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第4章(6)

四人は真っ暗な洞窟を歩いていたが、少しするとその洞窟は消え去り、真っ白な日の光が飛び込んできた。しばらくの間、彼らは目を開けることができなかったが、徐々に慣れてくると、その周囲の様子に、声をあげずにはいられなかった。足元には大理石の床が広がり、高い天井には金銀散りばめた見事なシャンデリアがぶら下がっており、その真下には脚が優美に曲がっている幾つものテーブルや椅子が並んでいた。壁にはこれまたあますことなく、銀を敷き詰めて作った飾り棚が、客人を楽しますために置かれている。棚の中には、赤く炎のように燃え上がる宝石もあれば、春の日差しを思わせる薄黄色の美しい布も置かれていた。また、金色の妖精像や、見事な銀細工で作られた鏡など、美しいと名のつくものは全て収めてあるように思えた。


しかし彼らを心底驚かせたのは、そこに集う人々であった。その優美な椅子には、赤いマントを羽織った恰幅のよさそうな男が座っている。立派な髭をたくわえ、反り返るような態度で、側につき従う護衛に文句を言っている。彼の頭の上には、金色の王冠が輝いていた。またたっぷりとした布を使った綺麗なドレスに身を包んだ女性達の姿もあった。彼女らの中にも冠をいだく人物がおり、さながらそこは、王侯貴族達が集う華やかな社交場のようであった。三人はそんな人々など、今まで目の当たりにしたことなど、まったくなかったので、きっとこれは夢か幻に違いないと思った。けれどもなぜか彼らの談笑の声が、しっかりと耳元まで届いてくるのだ。おかげでルイスは何度も目をこすらなければならなかった。四人は、燦々と降り注ぐ光に満ちたその大きな広間を横切り、今度は細い廊下へと出て行った。彼らの話し声が徐々に遠ざかっていく。廊下はさっきの広間と違い、日が当たらず、薄暗くがらんとしていた。ルイスは、ラティアスに恐る恐る尋ねてみた。

「さっきのあの人達は誰ですか」

「君は彼らがかぶっていたものを見なかったのかい」

ラティアスは、微笑を浮かべた。

「ええと、王冠をかぶっていたようですが」

「彼らは紛れもなく王侯貴族だよ」

「ほんとですか」

ルイスは声を大にして叫んだ。

「でもなぜここにいるんだろう」

それを聞いたラティアスが笑って答えた。

「彼らはヌアクル様に相談しにくるのさ。反乱が起きてどうしようもない。食糧難で困っている。どうしたらよいのだろうと、統治に関することを根掘り葉掘り聞きにくるんだ」

笑っていた目元が急に冷ややかな目つきへと変わっていく。

「一国の主が自分の判断で国を統治できないときている。こんな馬鹿々しいことがあっていいと思うかい、君は」

「それはちょっと困ったことですね」

ルイスは眉根を寄せてみた。

「ちょっとどころかとんでもないことさ」

ラティアスは吐き捨てるように呟いた。彼の態度にルイスは少し驚いた。

「でも、あの人達も塔の審査を受けたんですよね」

「それはもちろん。私がちゃんと審査したよ」

だったらなぜと、ルイスは思わず問いただしそうな顔をした。

「私は審査は公正にやっている。私情は挟んじゃいないのさ。ただ個人的には金もまた力の一つだとされているのが、面白くないんだ。おっと、少しおしゃべりが過ぎたな。ヌアクル様の前では今のことは言わないでくれたまえ」

ラティアスは茶目っ気たっぷりに片目をつぶってみせた。

「ええ、もちろんです」

ルイスは苦笑しながらそう答えた。一瞬見せた不満そうな色は、すぐにかき消され、また人の良さそうな顔を見せたラティアスに、ルイスはなんとなく嘘くさいものを感じた。けれどもまた、穏やかな表情で話す彼に、ルイスは警戒心を抱くこともなく、むしろ逆に親近感すら覚えながら、その長い廊下を一緒に歩いた。そのまま歩き続けること数分、彼らの目の前には上へと続く螺旋階段がとぐろを巻いていた。

「ヌアクル様はこの上にいます。急な階段ですから、気をつけてください。あとそうですね、決して私の姿を見失わないように。というより、階段を上っている間は常に、ここに来た目的を考えてください。でないと私の姿が見えなくなりますから」

立ち止まったラティアスは事も無げに、そう告げた。

「あの、それはたどり着けないこともあるということでしょうか」

突然のことで驚きながらもクリスティーナは、ラティアスの目を見ながら尋ねた。

「ええ、そうです。だから気をつけてくださいね」

あっさりとそう答え、彼は微笑を浮かべている。

「それでは、私に着いて来てください」

優雅に青いローブを翻しながらも、その声はきびきびとした調子を含んでいた。彼はさっさとその曲がりくねった階段を上り始めた。三人もその後に続き、階段を上って行く。足をかけてみると、何の変哲もない、ただの階段にしかそれは見えない。魔法やそういった類をあまり好まないフィルにしてみれば、ラティアスの言ったことは単なるはったりで、ルイスやクリスティーナにいたずらに恐れを抱かせるだけだと思っていた。しかししばらくたってみると、それは嘘でも何でもないことに気づかされた。階段がいつまでたっても、終らないのだ。もちろん、前を行く、ラティアスやルイス達の歩いている姿はあるのだが、階段を上り始める前に見た、上の階にたどり着く距離と、今現在自分が歩いている距離はどう見てもかみあわないのだ。

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