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第4章(1)

翌朝三人は、早くから起き出し、それぞれの身支度を整え出した。髪をとかし、着ていく服に汚れやほころびがないか、もう一度丁寧に見直し、服に袖を通していった。クリスティーナは空の色を映しとったような淡い水色の、ひと続きの服を着ると、しゅすでできた艶やかな青色の紐で腰の辺りをぎゅっと縛った。

「うわあ、そんなリボンなんかしてると、クリスティーナはまるでお姫様みたいだね」

ルイスが思わず声をあげると、クリスティーナは恥ずかしそうに一瞬顔を赤らめた。

「私のことはいいから、ルイス達は準備できたの」

「僕は全然平気だけどね」

そう言うと、ルイスはぱりっとした白いシャツの一番上のボタンをきっちりと留め、はいている茶色のズボンもサスペンダーでしっかりと吊り上げた。

「フィル。ほら、ちゃんと着ろよ」

彼もまたルイスと同じ白いシャツを着ていたのだが、どういうわけかルイスと同じような見栄えの良さというものが、どこにも見つからなかった。襟元のボタンは、まだ半開きで、袖の方も申し訳なさそうによれよれとしわが寄っている。

「ボタン締めろよ」

「嫌だね」

フィルがぶっきらぼうにそう言うと、ルイスは彼の首元に手を伸ばし、素早くボタンを留めた。

「おい、何するんだ。全く息が詰まるぜ」

彼は大きな声で抗議すると、かなぐり捨てるようにまたボタンをはずした。

「ああ、なんではずすんだよ」

ルイスは怒ってフィルをじろりと見た。

「ルイス、いいわよ。ボタンぐらいしていなくても」

クリスティーナは慌てて、二人の間に割って入ると取り成した。

「そうかな」

「ええ、きっと平気よ。それにあなた達、こうやって並んでいると、まるで」

クリスティーナは何か言いかけながら、並んでいる二人を見やった。すると、うっすらと微笑みすら浮かべていた彼女の顔が見る見るうちに青くなっていった。そんなクリスティーナに、ルイスは不審げな目を向けた。

「まるで、何なの」

ルイスの問いかけにクリスティーナは、はっとすると、ひどくかすれた声で呟いた。

「まるで、そう、まるで。兄弟みたいね。あなた達、なんだか似ているわ」

それを聞いたルイスは今しがた矢で貫かれた人のように動きを止めた。見開かれた目は瞬きもせず、じっと一点だけを見つめている。動いているのは胸の鼓動だけで、それはどくどくと鳴り響いていた。あまりにも突飛な意見に、ルイスは声を出すことも忘れていた。けれどもフィルは黙っていなかった。

「おまえ、訳の分からないこと言うな。なんで俺がこいつと似ているんだ。どこからどう見ても、似てないじゃないか。髪の色だって、目の色だって違う。性格も見ての通り、大違いだぜ。あんまり変なこと言うな」

フィルは憤慨した様子で言葉を投げつけた。

「えっ、ええ」

クリスティーナはフィルの強い調子に押されて、弱々しく答えた。彼女はフィルが指摘した点については、明らかにその通りだと思った。似ているなどと言ってしまった自分がおかしいのだろうか。けれどもそうやって並んでいると、やはりどこか似ているのだ。フィルの言う通り、色は違う。フィルの髪は、赤茶だがルイスは金髪だ。瞳の色もフィルは茶だが、ルイスは濃い緑色をしている。ぱっと見ただけでは、どう見ても似ているようには見えない。以前は特にそうだった。それはフィルの顔が薄汚れていて、透けるような白い肌が隠されていたからだ。尚且つ、髪の毛も四方八方から飛び出ていたので余計そんな風に見えなかったのだ。しかし今はどうだろう。似たような白い肌に、きちんと梳かれた髪で、二人が並ぶと姿形がひどく似ていることに気づかされる。奇妙な一致にクリスティーナは胸騒ぎを覚えたが、何の確証もないのでこの場はこのまま引き下がろうと考えた。彼女はそう思い口をつぐんだ。フィルはふんと鼻を鳴らすと、自分の脇で立ち尽くしているルイスをうさん臭そうに眺めやった。

「おい、早くしなくていいのかよ。そんなところでぼさっとしている場合じゃないんだろ」

フィルに言われて、ルイスは慌てて正気を取り戻した。そうだった。こんなところでもたもたしている場合じゃない。けれどもルイスもまた、心の奥で何かがうずまいているのを感じていた。しかしそれはよく分からない不安であって、彼にはどうすることもできないものであった。ここで悩んでいるよりも、現実的なことをしようとルイスは自分に言い聞かせ、その不安をどこかへと押しやってしまった。

三人は全ての準備が整うと、宿屋の階下へと降りて行った。見ると、宿屋の亭主がカウンターで帳簿をつけている。クリスティーナは宿代として星の石を置いていこうとしたが、それを遮るようにフィルが主人に話しかけた。

「おい、宿屋の主人」

「これは、これは、おはようございます。もう、お立ちですか」

主人は商売用の作り笑いを浮かべながら、フィルに尋ねた。

「それなんだが、実は今日も一泊したいと考えてるんだ。宿の代金が星の石なら、あと一泊したってお釣りがくるくらいのもんだろ」

そう言われた主人は、心なしかちらりと視線をはずした。だがすぐに愛想よく笑ってそれに答えた。

「ええ、もちろんですとも。星の石には、それくらいの価値はありますよ。どうぞ、どうぞ。今日もお泊りください」

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