第7章(6)
「ええ、大丈夫。ここに来るまでに十分旅慣れたと思うから。それもこれもフィルのおかげだったけど」
「そうだね」
ルイスも寂しげに一言答えた。
「じゃあ、私行くわね。今まで本当にありがとう」
「うん。こっちこそ、ありがとう。旅楽しかったよ」
「また、いつか会えるかしら、私達」
「僕がこっちの世界を旅するようになれば、きっと会えると思う」
「そうよね。きっと会えるわよね」
「それまで元気でクリスティーナ」
「ルイスも元気でね」
ルイスとクリスティーナはずっとそのまま一緒にいたい衝動に駆られたが、クリスティーナはそう言う訳にもいかないと、意を決して道へと体を向けた。そして数歩道を歩き出し、その後ろ姿に向かってルイスが声をかけた。
「元気でね、クリスティーナ」
クリスティーナは悲しそうな表情を浮かべながらも振り返り振り返り、手を振った。見送るルイスもそれに応えて力いっぱい手を振った。三人の旅はこうして終わりを告げた。
クリスティーナを見送った後、ルイスは館の中へと戻った。メンフィスは身支度や戸締りをし、魔法の準備をしていた。彼女はルイスに身支度を整えるように言った。身支度と言っても今まで持ってきた荷物を背負い込むだけで全ては整い、後はフィルが所持していた月の光をなくさないようしっかり背中にくくりつけることだけだった。ルイスは大事に剣を持ち上げると
「一緒に帰ろう、フィル」
と、ささやいた。
メンフィスは魔法の準備をしっかり整えると、側にルイスを呼んだ。右手には杖を掲げ、左手はルイスの肩にのせた。彼女は精神を統一するために目を閉じた。そうして大きな声で怪しげな呪文を唱えた。すると一瞬にして世界が変わった。しばらくの間、ルイスは何が起きたのかよく分からなかったが、よく見るとそこはかつて自分が生活していた屋敷の庭であった。しかもどうやらまだ真夜中のようで、頭上を見上げると、あの青白く銀色に輝く月がそこには見えた。あの時と同じだと思ったルイスは驚いたように庭の隅々を見渡した。月明りに照らされた木の頭上から、またフィルが跳び降りてくるのではないか、思わずそんなことをルイスは考えた。メンフィスの話によれば、ルイスとフィルが出会ったまさにその時間に戻ってきたのだということだった。
「じゃあ、親は僕が旅に出たことも知らなかったってこと」
「まあ、そういうことさ。だから事情を話さないと彼らは納得しないだろう。とにかく話は明日の朝になってからだ」
「そうだね」
ルイスも納得したようにうなずいた。彼は月の光を浴びている庭を振り返りながら、全てがここから始まったことを思い出していた。まさかこんなことになろうとは。彼の背中には、月の光がくくりつけられ、その重さは旅が始まった時にはまったくなかったものだった。フィルもこんな気持ちだったのだろうか。思わず足下にある、黒い影に視線を向け、ルイスはそう思った。フィルから託されたこの月の光。僕は果たして守ることができるのだろうか。いや、守らなくちゃいけない。彼を忘れないためにも、守らなくちゃいけない。いつか、フィルのように強くなって、人を守る気持ちを持とう。それが僕とあいつとの約束なのだから。彼は頭上に輝く月に向って、その誓いを心に打ち立てた。
(完)




