第4章(3)
しばらくの間彼らの歩くその道は、ずっと一本道であったが、そのうちその道を横切っている大きな通りにぶつかった。左の道も右の道も今まで歩いて来た通りと似たようなもので、人っ子一人見られず、太い大きな幹を持つ木々が同じように静寂を保っていた。彼らは、それらの道に立て札も見られないので、今まで歩いて来た通りをそのまま歩き続けることにした。その後にも彼らの前にはそういった道が幾つも現われたが、どれも似たような様子で、いったいどこに続いているのか、皆目見当もつかなかった。けれども三人はそれらの道には全く見向きもせずにただひたすら黙々と歩き続けた。そうしてようやく道の先にそれらしき姿を認めることができた。
朝の日差しを受けて銀色に輝く、するりと伸びた一本の柱。それこそが、この世界の中心に位置する太陽の塔と言われる建造物であった。無機質ななんの彫刻も見られない細長い塔は、じっと押し黙ったまま世界を眺めていた。ルイスはその姿を見ると、ひどくがっかりしたような気分になった。太陽の塔と言うからにはもっと温かみがあって、壮大な建造物に違いないと思っていたのだが、今目の前にあるものは、なんと味気なくて殺風景なのかと思わざるを得なかったのだ。自分がこうなのだから、クリスティーナはさぞやがっかりしていることだろうと先を歩いている彼女に目をやった。しかし彼女はルイスが思っているほど落胆などはしていなかった。それよりも更に背筋を伸ばして、緊張の面持ちと明るい瞳をその塔へと向けていた。ここでなら、どんなことも可能かもしれない。そんな期待を彼女は強くしていた。
こうして太陽の塔の前に彼らがたどり着いてみると、塔自体だけではなく、周りの警護も閑散としており、ますます殺風景な景観を与えていた。とても世界の中心とは思えない有様に、さすがのフィルも呆れ顔であった。けれどもそうは言っても、塔は間近で見ると、とてつもなく大きな円筒形をしていた。一周するのに少し時間が要りそうである。しかも不思議なことにこの建物には継ぎ目というものが全く見当たらなかった。煉瓦で積み上げてあれば、その煉瓦の一つ一つの形が浮き彫りになっているが、太陽の塔は、まるで全てを一枚の板でくるんでしまったように、でこぼこしているところが全くないのだ。すべすべとした銀色の壁がずっと続き、それは極めて均等に作られているようだったが、一方でそれはひどく退屈な印象を与えていた。ルイス達は、塔の入口はどこなのだろうと、うろうろしていると警護をしていた二、三人の兵士達がすぐさま駆けつけて来た。
「おまえらいったいそこで何をしているんだ。ここは子供の来るような場所じゃないぞ」
一人の兵士が物凄い剣幕で怒鳴った。
「待ってください。私はこの塔の大魔法使い様に会うためにはるばるやって来たんです。どうしてもお願いしたいことがあるのです」
クリスティーナは兵士の怒鳴り声に負けじと、はっきりとした口調で言い返した。
「なんだと。子供の願いにつき合うほど、ヌアクル様は暇じゃないんだぞ。さあ、さっさっと帰るんだ」
兵士はそう言うと、クリスティーナの体を無理矢理反転させると、そのままぐいぐい押して塔の外へと追い出そうとした。と、フィルがいきなり兵士に向けて勢いよく体当たりをした。
「痛っ。何するんだ、この餓鬼」
たまらずその兵士が、どんと尻餅をつくと、側にいた兵士達が急に色めき立ち、持っている槍をフィルめがけて、いっせいに突き出してきた。彼はひょいひょいそれらをかわすと、呆気にとられているルイスに目配せを送った。ルイスは、はっとすると隣で困ったように立ち尽くしているクリスティーナの手を引っ張り、塔に向けて一気に駆け出した。フィルにばかり気を取られていた兵士達も、そのうちルイス達に気がつき、彼らの後を追って駆け出した。
「待て! そこの二人」
二人を呼び止める兵士達の声が後から追いかけてくるのを聞きながら、ルイスとクリスティーナは塔の入り口目指して必死に走った。しかし、そのすべすべとした壁にはドアらしいものは見当たらず、二人の焦りは頂点に達していた。その時
「なんですか、いったい。騒々しい」
急に今までの兵士達とは違う声が、突然ルイス達の耳元に聞こえてきた。と思う間もなく、二人の肩はがっしりとした男の手につかまれた。ルイスとクリスティーナは驚いたように顔を上げた。見ると彼らの前には、力強い手とは縁遠い若者が立っていた。すらりと伸びた長身と、肩まである艶やかな栗色の巻き毛、そして愛嬌のある黒い目をしきりに動かし、事の事態を見極めようとしていた。
「ああ、ラティアス様。この子供達がヌアクル様に用があると言って、塔の中に入ろうとしたのです」
ルイス達を怒鳴りつけた兵士が、さっと前に出てくると、ラティアスに敬意を払って答えた。




