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第4章(4)

「ならば、なぜ私を呼ばないのです。私が塔の門番であることをお忘れですか」

「とんでもございません」

兵士はすっとんきょうな声をあげると、恐れたように目を伏せながら、もごもごと口を動かした。

「たかだか子供の願い事です。そんな願いをヌアクル様が聞くとは私には到底思えませんでした。だから、彼らにこの場を立ち去れと言ったのです」

その返事を聞いたラティアスは、おもむろに言った。

「ヌアクル様は来る者は誰も拒みはしませんよ。それが子供であろうと、化け物であろうとね。ただその者がこの塔に入れるかどうかが、問題なだけです。力がある者しかこの塔には入れませんからね。それを調べるのが、私の役目です。あなた方兵士は最初から武器を振り回しながら、やってくる物騒な連中を追い出すのが役割です。そんな年端もいかない子供に槍を向けるのは、お止めなさい」

ルイス達の後ろでは、兵士達がフィルをぐるりと取り囲み、今しも槍で串刺しにしようとしていた。しかしこの若者の言葉により、構えられた槍は下ろされ、皆が一歩後ろへと引き下がった。フィルも、あと一歩のところで背中にある月の光を抜き切ろうとしていたが、敵が引いたのでそうならずに済んだのだった。その様子を見ていたルイスとクリスティーナも、ほっと胸をなでおろした。

「さあさあ、この子達のことは私に任せてください。あなた達は自分の持ち場に戻って、しっかり警護してください。今度は何か事が起きる前に知らせてくださいね」

ラティアスが告げると、集まっていた兵士達はしぶしぶ自分の持ち場へと戻って行った。

「すまなかったね、君達」

彼はルイスとクリスティーナの肩から手を離すと謝った。

「とんでもないです。僕らの方こそ、すみませんでした」

慌ててルイスは叫んだ。

「ははっ。謝るのはこちらですよ。そんなに気にしないでください」

ラティアスは笑いながら、塔に向かって歩き出した。

「それより、あなた達はヌアクル様にお会いしたいとか」

「大魔法使い様のお名前はヌアクル様というのですか」

クリスティーナがおずおずと尋ねた。

「ええ、そうですよ。それでどのようなご用件ですか」

「故郷を救ってくださるようお願いしに来たのです」

ラティアスは歩いている足を止めて、クリスティーナを見やった。

「ほう、それは一大事ですな。しかし残念ながらこの塔は誰でも入れるというわけにはいかないのですよ、お嬢さん」

彼はそう言うと銀色の塔の壁に近づくと、すっと手をかざした。すると見る間に木製の古びた扉が現れた。ラティアスの背後で三人は目を丸くしていた。

「さっ、どうぞ」

ラティアスは丁重に扉を開くと、三人に中へ入るよう勧めた。彼らは、おっかなびっくり中へと入って行った。入ってみると簡素な作りのテーブルと二つの椅子が置かれていた。あとは物らしい物はなく、壁や床は薄っぺらい木の板で作られていた。

「何もなくてびっくりかい」

いたずらっぽい笑みを浮かべながら、彼は扉を閉めた。

「えっ、ええ」

うわのそらと言った感じで、クリスティーナは部屋の様子を見渡した。

「ここは人を審査する部屋だからね。余分の物なんていらないんだよ」

彼はそう言うと、椅子の一つに腰を下ろした。

「まずはお嬢さんから見ますかね。それじゃあ、座ってください」

ラティアスはテーブルを挟んだ真向かいのもう一つの椅子を指差した。クリスティーナが恐る恐るその席に着くと、彼は自分が身につけいてる青いローブの中から大きな丸い玉を取り出した。それは見事な水晶玉であった。澄み切った無色透明な水晶玉は、全てを見通すには十分過ぎるものであった。彼はテーブルに水晶玉を置くと、目を閉じ、神経を集中させた。そうしてラティアスの手が水晶玉へとかざされていった。クリスティーナは顔をこわばらせ、ラティアスの一挙一動を見つめていた。私の心の中を読まれているのだろうか。彼女は思わず身構えるように体を硬くした。ラティアスは一旦手をかざすのを止めてこう言った。

「そんなに気構えなくてもいいですよ。確かに水晶玉は人の心も映し出しますが、私が今見ようとしているのは力のみです」

「さっきから力、力と言っていますが、なぜ塔の中に入るのに力が必要なんですか」

ルイスは不安そうに聞いた。どうみても自分には力というものがないと彼は思っていたからだ。「なぜ塔の中に入るのに力がいるかか。それはとても簡単なことだよ。この塔には魔法がかかっているからさ。力のない者が入ろうとすると、そいつは間違いなく塔の中の圧力に押されて、ぺしゃんこになってしまうだろうよ。だからといって力というのは肉体的な力だけを指しているわけでもない。富や名誉もそれに当たるんだよ。そして魔法の力もね」

ラティアスがそう告げると、ルイスはますます落ち込んだ様子で

「だったら僕には全く関係なさそうだ。僕はここから先は進めなそうですよ」

「それはやってみないと分からないね。彼女が終わったら次は君を見よう」

彼はあっさりそう言うと、また神経を集中させて、水晶玉に手をかざしていった。今度はクリスティーナも落ち着いてきたのか、穏やかな表情で水晶玉を見つめていた。

 ラティアスはその水晶玉の奥底を覗き込んでいく。誰も知らない、底の底を食い入るように見つめ、クリスティーナの意識の中へと入っていく。

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