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第7章(4)

「まだそんなこと言うの。メンフィスおばあさん。フィルは月の光を持った勇者なんだよ。その彼が僕の影なわけないじゃないか」

「だが、おまえの影は残念ながら、彼なんだよ。ひょっとしたらおまえの持っていた魔法の力が強すぎて、影に人格を与えたのかもしれない。というより、そうとしか考えられないんだよ」

「そんな馬鹿な」

ルイスはどうしても信じられないといった様子で目をしばたたいた。

「フィルもなんか言ってやってくれよ。君が僕の影なんかじゃないってことを」

ルイスはフィルがこんなことは馬鹿げていると、いつものように言ってくれることを期待した。けれどもそれは見事に裏切られてしまった。

「すまない、ルイス。実は俺にも記憶がないんだ。あの川辺の町にいたよりも以前の記憶が」

そう言うと、彼はうつむいて黙ってしまった。

「そんな、そんな馬鹿なことってあるか」

ルイスは吐き捨てるように呟いた。クリスティーナも思わぬ展開に何と言って声をかけたらよいか分からなかった。

「人格を持ってしまった場合、ルイスの影はどうなるんでしょうか」

クリスティーナは気まずい沈黙を破るように、メンフィスに尋ねた。

「もともとの影の主が影の人格を消すしかない」

「人格を消すってどういうことでしょう」

「分かりやすく言えば、殺すということだよ。この場合」

それを聞いたルイスは目を見張った。

「僕がフィルを殺すなんてことできるわけないよ。だったら僕は影なんていらないよ」

「影がなければ、大人になれないんだよ。それでいいのかい」

メンフィスはルイスに尋ねた。

「フィルを殺すぐらいなら、一生子供でいたっていいぐらいさ」

話にならないとばかりに、ルイスは投げ捨てるように言った。その時まで黙って聞いていたフィルが突然口を開いた。

「ばあさん、逆に影が影の主を殺す場合はどうなるんだ」

「その場合は、今まで影だった方が主になり、要は人間になり、人間であった方が影になる」

「今の聞いたか、ルイス」

フィルはルイスに目を向けた。

「俺は人間でもいたいし、大人にもなりたい。そのためだったら、おまえを殺すことも厭わない。戦おうじゃないか。どっちがどっちの影になるのか」

彼はそう言うと、背中にくくりつけていた月の光を引き抜いた。ランプの光を受けて、剣は鈍い光を放った。

「本気で言ってるのか、フィル」

ルイスは戸惑った顔をした。

「俺は本気さ」

フィルは剣を構え、いつでも戦えるといった様子を見せた。

「剣をとれよ」

フィルは部屋の壁にかけてある剣をめざとく見つけると、それを指差した。ルイスはしかたなく言われるままに剣をとった。

「止めようよ、こんな馬鹿なことは」

ほとんど泣きそうな声でルイスは言った。

「おまえが殺さないなら、俺が殺すまでだ」

彼は迷わず、剣をルイスに向けて振りかざした。

「やあっ」

彼のかけ声とともに本当に剣がルイスの顔すれすれまで伸びてきた。ルイスは慌てて自分の持っている剣でその剣を受け止めた。

「ガキッ」

本気だと言わんばかりにフィルは剣に重みをかけてくる。ルイスはぐっとこらえてフィルの剣を力いっぱい突き放した。足元がよろけ、思わず床に手をつく。そこを平然とフィルの刃が突いてくる。

「カンッ、カンッ、カンッ」

右に左にフィルの剣が風のようにかすめていく。ルイスは後退りながら、体勢を立て直す。ためらうことなくフィルは剣を強く打ち込んでくる。

「ガキッ ガキッ」

ルイスはひたすら剣を受け止めた。強烈な一撃がルイスの腕に伝わってくる。この戦いを止めたい。懸命に剣をかわしながら、投げつけられる剣をどうしたら止められるのか、頭の隅ではそんな思考が働いていた。迫りくる剣にルイスは思った。力だ。めっぽう強い力がいる。そうすればこの剣をなぎはらえる。なぎはらえる力があれば、敵をとらえられる。一瞬、目の前にいるのはフィルではなく眼光鋭い敵の姿へと変わった。ルイスの目に真剣な光が宿った。

「ガキッ」

今まで応戦一辺倒だったのに対して、ルイスの剣が初めて攻撃へと転じた。

「ガンッ ガンッ ガンッ」

精一杯の力が剣を伝わり、フィルの剣へと鳴り響いた。二人の剣が共鳴し、辺りに緊迫感を与えていく。真剣に立ち向かう二人の戦いをクリスティーナは固唾を呑んで見つめていた。こんな戦いなど止めて欲しい、そう思えば思うほど、二人の戦いは真摯なものへと変わっていった。


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