表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/43

第4章(8)

「いいえ。用がございますのは、私だけです。あとの二人は私の友人です。私のことを心配してついて来てくれたのです」

さっきの広間と同じくらい広いその部屋の壁に、かすれたクリスティーナの声が反響していた。

「それは、それは良いご友人をお持ちのようですね。よろしければあなたのお名前をお聞かせください」

ヌアクルはにっこりと微笑みながら、やさしい眼差しを向けた。クリスティーナは一呼吸おくと、服の裾を少しつまみながら、深々とお辞儀をした。

「クリスティーナ・アースリーと申します」

「クリスティーナさんですね。では、もう少し近くまで来てもらえないでしょうか。話を聞くには、少し距離が遠いようです」

彼女は言われるままにヌアクルの前まで歩いて行った。ルイスとフィルもヌアクルの近くまで行ったが、クリスティーナよりも一歩下がったところで立ち止まり、事の様子を見守ることにした。

「それでは話してもらえますか」

「はい」

そこでクリスティーナは、今の星の都の現状を話し出した。何も育たないが、星の石だけはあるので、なんとかやってはいるが、それでも太陽の日を見られないこの地の生活は、ひどく辛いものがあり、都を離れる者が後を立たないといったことを、彼女はありのままに語った。

「そうですか。私も何度か星の都に立ち寄ったことはありますが、実際暮らしている人々にとっては生活的に厳しい場所かもしれませんね」

ヌアクルは考え深げにうなずきながら、以前行ったことのある星の都を思い出した。

「それであなたは、私に何を具体的にお願いしたいのですか」

クリスティーナは高ぶる気持ちを抑えながらも、冷静な口調で言った。

「星の都にも太陽の日を向けてはもらえないでしょうか」

突然、場の空気がぴりりとした緊張感のある重苦しいものへと変わった。

「今、何と言いましたか、クリスティーナさん」

ヌアクルの眼光が急に険しくなり、その目で見つめられるとクリスティーナは凍りついたように言葉を失った。

「太陽の日を星の都に向けて欲しいと言いましたね?」

代わりに、彼自身がそう呟いた。不機嫌そうなその表情に、クリスティーナは恐れを抱いた。けれども少しして、なんとか声が出るようになると彼女は尋ねた。

「ヌアクル様でもできないのでしょうか」

「できないことはない。だが、それはすべきことではない。クリスティーナさん」

ヌアクルは強い調子で、きっぱりとそう告げた。

「自然に変化をつけるということは、どこかでそのひずみが出てきます。自然は一つながりのものです。星の都に日が当たるようになった代わりに、どこかの都が暗闇に包まれることでしょう。あなたは自分の住んでいる場所さえ良ければ、それでいい人なのですか」

そう聞かれたクリスティーナは目をしばたたきながら、静かにいいえと答えた。

「仮に星の都に日が当たるようになったとしましょう。しかしだからと言って、緑豊かな地になるとは私には到底思えません。緑が育つには、栄養状態の良い土と、適度な水が必要です。あそこの地はそれほど雨は降らないはずですよね。そんなところに、日が当たるようになったとしたら、今度は日陰のない砂漠地帯となるでしょう。そうなれば、もう人が住める場所ではなくなってしまいます。何か一つが足りないので、一つを付け足せば、事足りと思っていたのでは、物事の解決にはなりません」

ヌアクルの一つ一つの言葉が、クリスティーナの胸にぐさり、ぐさりと突き刺さっていく。彼女は自分の浅はかな考えに思わず顔が熱くなり、ヌアクルの顔を静止して見ることができなかった。

「実際にそうなった時は、今言ったこと以外にも、いろんな問題が出てくることでしょう。もともと自然は人が創ったものではないのです。何が起こるか分からない、人智を越えたものなのです。そういったものに手を出す時はそれなりの覚悟や犠牲が必要です。それらの責任を本当にとることができるというなら、それもいいでしょう。しかし実際はそんなことは不可能なのです。無理なのです。よっぽどのことがない限り、それはしてはいけないことです」

彼が語ったことは、実に的を射たことばかりで、クリスティーナに反論の余地はなかった。それでも彼女の中には、沸々と湧き上がってくるものがあった。どうしようもない怒りが、とめどもなく流れ出し、おとなしく聞いていた彼女は、突如挑むようにヌアクルを睨みつけた。

「なら、魔法は何のためにあるのですか。そして何もできないあなたはなぜここにいるのですか」

急に豹変したクリスティーナに、ヌアクルはおやっとした表情をしたが、しかし先ほどと変わらない調子でこう告げた。

「強いて言うなら、生活をより良くするためだろうね。しかし、より良くというのは、本来ほんの些細なことだよ。食べ物を少しだけ長持ちさせる方法や、手元に火種がない時に、一瞬にして辺りを照らす灯りを作るそういったことだった、本来魔法というものは。それがどういうわけか、大きな力を持つ者も現れてきてね。もちろん、大きな力を持つこと自体は問題ではないが、要は使い方を誤る者も多い。魔法という力は確かに個人のものかもしれないが、しかしその大本の能力というのは、生まれてきた時から備わっているものだ。これもまた人智を越えた力だ。魔法の使い手は、技を使うのは自分であるが故に、過信してしまう。この力は自分のものだと。だが、それは違う。自然から与えられた力であることを思い出さなくてはいけない。だから魔法使いは自分の私利私欲のために、決して使ってはいけないし、ましてや人の命を奪ったりもしてはいけない。私がここにいるのは、間違った方向に力を使っていないか、監視するためです。それ以外で私は魔法を使ったりはしません。分かって頂けますか、クリスティーナさん」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ