Lv.9 【鎖罠】
朝。
食堂に降りると、そこにはアルとライムが朝食を食べていた。
「おはよ」
「ん、おはようシルヴァ」
少し気まずい。あれを深夜テンションと言い訳していいのだろうかと、思い悩む。
「シルヴァも食べる? 作ってくるけど」
「あぁ、うん。俺も手伝うよ」
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そんな二人を見て、ライムは訝しんだ。
(この二人、何かあったに違いない……)と。
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宿屋のキッチンで朝食を作り、アルと同じテーブルで食べ始める。
卵とベーコンのような肉。とても美味しい。
「おはよ〜……」
「コーネリア、おは……?」
随分と眠そうな顔で、コーネリアが食堂へとやってきた。
しかし、その格好はなんというか珍妙で。えっと。言葉に困るとはこの事だろう。
そう、コーネリアの着ていた服は、分かりやすく言うと【着ぐるみパーカー】だった。しかも何かよく分からない紫の生き物の。
「えっと、それは……なんだ?」
「え?」
「いや、その。服……?」
「これ? これはあたしが昔から使ってるパジャマよ!」
「えっと……?」
あまりに自信満々に言うから、この世界での常識なのかとアルを見る。
しかし、アルも大口を開けて驚いている。なんならライムも驚いている。
「な、え、なんの生き物?」
「ゴンザレスよ!」
ゴンザレス。ゴンザレス? ゴンザレスってなんだ? この世界では着ぐるみパーカーになるほど有名なのか?
助けてアル。
しかし、アルも頭にはてなを浮かべていた。
「ゴンザレスはワイバーンの子でね、昔家で飼っていたのよ!」
「ワイバーン……って家で飼えるのか?」
「うちは飼ってたわよ? それで可愛かったから、職人にパジャマにしてもらったの!」
「そう……」
「でもある日脱走しちゃったの……」
「そっか……」
「興味なくしてない!?」
違う。理解が追いついてないだけだ。あんなイってる目をした紫の生物を、ペットとして飼っていたと言う。しかもそれがワイバーンで名前はゴンザレスで、可愛かったからパジャマにしました。しかも脱走してしまいました。
もうこの先を聞く元気は、俺たちには残っていなかった。というかゴンザレス怖くない? こっち睨んでない?
「えっと、話を変えよう。どうしてパジャマのまま食堂へ?」
「昨日変な物音が夜中してて眠れなかったのよ……ゴソゴソギシガシって」
「物音?」
変だな。俺はそんな物音は聞いていない。
アルに目配せしても、首を振った。
「だから朝ごはん食べたら二度寝するわ……ふぁ」
「コーネリアの事だから『カチコミするわよ!』とか言いそうな気がしたんだがな」
「馬鹿ね。睡眠不足は死に直結するわよ。それで私の朝ごはんは?」
「セルフで作る形式だ」
「……わがまま言ってもいい?」
至極めんどくさそうな顔をしている。
こいつは今までどういう生活をしてきたのだろうか。いや、自分のご飯の準備ができない奴はいるだろう。
仕方ない。
「しょうがない。ちょっと待ってろ」
「ありがと」
さっきと同じものをチャチャっと作って、コーネリアの前に置く。
「いただきます……」
コーネリアは眠そうな顔で、俺が作ったご飯を食べた。
「それで、今日の予定はどうしようか」
「私は予定通り黄金竜の偵察に行ってくるよ」
「なら俺は街に出て買い出し、そして情報収集だな。コーネリアとライムは……」
「キュ!」
ライムは意気揚々と勇足(足?)で、アルの膝の上に乗った。
その目は熱い闘志が宿っているように見えた。
「わかった。ライム、アルを頼んだぞ」
「キュー!」
「アルも、ライムを頼んだぞ」
「ん! まっかせてよ」
「ごちそうさま……それじゃおやすみ……」
「ちなみにコーネリアは俺と一緒に情報収集と買い出しな」
「え!?」
「当たり前だろ。昼には起こしに行くからそれまで寝てていいぞ」
「……わかった」
コーネリアは不機嫌そうな顔で自分の部屋へと帰っていった。
仕方ないので、コーネリアが食べた食器も他のと一緒に片付けた。
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「よし、そろそろ行ってくるよ」
「キュー!」
いつもの鎧に身を包んだアルが、ライムを抱えている。
俺は耳に指を当てた。
『緊急の連絡があったらこれで連絡してくれ』
『ん、わかった』
「それじゃ行ってくるね」
アルとライムは、山を目指して出発した。
俺はそれを見送ると、自分の部屋へと戻った。
まだ昼まで時間はある。
俺はスキル画面を開いた。
使い物になるスキルを探す。
【落雷】
このスキルは最初から取得できた。だが、その威力は絶大だ。
しかし、狙い通りの所に落とすことができないという欠点がある。だから水を撒いてから撃った。
この例の通り、強力なスキルが隠れているかもしれない。欠点付きで。
ならば他のスキルで欠点を補えばいい。幸いスキル【工作上手】の使い勝手が、予想よりいい。
狼の大群と戦った時にも、知らずの内に使っていたようだ。ログを眺めていた時に気がついた。
【工作上手】文字通りに工作が上手くなる。だが、それだけではない。
スキルの合成。二つまでなら組み合わせることができる。あの狼の時は、【鎖罠】と【水属性魔法】。そして【鎖罠】と【落雷】だ。
基本的に【鎖罠】と併用して使うのがいいだろう。
「最高の付け合わせ……」
焼肉と白米。味噌汁とたくあん。ステーキとチリソース。【鎖罠】にも、そんな関係のスキルがきっとあるはずだ。
試しに【鎖罠】を空撃ちする。
触ってみても普通の鎖と変わらない。自由に動かすことはできないが、目標を捕まえる。罠として張る。程度ならできる。
伸ばせるだけ伸ばしてみる。
しかし、自分の体を一周する程度で伸ばせなくなった。狼達を捕らえた時には、もっと伸ばせた。
あくまで、捕まえる事にしか使えないらしい。
俺は【鎖罠】を解除した。
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「起きろ、そろそろ出るぞ」
「うにゅ〜……」
鳴き声ともなんとも苦別のつかない声と共に、コーネリアは部屋から出てきた。格好は昨日の魔女服に戻っていた。
ゴンザレスのあの目を思い出しただけで、心に冷や汗をかく。あの目はなんか怖い。
コーネリアは眠そうな顔で魔導書から出した水を使って、顔を洗っている。
「その魔導書ってどこから出してるんだ?」
「ここ」
そう言ってコーネリアは自分のローブの前を広げた。そこには、なにも無かった。あるのはローブの裏地だけ。
そしてコーネリアはそのローブの裏地に手を突っ込んだ。するとずるりと腕は飲み込まれ、手首の辺りまですっぽり飲み込まれた。
「他の人には内緒ね」
「なんだそれ」
「これ、うちに伝わる家宝。魔導書がいっぱい入ってるの」
「家宝なんて持ち出してきていいのか?」
「いいわけないじゃない! だから早めに成果を挙げて、このローブにはあたしがふさわしいって証明しなくちゃいけないのよ!」
なるほど、通りですぐにカチコミをかけようとしていたのか。
コーネリアはローブの前を閉じた。なるほど確かに。ローブの淵には、細かな装飾。生地は滑らかで、布に知識の無い俺でも高級なものだとわかった。
コーネリアはローブごと自分の体を抱きしめた。
「ちょっと、ジロジロ見ないでよ。あげないわよ」
「いや、いい生地だなって」
「そ、そう。ならいいわ。そんな事より買い出しに行くんでしょ?」
コーネリアは魔女帽子を深く被り直し、歩き出した。
「ほら! 荷物持ちくらいやってあげるわよ!」
コーネリアは宿屋の玄関を、勢いよく開けた。
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