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98/104

Lv.96 負け

「何をされたか不思議だろう? どうして。今、勝てる寸前だったというのに……って」


「我が何もできないほどに弱っている状態だから、勝ちを確信したろ?」


「お前と我……いや、この僕とでは生きていた時間が違う。僕は何度も死にかけた。黄金卿の名を得るまで僕は、ただの弱者だった。お前の何倍も死にかけて、そのたび生き延びて……」


「全てはこの世界を……いや、黄金卿としての願いなんてどうでもいい」


「僕はただ、この世界に復讐したいがために。気が遠くなるような時間を過ごしてきたんだ。お前と同じようにな」




黄金卿は俺の左胸を人差し指の先で押し込む。


「最初にお前に右腕を悪夢(ナイトメア)にした時、お前の右腕の悪夢(ナイトメア)はお前の体内に侵入した」


黄金卿は人差し指で俺の胸をほじくり、体の中から一本の小さな黒い触手を取り出した。


「この触手はお前の腕から肩に、肩から血管に、血管から心臓に。着実に進んだ」


黄金卿はその触手を俺の正面にぶら下げる。

生きているように蠢くその触手は、まるで「やってやったぜ」と言わんばかりに踊っている。


「お前がレベルアップした時、血管の中で小さく縮こまった。レベルアップによる回復を避けるために、まるで害の無い物として体に認識させた。お前のピアス穴がレベルアップで塞がらないのは、体が害は無い物として認識しているからだ」

「黄金卿、お身体がずれてきています」

「そうか」


ファイが鎖をちぎり、黄金卿の側に跪く。

黄金卿は自分の体を軽く叩き、ズレを直した。


「さて、この悪夢(ナイトメア)は心臓の近くで息を潜めて待った。お前がレベルアップする瞬間を。レベルアップした直後は、レベルアップできないからだ。せっかく心臓をこの悪夢(ナイトメア)が突き破っても、すぐに回復されては意味がない。そして、その時が来た」


「お前はレベルアップし、その体は無傷そのものとなった。あとは僕がやられるフリをして、悪夢(ナイトメア)が心臓を突き破る準備が整うまで時間を稼いだ。まんまと乗ってくれて、笑いが漏れそうになったよ。いや、思い返すと口はニヤけてたかな。隠しておいて正解だね」


黄金卿はクスクスと笑う。

そして手の中の悪夢(ナイトメア)を握りつぶし、俺をさらに持ち上げた。視線の高さを合わせ、じっと俺の目を見る。


「今一番警戒している金の鎖も、まだ地上だ。お前の死は確定した」


黄金卿は黄金剣をファイから受け取り、俺の首に突きつけた。


「レベルアップされる前に殺す」


そして剣を勢いよく引いた。

その時。

小さな魔術が黄金卿の背中に当たる。


「やらせ……ないわよ……」

「『至宝譲渡』。眷属、相手をしてやれ」

「はっ!」


黄金卿の言葉で、ファイが瀕死のコーネリアに向かっていく。

その手には、黄金のバリスタが装着されていた。


「それじゃあ永遠の眠りを楽しめよ。……ま、悪夢(ナイトメア)としてすぐに地上に戻ってくるがな」


黄金卿は俺の首に、黄金剣を深く突き刺した……

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