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第6章(1)

彼らは風見の町を出ると、北へ向かって歩き出した。北へと向かう道は風見の町まで続いていた赤い道とは対照的に、まったく人の手が加えられていない、でこぼこ道で非常に歩きづらかった。しかし三人とも、文句も言わずにひたすらその道を歩き続けた。道はなだらかな丘陸を通り過ぎ、幾つかの林を抜けると、一つの山を越え、そうしてまた平野へと続く道へと変わっていった。その道を数日歩き続けていくうちに、彼らは森の都の中にある川辺の町へとたどり着いた。フィルはこの町に立ち寄ることをひどく毛嫌いしていた。

「あんな町何もないところだ。何も寄らなくてもいいだろ」

と、ぼやいていた。が、しかし食べ物の確保もしなければならないという理由から立ち寄ることになった。今度はちゃんとした宿に泊まろうとルイスとクリスティーナが町中で相談していると、隣にいるものだと思っていたフィルの姿が突然見当たらなくなった。

「あれ、今までここにいたのに」

「どこへ行ったのかしら」

二人が心配そうに声をあげていると、腕っぷしの強そうな髭面の男が二人に話しかけてきた。

「さっきまでいたあの子は、君達の連れかい」

「えっ。はい、そうですが」

「名前はひょっとしてフィルじゃないかい」

男のその言葉に二人はぎょっとした。

「フィルを知っているんですか」

ルイスは驚いて目を丸くしながら男に尋ねた。

「知ってるも何も、あの子はこの町に昔住んでいたんだぜ」

「そうだったんですか。何もフィルは言ってくれないもんだから、そんなこととは知らなかったです」

「まあ、だろうなあ。あんな扱い受けてれば、言いたくもないだろうさ」

と、男はひどく悲しげな表情をして言った。

「扱いって。いったい何があったんですか」

「まあ、立ち話もなんだ。うちの宿に来ないかい」

それを聞いた二人の顔は急に明るくなった。

「僕達ちょうど宿を探してたんです。泊まってもいいですか」

「もちろん、大歓迎さ。さっ、こっちだ」

安心した彼らは、フィルのことを思い出した。

「フィル、大丈夫かしら」

クリスティーナは今度は心底心配そうな声でそう言った。

「うん。たぶん大丈夫だと思うけど…」

ルイスは自信なげに呟いた。

「小さな町だからすぐに見つかるさ。俺があとで探しに行ってやるよ」

と、男は気さくにそう言った。

「ありがとうございます」

二人は男に連れられて、宿とは言いがたい、掘っ立て小屋のような小さな宿へと案内された。

「たいした宿じゃないが、さあさあ入ってくんな」

カウンターには下働きの男が代わりに宿番として入っていた。

「今夜のお客さん達だ。俺の客人でもあるから、丁重にもてなせよ。俺はこちらの客人と少し話があるから、おまえはそのまま番を頼む」

下働きの男は分かりましたと一言言うと、そのまま番を続けた。

男はルイス達を広間に案内すると中央にある大きなテーブルの席へと着かせた。彼は奥の台

所へ行くと、淹れ立ての紅茶を持ってきてくれた。二人はありがたく、その紅茶を頂きながら、フィルの身の上話を聞くことになった。

「フィルの両親って何をしている人だったんですか」

ルイスは、あんなにも剣の達人なのだから両親も剣士か何かなのだろうと、てっきり思い込んでいた。

「両親?」

宿の亭主は驚いた顔をすると、こう言った。

「あいつに、そんな者はいないさ。みなし子だったんだ。ある日突然、この町にふらっと来てな、洞穴に住みついたんだ。おかげであいつは盗みや、何かがあると疑われてな、おまえがやったんだろと、皆に折檻されて、そりゃあ、ひどいもんだったんだ」

「そんなひどいことってあるかしら」

クリスティーナは悲しげに目をしばたたいた。

「誰も止める人はいなかったんですか」

「俺も止めたりはしたんだが、それでも多勢で無勢でな、皆があいつをいじめるのを止めることなんて無理だったんだよ」

宿の亭主は、その頃の自分の不甲斐なさを思い出したのか、自分の額を手で打った。

「けどな、悪いことばかりじゃなかったんだ。あんたらは、知っているかい、勇者ネオビスを」

「勇者ネオビス?」

ルイスとクリスティーナは顔を見合わせて、首をかしげた。

「じゃあ、月の光の所有者のことを知っているかい」

 亭主に尋ねられ、二人はそりゃあもう知っていると言わんばかりに大きくうなずいた。   

「勇者ネオビスはその剣の所有者さ」

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