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第4章(2)

「そうか、それはよかった。俺達はこれから外にちょっと出かけてくる。夕方までには戻って来るから、よろしく頼む」

フィルは言いたいことだけ言うと、さっさと宿のドアを押し開け、出て行ってしまった。残された二人は亭主に頭を下げると、慌ててフィルの後を追って駆け出した。

 二人が宿の外に出てみると、昨日通ってきた路地の前で立ち止まっているフィルの姿があった。

「ああ、びっくりした。まさか、フィルがまたあの宿屋に泊まるなんて言い出すなんて思わなかったよ」

ルイスはフィルの側によると、驚きの声をあげた。

「ほんと、ほんと。私もそんなこと、ちっとも思わなかったもの」

クリスティーナもひどく驚いた様子で、相槌を打った。

「だって、そうだろ。星の石ってだいぶ高価なものなんだろ。それで一泊だけなんて。それに俺は、星の石をもらうために、おまえに何日もつきあってるんだ。はっきり言って面白くない。あとこれから行く太陽の塔っていうのは、なんだか肩が懲りそうな場所みたいだしな。おまえらだって疲れるだろ。だったら、宿に泊まった方がいいのかって思ったまでさ」

仏頂面のフィルは、仕方なさそうに肩をすくめた。それを聞いた二人は思わず顔を見合わせた。二人とも目の奥に笑いを潜ませていたが、フィルの前ではそんなことはおくびにも出さずうなずいた。

「そうだね。フィルの言う通りだ。太陽の塔ってどんなところか、分からないし。僕とクリスティーナにとっては宿に泊まってくれると助かるよ」

ルイスは、フィルはフィルなりに気をまわしているのだと思うとなんだかおかしく、けれどもそれを微笑ましく感じていた。

「そうね。フィルにはここまで来るまでに、とても助けられたわ。それに対して宿一泊分だけで、同じ物が得られるなんて、不公平かもね。けど私の感謝の気持ちは全然違うわ。宿屋の主人に対しては、ほとんど感謝なんてこれっぽっちもないけど、フィルに対してはたくさんあるわ。目には見えないけれど、これは本当よ。ありがとう、フィル。さあ、太陽の塔へ行きましょう。私の旅もフィルに課せられた義務も終わらせましょうよ」

クリスティーナが率直に言うと、フィルは照れくさそうに目を伏せた。ルイスは二人に言った。

「じゃあ、行こうよ。太陽の塔へ」


三人は昨日通ってきた路地を、今度は逆方向にたどり始めた。だが、時間も早いせいか、昨日のような混み合いに出くわすことはなく、順調な足取りで進むことができた。たくさんの路地を通り過ぎ、ようやく最初にたどり着いた場所に戻ってみると、軒をつらねた店の通りとは別に、左の端に大きな通りがあるのが分かった。その通りには家らしいものは一軒も建っておらず、代わりに赤い道に植えられたような並木が延々と続いていた。ただその並木は赤い道の木々とは比べものにならないほど年月を経ていた。太い幹にはごつごつとした拳のようなこぶが幾つも作られ、葉は鬱蒼とおい茂り、木のてっぺんは見上げても見上げ切ることができないほどであった。また店や宿のある路地とは対照的に、この通りには人らしき姿はほとんど見えず、森閑とした様相を呈していた。彼らはこの通りに足を踏み入れると、自然と背筋の伸びる思いがした。どことなくぴんと張り詰めた空気が辺りを包んでいて、声を出すこともはばかられた。そのせいか三人とも一言も言葉を漏らさずに、そそくさと木々の前を通り過ぎて行こうとした。クリスティーナは立ち並んでいる木々達が、こちらに向かって押し寄せてくるような奇妙な圧迫感を感じていた。


ひょっとして、木達が私達を見張っているのかしら。とっさに視線を街路樹へと移してみたが、そんな様子はどこにも見当たらなかった。というより、彼女自身が木々を凝視することができず、結局目を伏せてしまうのだ。確かめたい反面、それを目の当たりにした時、いったい何が起こるのか、彼女には全く予想することができなかった。そう考えると、このまま知らない風を装い歩いて行くことが、一番の得策であるように思えた。そのため彼女の足は知らず知らずのうちに早まって行き、いつのまにか先頭を歩いていたフィルを追い抜いていた。抜かされたフィルは最初のうちは何とも思わなかったが、彼女の急ぎようがまるで何かに追われているように見えたので思わず後ろを振り返ってみた。しかし彼の目には後からついて来るルイスの姿と何の変哲もない並木道しか目には入らなかった。


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