Lv.97 夢のように
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何が、起きた。
シルヴァが黄金卿に止めを刺そうとした時、唐突に血を吐いて倒れた。
シルヴァの顔から血の気が急激に引いて、まるで死人のような顔になった。
何かを喋っているけど、遠くて聞こえない。
聞こうと耳を立てた時、立ちあがろうとした時。
シルヴァが拘束していたキャットがボロボロの鎖を引きちぎって、私を全力で殴った。
壁に叩きつけられる。ミシミシと嫌な音が聞こえ、壁が崩れて外に放り出される。
落下していく中で、キャットが私に向かって飛び降りてくる。止めを刺そうと追ってきている。
もう指一本動かせない。いや、指先は既に悪夢と化していた。
私は目を閉じ、自分自身の死を覚悟した。
落下の衝撃か、キャットの攻撃が先か、それとも悪夢と成り果てるのが先か。
私は……
死ぬなら、夢のように消えたいな。と思った。
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シルヴァが死ぬ……そのことだけがはっきりしていた。
だから穴の空いた体を動かし、魔導書を取り出す。
魔力を込めて魔術を放つが、大した威力にはならなかった。
あたしの放った魔術は黄金卿の体にポフリと当たり、夢のように消えた。
ファイがあたしの方に向かって向かってくる。その手には、黄金のバリスタが装着されている。
どうやらあたしがさっきまで魔術を必死に撃っていたのは、黄金卿ではなく代役として下の階からやってきたファイだったようだ。今、あたしの目の前には下の階へと続いている穴が見える。
自分自身が嫌になる。何もできない。
結局、才能が云々よりも、あたしには元から何もできなかったようだ。
目を閉じ、流れ出る血の音を聞く。
こんなことなら、夢のように消えてしまいたい。
と思った。
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「んが」
目が覚める。寒い。ここはどこだ。
というか暗い。思いっきり足を伸ばし、自分のいる空間を確かめる。
「痛った!?!? なんやこのクソ狭空間! っていうか寒!」
ジタバタと暴れるが、前も後ろも上も下も、少しの空間しかないようだ。どれくらいの空間かと言うと、自分の体を囲う程度の広さだ。快適空間とは程遠い。
思い切り正面の壁を蹴る。
すると、少し隙間ができた。新鮮な空気と共に、冷気が流れ込んでくる。
「うっひゃ……さむ……」
隙間も真っ暗で、手を差し込まなければ判別できないほど。
その隙間を強引に手で広げ、少し前に進む。いや、少しは少し。本当に数センチ程度だ。
手探りで壁を触る。木だ。正面は木。しかし正面以外は若干ふんわりしている。クッション入りの布だろうか。
いや、待てよ。
周囲の空間をペタペタと触る。
「……これは、入れ物の中に入ってるんか?」
何か自分は入れ物のようなものに入っているようだった。
さっき手で広げたのは、蓋のようなものだったのだろう。
ならこの正面のは、入れ物を入れている物。外界に通じている可能性は大いにある。
手の届く範囲で正面の壁を探る。すると、小さなスイッチのようなものがあった。試しに押してみると、正面の壁がパカりと開いた。
光が眩しい。いや、あんまり眩しくないかもしれない。この際なんでもいい。
「あ〜! 外や〜!」
久々のシャバ。大きく息を吸い込む。
「へくちっ! クソが……寒くてたまらんわ」
周囲を見渡すと、自分の船の上だった。振り返ると、そこにはポッカリと口を開けたマストが立っていた。中には自分の古い名前が書かれた棺が埋め込まれていた。
長く忘れていたことを、鮮明に思い出す。
「…………そうか。聖櫃ってそういうことやったんか」
そう呟き、頭上を見上げる。
黄金郷の頂上付近で、黒い竜が飛んでいる。
船の舵を掴み、思い切り引っ張る。
ボロボロの船は船首を上げ、空という大海に漕ぎ出した。
「一つ、自分自身のために。二つ、仲間のために。三つ、同族のために。四つ、夢のために〜♪」
歌を歌い、涙を流す。
自分自身の贖罪は、自分の手でやるとも。
要するに、八つ当たりの始まりだった。
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