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Lv.91 黄金卿

__________________________/

『テレレテッテレ〜♪』

『レベルが上がりました〜!』


「え?」


俺は背後にいるアルの方へ振り返る。


「どうしたの?」

「いや……誰か俺の事呼んだ?」

「呼んでないわよ、アルもあたしも。レベル上がった音じゃないの?」

「そうか……」

「というかそんな話するなら早く上がって? この階段妙に狭いし長いのよ」


俺達は吟遊詩人と別れた後、部屋奥にある階段を登った。


「そういえば結局、吟遊詩人の名前を聞きそびれたな」

「全部終わったら聞けばいいのよ、そんなの」

「そうだよ。それに私も名前知らないし」

「アルは流石に知ってるだろ……?」

「首領や吟遊詩人の事は誰も知らないよ。首領に至っては素顔も見た事ないし」

「変な組織だな……それでよく人が着いてくるな」

「逆じゃないの? それだけ魔物に恨みのある人間が多い。そう言うことよね?」

「うん」

「そっか……そんなに魔物って凶悪なんだな」


俺の旅の中で、魔物によってピンチに陥った事など少なかった。

魔物の数が多いので逃走する。その日の晩御飯として魔物を狩る。

魔物と出会った時は、その二つの選択肢が基本だった。前者の場合はそのまま逃げ、後者の場合はみんなで狩るので大した強いと思った事はなかった。

一対一でも……いや、俺を基準にしてはいけないな。


「お、階段が終わるぞ」


俺は残りの数段を一気に駆け上がり、二十階層へと到達する。

二十階層も十九階層と変わらず、だだっ広い空間が広がっていた。違ったのは、部屋の中心に大きな黄金造りの椅子が置いてあった。

そこには、あの黒髪のマントで体を隠した男。黄金卿が座っていた。


「ようやく来たね。遅すぎて眠っちゃうところだったよ」


黄金卿は、ゆっくりと椅子から立ち上がる。


「お前の目的はなんだ、黄金卿」

「聞いてないの?」

「お前に聞けって言われてな」


黄金卿は愉快そうな表情をしながら、考えるような仕草をした。


「じゃあここで問題を出そう。僕が人類を滅ぼそうとしている理由はなんででしょう」

「知るかよ」


俺は少しイラつきながら答える。クイズなんてやる気じゃない。

それに、タイムリミットも近い。俺のレベルは80。この黄金卿を倒せばいくつ経験値が入るか知らないが、ゲームで言うところのラスボス。一気に入った経験値でレベルが101になってそのまま……という事も考えれる。

タイムリミットはそれだけじゃない。俺の右手の先が悪夢(ナイトメア)になったあの現象。レベルアップしたおかげで今は普通の右手だが、それがアルやコーネリア、セレンも同じことになると治るかわからない。

今俺ができる最善の策は、勝手にレベルアップして黄金卿分の経験値でレベル101になる前かつ、全生命体が悪夢(ナイトメア)化する前に黄金卿を倒す事だ。


「それじゃクイズにならないよ。他の人は考えつくかな?」

「ふん。どうせ世界征服とかでしょ」


コーネリアが適当に答える。

あおれに対して、黄金卿は少し苦い顔をした。


「う〜ん間違っていないような合ってるような。正確には、世界でただ一人の生命体となる。だ」

「何言ってるの?」

「何言ってんだ?」

「頭おかしいのよ。さっさと倒しましょ」


黄金卿はやれやれと言った顔で、首を振った。


「この世は人間の欲で溢れている。君達も見てきただろう? 何かをしたい、手に入れたい。そんな気持ちで色々なことをする者達を。金欲しさに他人の命を差し出す者、願い叶えたさに邪神に他の命を捧げる者、他人の命を奪う事をむしろ楽しみにする者、自分の信じる者のために他人を呪い殺さんとする者。結局この世はみんな自分のために生きてるんだよ」

「その例に挙げたうちの半分はお前の手下だがな」

「まぁそれは必要犠牲と書かれた箱にでも入れて置いてくれ。……結局のところみんな自分が大事なんだよ。それなのにみんな協力だ信頼だどうだこうだと御託を並べて、綺麗事を夢見る。そんな夢物語のせいで犠牲になる奴等がいると言うのに、本人達は前しか見ない。だから、全てを止める。全生命体を悪夢(ナイトメア)と化し、死も、生も、自分も、他人も、誰も裏切る事はなく、誰も信じる事はない。そんな平和な世界を、僕は……いや、我は作る」

「それが平和? 冗談だろ?」


しかし、黄金卿の目はマジだった。

黄金卿は大きく腕を広げ、足を大きく踏み鳴らした。


「それが虐げられた、裏切られた、死んだ者達の願い! 我はそれを背負ってお前達を打ち倒し、この世界を平和にする!」

「なんか熱く語ってるけど、他にも方法あるだろうが」

悪夢(ナイトメア)は死者だ。死者と、死んだ家族とも同じように生活できる。それら全てを同時に成し得るのは、この方法以外ない。邪魔するならば、容赦はしない!」


黄金卿はマントをバサリと広げた。その体は黄金卿の名に恥じないほどの、黄金の鎧を纏っていた。

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