Lv.96 負け
「何をされたか不思議だろう? どうして。今、勝てる寸前だったというのに……って」
「我が何もできないほどに弱っている状態だから、勝ちを確信したろ?」
「お前と我……いや、この僕とでは生きていた時間が違う。僕は何度も死にかけた。黄金卿の名を得るまで僕は、ただの弱者だった。お前の何倍も死にかけて、そのたび生き延びて……」
「全てはこの世界を……いや、黄金卿としての願いなんてどうでもいい」
「僕はただ、この世界に復讐したいがために。気が遠くなるような時間を過ごしてきたんだ。お前と同じようにな」
黄金卿は俺の左胸を人差し指の先で押し込む。
「最初にお前に右腕を悪夢にした時、お前の右腕の悪夢はお前の体内に侵入した」
黄金卿は人差し指で俺の胸をほじくり、体の中から一本の小さな黒い触手を取り出した。
「この触手はお前の腕から肩に、肩から血管に、血管から心臓に。着実に進んだ」
黄金卿はその触手を俺の正面にぶら下げる。
生きているように蠢くその触手は、まるで「やってやったぜ」と言わんばかりに踊っている。
「お前がレベルアップした時、血管の中で小さく縮こまった。レベルアップによる回復を避けるために、まるで害の無い物として体に認識させた。お前のピアス穴がレベルアップで塞がらないのは、体が害は無い物として認識しているからだ」
「黄金卿、お身体がずれてきています」
「そうか」
ファイが鎖をちぎり、黄金卿の側に跪く。
黄金卿は自分の体を軽く叩き、ズレを直した。
「さて、この悪夢は心臓の近くで息を潜めて待った。お前がレベルアップする瞬間を。レベルアップした直後は、レベルアップできないからだ。せっかく心臓をこの悪夢が突き破っても、すぐに回復されては意味がない。そして、その時が来た」
「お前はレベルアップし、その体は無傷そのものとなった。あとは僕がやられるフリをして、悪夢が心臓を突き破る準備が整うまで時間を稼いだ。まんまと乗ってくれて、笑いが漏れそうになったよ。いや、思い返すと口はニヤけてたかな。隠しておいて正解だね」
黄金卿はクスクスと笑う。
そして手の中の悪夢を握りつぶし、俺をさらに持ち上げた。視線の高さを合わせ、じっと俺の目を見る。
「今一番警戒している金の鎖も、まだ地上だ。お前の死は確定した」
黄金卿は黄金剣をファイから受け取り、俺の首に突きつけた。
「レベルアップされる前に殺す」
そして剣を勢いよく引いた。
その時。
小さな魔術が黄金卿の背中に当たる。
「やらせ……ないわよ……」
「『至宝譲渡』。眷属、相手をしてやれ」
「はっ!」
黄金卿の言葉で、ファイが瀕死のコーネリアに向かっていく。
その手には、黄金のバリスタが装着されていた。
「それじゃあ永遠の眠りを楽しめよ。……ま、悪夢としてすぐに地上に戻ってくるがな」
黄金卿は俺の首に、黄金剣を深く突き刺した……
・感想
・いいね
・ブックマーク
・評価等
よろしくお願いします。




