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第7章(6)

それからしばらくしてからルイスとクリスティーナとメンフィスは居間へと戻った。メンフィスは紅茶を淹れなおし、二人の沈み込んだ気持ちをなんとか、明るい気持ちへ持っていかせようとした。だが、それはとても難しいことだった。

「僕が大人になんかなったって、何にも変わらないのに。なんで、あいつはわざと僕に負けた」

「ルイス、とにかく今はフィルの意志を継ぎましょう」

クリスティーナ自身も暗澹足る気持ちであったが、このままではいけないと思い、前向きな意見をフィルに述べた。

「フィルの意志って?」

「月の光の継承者になるってことよ」

「僕には無理だ」

「無理だとしても、やらなくちゃ駄目よ。でないと何のためにフィルは命を投げ出したか分からないわ」

クリスティーナは厳しい口調でルイスにぴしゃりと言った。それを聞いたルイスはうなだれたように視線を床へと落とした。

「それにしても奇妙なことがあるものだね。月の光は力の象徴だ。影を切り離し、力を封印したはずなのに、結局は新たな力が戻って来てしまったということか。ルイス、おまえにはやはり何かしらの使命があるのかもしれないね。おまえが、嫌であろうとなかろうと 」

メンフィスは非常に興味深いといった様子でルイスとルイスの手元にある月の光に目をくれた。

「そう言うクリスティーナはこれからどうするの」

ルイスもルイスなりに思考を変えようと、クリスティーナに尋ねた。

「私は予定通り、魔法の都へ行くわ。行って、自分に魔法の力があるのかどうなのか見極めるつもり」

「そうか…」

ルイスは気の抜けたようにぼんやりと呟いたが、クリスティーナのその話を聞き、自分もしっかりしなくてはいけないと思った。

「僕も行動しないといけないな。まずは屋敷に戻って、親と話そうと思う。あの屋敷から出て、こっちの世界を旅することを許してもらわないと、駄目みたいだし」

「旅するって?」

「かつての僕自身の記憶をたどりたいんだ。いったい何があったのか、僕は知りたいし、それに月の光を使いこなせるようにもなりたいし。やっぱりフィルに託されたんだから、がんばろうと思うよ」

ルイスは少しだけ前向きな気持ちになると、クリスティーナにそう告げた。

「そうね、それが一番いいことだわ」

ルイスの表情が少しだけ明るくなるのを見て、クリスティーナはほっと胸をなでおろした。

「そうかい、家に戻るというのなら、私も一緒に同行するよ」

「えっ。メンフィスおばあさんも来るの」

ルイスはびっくりして彼女を見た。

「おまえの両親に事情を話さなくちゃいけないからね。おまえの両親は反対するだろうから」

「でも旅するのは大変じゃない。僕らだってかなりの日数をかけてここまで来たんだよ」

「何、その心配には及ばないよ。魔法を使えば、ものの数分もかからないよ。あっというまにおまえの家にたどり着くよ」

「だったら、僕を魔法でここまで連れて来てくれればよかったのに」

ルイスは不満そうにぼやいた。

「それじゃあ、意味がないだろ。おまえが苦労して、それでもどうしても影が欲しいのかどうか見極めたかったのさ」

「僕を試したんだね」

「まあ、そういうことさ」

メンフィスは肩をすくめるとそう答えた。

「さあ、そうと決まったら、善は急げだ。すぐにでも出かけようじゃないかい」

メンフィスは意気揚々とそう語ると席を立ち上がった。

「なら、私も魔法の都へ出かけることにします」

彼女がすくっと立ち上がるのと同時にルイスも立ち上がった。

「メンフィスおばあさん。クリスティーナを見送ってきます」

「ああ、そうしておくれ。その間に私も身支度を整えておくから」

メンフィスがそう言うと、ルイスはクリスティーナと一緒になって居間を出た。暗く沈み込んだ廊下を通り、ホールには何事もなかったかのように柱時計が時をゆっくりと刻んでいた。ただテーブルに飾られていた百合はしおれたように生気がないように見えた。二人は伏し目がちにホールを出ると、館の門の外まで無言で歩いて行った。

「まさかこんな結果になるとは思いもしれなかったけど…」

門の外まで出ると、クリスティーナは言葉少なげに、ぽつりと言った。なぜこんなことになってしまったのか、納得できない思いもあった。しかし彼女は思い直してルイスに言った。

「でもフィルの分までがんばってね、ルイス」

「うん。そうするよ。僕にできることはフィルの分までがんばること。それしかないから」

ルイスは自分にも言い聞かせるように力強く言った。

「クリスティーナも気をつけてね。一人旅は危険だから」

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