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第4章(9)

クリスティーナはうなずくしかなかった。魔法というものは、とてつもない力を持ったすばらしいものだと、どこかで思っていたのだが、それは間違いであることに、今気がついた。たとえどんな理念があろうとも、現状を変えることのできない力など、いったい何の役に立つというのか。ヌアクルの言いたいことも分かったが、しかし彼女は、腹立だしさを抑えきれなかった。

「じゃあ、私はどうすればいいんでしょうか。何も変わらなければ私はあの地に戻れない!」

悔しそうに叫ぶ彼女に、ヌアクルは目をやりながら、静かにこう言った。

「見たところ、あなたには魔法の才能が眠っているようです。これよりもっと先に、そう、影の都よりももっと先に魔法の都があります。そこには、多くの魔法使い達が住み、また魔法使いになるための修行場もあります。そこでは魔法の鍛錬も行いますが、それとともに多くの知恵も教わります」

彼が魔法という言葉を口にすると、クリスティーナは驚いた表情をした。

「そこで多くを学べば、あなたや星の都の人々にとって、良いことが何であるかが分かるかもしれません。あなたが魔法を修行し、使えるようになれば、何かが変わるかもしれません。私は確かにあなたより、力を持っています。しかし星の都の実際は私は知らないのです。よく知っているのは、外でもないあなたや、星の都の人々です。本当の力というのは、実際を知っている人にしか宿らないのです。学びなさい。多くを知るのです。知るということも力なのです」

クリスティーナの頭は混乱した。魔法、魔法。魔法ですって。私にそんなものがあるのかしら。単なる石の術者じゃなくて、魔法使い。もし本当に魔法使いになったら、どうなるのかしら。いえいえ、そうじゃなくって、たぶんこんな私じゃなれないでしょう。でも多くの魔法使いがいるというその都でならば、ひょっとしたら力を貸してくれる魔法使いもいるかもしれない。もし誰も力を貸してくれないというのなら、私がやっぱりやるしかないじゃない。力が欲しい。私自身が使える力が欲しい。彼女の中には炎のような野心がめらめらと燃え出し、ヌアクルを見つめるその瞳の中にもそれは姿を現していた。

「分かりました。魔法の都ですね。私はそこに行きます」

冷淡にそう答える彼女の声を聞きながら、ヌアクルは今までになく厳しい口調で言った。

「行くのなら、気をつけて行きなさい。誰もがその都に入れるわけでもないのです。そして誰もが魔法を習えるわけではないのです。もし都に入れたのならば、自分は選ばれた存在であることを自覚することです。先ほど私が言ったことを忘れないで欲しい。私から言えることは、ただそれだけです」

クリスティーナは、分かったようにうなずいた。

「はい。ありがとうございます。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。それではこれで失礼いたします」

彼女は深々とお辞儀をし、踵を返して部屋を出て行こうとした。ヌアクルとクリスティーナの話が終るのを待っていたルイスとフィルは慌てて彼女の後へとついて行った。扉の前では、先ほどここまで案内してくれたラティアスが、穏やかな表情をして待っていた。

「話は済んだようですね。この扉を開けると、一瞬にして塔の外へ出ることができます。私はヌアクル様と話があるので、ここで失礼しますよ」

「いろいろとありがとうございました」

クリスティーナとルイスは、丁寧にお辞儀をした。その後ろで、フィルは、顔色一つ変えずに、じっとラティアスの様子を伺っていた。

「クリスティーナさん。あなたとはいずれまたどこかで会うことがあるかもしれませんね」

扉から出ようとしているクリスティーナに、ラティアスは後ろから声をかけた。彼女は驚いて振り向いたが、足は既に塔の外へと出た後だった。目をやった後ろには、ルイスとフィルの姿と、あの大きな扉があるだけであった。扉はもう閉まっており、その先にあった部屋は忽然と姿を消していた。大きな扉は、次第に薄れて行き、いつのまにか影も形もなくなり消えていった。クリスティーナとルイスは、呆然と目を丸くして立ち尽くすばかりで、今まで塔の中にいたのは嘘ではないかと、思わず頬をつねりたい心境であった。ただフィルだけが、更に不審感を募らせ、ますます警戒した様子で、その銀の塔を睨みつけていた。


「ヌアクル様。いかがでしたか、今の子供達は」

ラティアスは、ルイス達が、完全に塔の外に出たのを見届けると、彼はゆっくりとヌアクルの座している椅子の前へと歩み寄って行った。

「ラティアス、私をからかっているのか」

急に不機嫌そうな声でヌアクルはラティアスに向って言った。

「からかっている。とんでもない。あなたは力さえあれば、来る者は拒まないと言ったでしょうが」

「まあ、確かにそうだが。だがあまりにも危険な者を入れてはならぬだろ」

みるみるうちに曇った表情になっていくヌアクルに、ラティアスはすかさず尋ねた。

「やはり、彼はあのお方なのですね」

「奴の気配を感じた。おそらくそうだろう。分かっているなら、なぜ入れた」

大魔法使いは、鋭くラティアスを問い詰める。

「あなたが、お会いしたいかと思いまして。それにもう危険な人ではないでしょう。あのような姿になってしまい、見たところ記憶もなさそうなご様子でしたし」

「今更会って、なんとする」

「それにしても残念ですね、あれほどの力を持ちながら、憐れな」

常に穏やかな表情を浮かべていたラティアスであったが、この時ばかりは神妙な面持ちで呟いた。それに対してヌアクルは、一切の同情の余地は無しと言った口調で言い切った。

「誤まった者はそれなりに罰を受けるしかない」

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