友ですよ。
宗治くんにとってはね。
「とにかくこちらに着替えてください。事情は車の中でお話します」
高校時代と背格好は変わっていません。
実験や研究でこもりっぱなしだから二倍以上に膨れ上がっているかと心配していましたが、自身の健康管理もしっかりできるお方でしたねえ。
杞憂でした。
わたしが持ってきたのは礼服です。
さすがに白衣のまま葬式に連れて行くのは、科学者としての正装といえども場違いかと思いましたから。
着られそうなサイズを見繕ってきました。
「あなたが行かないと宗治くんが余計に悲しむんですよ」
今日はあのひとのお通夜。
小学校時代からの友人の雅人くんにも、ちゃあんと手紙は届いているはずです。
読まずに捨てたでしょうけどねえ。
そういう性格だってことはわかってますよ。
わたしだって、本当はあのひとの死を悼む気持ちなんてまったくありませんけどねえ。
「嫌だと言うならしょうがないですねえ」
連れてきた二人組が、無理矢理に雅人くんの身体を押さえつけようとします。
簡単にはついてこないでしょうから連れてきたわけです。
すると雅人くんは卓上の液体をためらいもなく彼らに振りかけました。
「ぐあっ!」
「うぅっ……!」
大のおとなが顔を覆ってうめき、床に転がりました。
じゅわじゅわと皮膚の溶ける音が聞こえます。
「あらら」
傷害事件ですねえ。
ここまで抵抗してくるとはわかっていましたが、わかっていたのと実際起こるのとでは驚きが違います。
盾を準備してきて本当によかった。
「それでもわたしは連れて行きますよ、雅人くん?」
本来なら使うつもりはなかったのですが正当防衛ということでよろしくお願いします。
わたしは催涙スプレーを雅人くんに噴射しました。
メガネである程度は防げますが、この距離では防ぎきれないでしょう。
「それでは行きましょうか」
倒れ込んだ雅人くんを背負って、わたしは研究室をあとにしました。
あとのふたりはなんとか戻ってきてくれるでしょう。
こういう場には慣れているでしょうから。
【そんな意見は通さない】




