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第7章(1)

三人は川辺の町を後にすると、賑やかな町や、簡素な造りの建物が目立つ小さな村を幾つか通り過ぎて行った。そのうち道はまた平野や緩やかな丘へと通じ、山や谷を越えて行くことになった。しかしルイスの足取りは軽かった。あと少しで目的地である影の都に着くのだと思うと、少なからず心が躍った。また今まで嫌というほど、いろいろな道を歩いて来たせいか、ようやくここにきて旅慣れてきたようだった。それはクリスティーナも同様で、三人の歩の運びは今までの中で一番早いものとなった。そのおかげで影の都へは、それほど日数を経ることなく、たどり着くことができた。

 影の都に着いたのは、昼間であったが、都の町中は夕闇が忍び寄ったかのように暗くじめじめしていた。なぜこんなに暗いのか、最初ルイスには理由が分からなかったが、そのうちあることに気がつき、驚きの声をあげた。

「影が動いてる」

大きな声で叫ぶルイスに、フィルは思わず非難の目を向けた。

「当たり前だろ。ここは影が住んでいる影の都なんだから」

そんなことも分からないのかと、迷惑そうにフィルはルイスを見た。

「影の都は影や闇の魔法使い、闇の商人達が住んでいる都なのさ。だから治安はあんまりよくないぜ。ぼやっとしているとどっかに連れて行かれちまうぞ。気をつけろよ」

ルイスは、フィルにそう言われ、改めて見る不思議な光景に違和感を持った。影は紙切れのように、厚さがなく真っ黒な体をしていた。よく見慣れている人についてる影と全く大差なく、目もなければ、口もなかった。確かにそこらにある影と同じなのだが、ついているべき人の姿がなく、勝手に動き回っているのは摩訶不思議であった。

「どうしてこんなに影がいるんだろう」

「さあな。おまえみたいに影のない奴がたくさんいるんじゃないか」

そんなこと俺に聞くなとにべもなくフィルに言った。

「魔法使いもたくさんいるわね」

クリスティーナも驚いたように町中をきょろきょろと見渡した。狭い路地には、とんがり帽子をかぶった魔法使いらしき姿があちこちで見られ、互いの情報をひそひそと交換しあっている様子が印象的であった。また何かの目玉や蛇の皮や毒入りのりんごなど、普通の町では見られない品物を、闇の商人達がさばいている光景も見られた。

「確かに治安は悪そうね」

思わずクリスティーナは肩をすくめると、そう呟いた。

「用がない限りはあまり来たくないところさ」

フィルも同意すると、同じく肩をすくめた。

「で、おまえどうするんだ。影の都に来たのはいいが、この中からおまえの影を見つけるなんてできるのか」

フィルに突っ込まれ、ルイスは困ったように首を振った。

「こんなんじゃ、どれが僕の影なんか分からないよ。いったいどうしたらいいんだろう」

彼は途方にくれたように佇み、魔法使いや商人達が行き交う姿を見つめていた。

「そのおばあさんっていう人は、影の都に来いって行ったのよね」

クリスティーナはルイスに尋ねた。

「うん」

「魔法使いだったら、影を見つける方法とか知っているかもしれないわ」

クリスティーナは側を通り過ぎて行く魔法使いを見つめながらそう答えた。

「そう言われるとそうかもしれない」

「そうかもしれないが、どの魔法使いに声をかけるべきなんだ」

フィルは面倒臭いことになってきたぞとばかりにぼやいた。しかしそれは本当に的を射た話で、このたくさんの魔法使いのうち、誰が信用のおける魔法使いであるかなんてことは誰にも分かりそうもなかった。

「しかたないな。クリスティーナ、おまえの持っている星の石をよこせ。そいつは魔法使いが一番欲しがるものだから、確かな情報を教えてくれるかもしれない」

「いいわ。今渡すわ」

クリスティーナはためらうことなく、星の石をフィルへと渡した。

「おまえらはここで待ってろ。俺がちょっとそこらへんに行って聞いてくるから」

フィルは言うだけ言うと、さっさっと、町中へと姿を消してしまった。

「フィルって、ほんとにいい人ね」

クリスティーナは、ふふっと笑って言った。

「うん、ほんとにそうだね。でもごめんね。僕のために星の石を使わせてしまって」

「いいのよ、そんなことは。気にしないで」

二人は待っている間、闇の商人達がさばいている不思議な品物を見物したり、道の隅でかたまっている影の中に、ルイスの影がいるのではないかと目をこらしたり、魔法使いはどんなことができるのだろうと話し合っていた。フィルは魔法使いを探すのに難航したのか、しばらくの間戻って来なかった。ようやく戻って来た彼は開口一番こう告げた。

「結局方法は分からなかったが、腕のいい魔法使いがいるっていう話は聞けたぜ。そいつに聞けば、分かるかもしれないぞ」

「ほんと。じゃあ、その魔法使いに是非とも会いに行かなくちゃ」

ルイスは瞳を輝かせると、胸の鼓動が早まるのを感じた。影のことなど、もうどうでもよくなっていたはずだったが、実際分かるとなると、はやる心を抑えなければならなかった。自分から逃げ出した影とは、いったいどんな影なのだろうか。

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