Lv.89 空中海戦
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「ヒャハハハハハハ! そんなもんかこんのクソドラゴンがぁ!」
今日何度目かの激突。船のパーツや悪夢化した黄金竜の肉片が剥がれ落ち、目下に広がるラピスラズリ国に落ちていく。
黄金竜は吹き飛ばされ、ピンボールのように黄金郷にぶつかる。
セレンは真・勇気あるもの達聖櫃の舵を回し、黄金竜から距離を取る。
「装填よ〜し! てぇッ!」
船の側面からの砲撃が、離れた黄金竜の脇腹を破壊する。黒い触手、悪夢がいくつか剥がれ落ちる。しかし、すぐに内側から悪夢が湧き出して傷口を塞ぐ。
「か〜っ! 丈夫すぎやろうが!」
本日何度目かの悪態を漏らしながら、セレンは舵をぶん回す。船は空中で方向転換し、船首を黄金竜の方に向ける。
舵を押し込み、船を一旦沈みこませ。一気に舵を引いて船を上昇させる。
船は一切の減速をせずに、黄金竜の腹を下から突き上げる。それはまるで、ボクサーのアッパーカットのようだった。
「オォォォォ……オォォォォロ・シルヴァァァァァ!」
黄金竜は叫び、喉の奥に黄金の煌めきが見える。
セレンは舵を回し、その場で船を一回転させる。
「まだまだぁ!」
セレンは思い切り舵を押し込み、船首は下を向く。
船のお尻部分で黄金竜の下顎を押し上げ、ブレスを黄金郷に向けて吐かせる。
船がサマーソルトを決めたようで、その芸術展は計り知れない。
苦しそうにもがく黄金竜に対して、セレンは慈悲をかけない。
舵を回して船を回す。船首、船のお尻、船首、船のお尻を交互に黄金竜にぶつける。
「おrrrrrrらァ! 抜けれるもんなら抜けてみろやァァァァ!」
獣のような咆哮を上げながら、黄金竜は霧散する。霧散した黄金竜の中から、悪夢と化したウリエルが落下する。
「竜化!」
落下したウリエルがそう叫ぶと、ウリエルの周囲に悪夢が集まる。それらはすぐに竜の形をとり、あっという間に悪夢と化した黄金竜が現れる。
「うっぜぇ! なんやお前逃げとるんちゃうぞ! 誰が抜けていい言うたんや!」
「シルヴァァァァァ!!」
黄金竜はセレンめがけて。セレンの船めがけてブレスを吐く。
「その芸当はお前のものだけやないんやぞ!」
眩しい光が船を包み、船は小さなペンダントに変わる。セレンはそれをしっかり握り込み、ポケットからマントを取り出し体を包む。
「【秘宝:神出鬼没マント】!」
悪夢化した黄金竜から放たれた黄金のブレスは、セレンを消し炭に変えた。
黄金竜は満足し、本来の標的であるオーロ・シルヴァの元へと向かう。
黄金竜は黄金郷の形に沿いながら、上に向かって飛んでいく。
黄金郷の底部を抜け、台地部分に差し掛かった時。黄金竜の目には信じられないものが映った。
「よォ。待っとったでクソッタレ」
黄金郷の台地部分に乱立していた遺跡群の上に立つ、黄金竜と同じほどの大きさの大砲。その砲身は、黄金竜の頭に着くほど近かった。
「消し飛べやボケナスが」
大砲の上に立ったセレンが手元のボタンを押す。すると一瞬の無音が世界を包み込んだ。
最初に生まれたのは、光だった。
光がセレンから、いや。大砲の中から溢れ出す。
次に生まれたのは、視覚。
巨大な大砲の弾が残像を残しながら、黄金竜の頭から前脚にかけてを破砕する。そのまま大砲の弾は地平線へと飛んでいった。
最後に生まれたのは、音。
鼓膜を引き裂くほどの強烈な音が衝撃波と共に世界を駆ける。木々は根こそぎ倒され、水は大波となって大地に乗り上げ、建造物は強固なものを除いて全てにヒビを入れた。
黄金竜は自分の頭が、上半身が吹き飛んだことに気付かずに上昇を続けたが、黄金郷の台地に落下した。
セレンはちゃっかり秘宝でダメージを無効化していた。
「はっはァ! どうやこの威力! 神すら殺すと言われた【秘宝:神をも殺す巨砲】! デカすぎるから持ち出せないと言われてたこれ、小さくする秘宝を持ってたうちにとってはなんの問題もなく持ち出せたわ。いや〜持ってきといて正解やったわ!」
セレンはウキウキで上半身を失くした黄金竜の死体に近づく。シルヴァと約束した通り、ドラゴンステーキを作るためだ。
「うっげ。きっしょっ、まだ動いとる……」
セレンは懐からピストルを抜き、数発黄金竜に打ち込んだ。
しかし黒い触手は動き続け、ゆっくりとセレンの方に向かってきている。
しかしそのスピードは極めて遅く、セレンはカトラスで数回その触手をつっついた。
「……? まるで生きとるみたいに」
そこまで言って、セレンは背後に迫る殺気を感じ取った。
素早くカトラスを振り抜き、背後に立つ者を一刀に両断する。
いや、確かに両断したはずだった。
セレンはカトラスに付いた黒い粒子を見て、素早くポケットに手を突っ込んだ。
次の瞬間。セレンは頭から真っ二つにされた。
セレンを真っ二つにした剣は黄金の煌めきを持ち、その繰り手は真っ黒。
そう。悪夢化したウリエルが、そこには立っていた。
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