第6章(4)
ルイスは不思議そうな顔で聞いた。
「仮に俺だとしても、俺が次の後継者を探すことはできるはずだろ」
「ああ、そうか。なるほど」
「ネオビスには悪いが、俺にはやっぱりこんな大役はできない。何よりも人を助けたいと思っている奴を見つけなきゃいけない」
「じゃあ、それが今後のフィルの旅の目的だね」
ルイスはなるほどと言わんばかりに大きくうなずいた。
「その前に、おまえを影の都に連れて行かなくちゃいけない。俺はネオビスみたいに約束を守らないのは嫌だからな」
「ネオビスさんとの約束って?」
「俺を一人にしないっていう約束だったんだ。でも死んじまったからな」
「そうだったんだ…」
ルイスはフィルが約束という言葉に妙に反応していたことを思い出した。フィルはそのために頑なに守ろうとしていたのかと、ようやくこの時ルイスはその意味を知った。
「影の都はもうすぐなの」
「ああ、この都を過ぎれば、おまえの念願の影の都だ」
「念願ってわけでもないけど、そうか、ようやく着くのか、影の都に」
行けば、すぐにたどり着くと思っていた影の都であったが、気がつけば自分の旅の目的を忘れるほど、様々なことがあり、もうすっかり自分の影の存在のことなど忘れていた。後ろ指指されないために、自分の影を見つける。そんなささいなことなど、もうどうでもいいのではないかとルイスは思い始めていた。その時再びあのおばあさんの言葉が蘇ってきた。
『逃げちゃいけないよ』
いったい何から逃げるというのだろう。そう、僕は逃げも隠れもしないために、自分の影を見つけに来たんだ。もうここまで来てしまったんだから、やはり影の都に行くべきだ。
「フィル、行こう。影の都へ」
「もちろん、連れて行くさ。そのためにも、今日はトンデムの宿でゆっくり休息をとろう。俺もなんだか疲れた」
フィルは笑いながらそう言ったが、その声は本当に寂しげだった。
二人はその後トンデムの宿に戻った。心配していたトンデムとクリスティーナは二人が思ったよりも落ち着いているのを見て胸をなでおろした。三人は何事もなかったかのように食事をとり、湯浴みをし、暖かなベッドに身を横たえて眠りにつこうとした。だが、三人ともそれぞれ思うところがあるためか、なかなか寝付くことができなかった。こうして長い夜は更けていった。
朝になると三人は早々と身支度を整えた。寝不足で少し頭がぼんやりとしていたが、トンデムが食堂で出してくれたコーヒーを飲むと、嘘のようにすっきりした。あつあつのベーコンに焼き立てのパン。新鮮な野菜に甘味のある果物。健康的な食事を取ると、三人の心はみるみるうちに元気になっていった。トンデムはフィル達が食事をとっている間に旅に必要な食糧をたんまりと彼らの荷物に詰め込んでいてくれた。
「ありがとう、トンデムさん」
クリスティーナは感謝の意を込めて、トンデムを抱擁した。
「何、大したことないさ」
トンデムは照れたように笑って答えた。
「ありがとな、トンデム」
相変わらずの仏頂面だったが、フィルはトンデムに礼を述べた。トンデムは大きな手でフィルの頭をぽんと叩くと
「旅が終わったら、またここへ来い。いつでも歓迎するぞ」
と、気さくな笑顔を浮かべながらうなずいた。
「お世話になりました。トンデムさん。それでは僕らは出かけることにします。ありがとうございました」
ルイスは礼を言うと、トンデムの宿を出た。その後ろからクリスティーナとフィルが続いて外に出ると、トンデムが
「元気でな」
と大きな声で言った。三人は振り返ると、トンデムに手を振り影の都へと出発した。




