第4章(10)
「そんなことを言いながら、ヌアクル様はお人が悪いですね」
ラティアスは、ほくそ笑みながら目を細めた。
「あの少女に魔法を習わせるなんて。また道を誤まった者が増えそうですね」
「魔法の才がある者は、言われなくてもいずれ魔法の道へと進むものだ。良い方へ学べば、良い方へ使うだろう。それを願うしかない」
ヌアクルは暗澹たる気持ちで、深いため息をついた。
「それにしても、もう一人の少年は何者でしょうか」
「あの鋭い目つきをした少年か」
今まではからかうような口調で、しゃべっていたラティアスであったが、フィルのことだけに関しては、真面目にヌアクルから意見を聞きたいと思っていた。
「そうだな。確かにあの少年は気になる。何か良からぬ気配を感じた。ある意味…」
「ある意味?」
途中で言葉を止めたヌアクルをラティアスは怪訝そうに見つめる。
「いや、なんでもない。だが、しかし何かあればこの太陽の塔に伝わってくるだろう」
「いつも、あなたは何かあってからですね。そんなこと言ってるからさっきの少女にも言われるんですよ。何もできないのに、あなたはなぜここにいるのかと」
それを聞いたヌアクルは、ふっと笑った。
「ははっ。けれどもそなたような危険分子を見張ることぐらいはできるつもりでいるよ、私は」
「なんのことを言っているのか、私にはさっぱり分かりませんが」
ラティアスも笑って答えると、ヌアクルはラティアスをじっと見返しながらこう告げた。
「まあ、良いだろう。おまえも奴の姿を見て、何か思うところがあっただろうからな。何かする時は、すべてを背負い込むつもりでやってくれ。私からの助言はそんなところだ。さあ、次の訪問者がそろそろ来る頃だろう。おしゃべりは終わりだ」
「はいはい、只今、連れて参ります」
ラティアスは、肩をすくめるとヌアクルのいる部屋から退出し、先ほどの螺旋階段をゆっくりと降りて行った。
「それにしても、ほんとに奇妙な少年だ。あれはいったい…」
彼の脳裏には螺旋のようにぐるぐると疑問がうずまき、しばらくの間それは止まりそうもなかった。




