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Lv.84 違和感。矛盾。謎。

【魔術の歴史】と書かれた本をペラペラとめくる。

中身は現代で言うところの、空想科学を題材にしたような本だった。読めもしない字を並べ、それに規則性を作り出す。それが発生した瞬間をトリガーとして魔力を流し、魔術を発生させる。



あぁ。何を書いているのかがさっぱりわからない。

この本によると魔術を使用する際は文字が周囲に浮かぶらしいが、そんなものは見たこともない。

正直なところ、この本はデタラメだ。読むに値しないと思うのだが、なぜか目が離せない。

結局最後まで読み切るが、終始ちんぷんかんぷんな事が書いてあるだけだった。

俺は本を閉じ、何気なく裏表紙を見る。そこには、見覚えのある名前が書いてあった。


「ライム……?」


そこには、確かにライムと書いてあった。俺はもう一度中身を見る。

人の字が書かれている。俺の知るライムは、手もなければ足もない。ただのかわいいスライムのはずだ。それがなんでこんな古い本に……


「いや、待てよ。同姓同名の可能性……」


もう一度本の表紙を見る。

サラサラの表紙に、綺麗な字で題名が書かれている。

【オーロ・シルヴァの研究レポート】


「……」


俺は本を地面に落とした。

こんなに古い本に自分の名前が書いていることは、ありえないのだ。同姓同名だとか、そうやって言い逃れることはできるかもしれない。しかしそれは、どちらかの名前しかなかった場合だ。

俺と、ライム。その二つの名前が、この本に刻まれている。それが偶然だとしたら、それは天文学的確率だ。ありえない。


『テレレテッテレ〜♪』

『レベルが上がりました〜!』


頬をつねるが、痛い。これは現実であることを、ありありと教えてくれる。

どうしてこの本に書かれているかなど、わかりもしない。だが、ライムはどこかで生きているのかも知れない。それだけで、少し元気が出た。



こんこん。と、誰かが部屋の扉をノックする。

俺が返事をする前に、扉は開いた。


「やぁ。読書は十分にできたかい?」

「吟遊詩人の人……」


扉を開けたのは、緑の服を着た吟遊詩人の女だった。


「何か用か?」

「おやおや。どうやら自分の状況をわかっていないのかな」

「……と言うと?」

「首領は時間を稼いで、その間に君達は一度地上に戻って体勢を立て直す。その次は予想できただろう?」

「……もう一度あそこに行けと?」

「正解。よくできました」


吟遊詩人は、至極真面目な顔で拍手をする。そして拍手を止めると同時に、にっこりと微笑んだ。


「首領からの合図が来た。もうすぐ負ける。負ければ黄金卿は玉座につき、この世の崩壊が始まる」

「ずっと思ってたんだが、玉座に座られるとどうなるんだ?」

「え? 命あるもの全てが悪夢(ナイトメア)を構成する触手になるだけだよ」

「……めちゃくちゃ大変じゃねぇか!」


慌てふためく俺の様子を見て、吟遊詩人はクスクスと笑う。

俺がムッとした顔をしているのに気づくと、俺の頭をポンポンと優しく叩いた。


「ごめんごめん。なんというか、若いな〜って思っちゃって。気を悪くしないでよ」

「……まぁいいけど、そんなやばい状態で俺になにしろって言うんだよ」

「あぁ。玉座についてから世界終了までは結構猶予があったりする。その間に、黄金卿を討ち取ってほしい」

「……可能なのか?」

「不可能じゃないらしい。……うん、実際かなり厳しいと思う。首領の指示に従ってるだけだから何もわかんないけど……でも僕は首領の事は信じてるから。なんとかなるんじゃない?」

「信じる信じるって……みんな簡単に言うけどどの程度の信用とかあるだろうがよ……」


吟遊詩人は軽く考える仕草をする。


「まぁ首領が死ねって言ったら死ぬくらいには信用してるよ」

「この世界の人間はみんなこうなのか……なんか嫌になってきた」

「ま、この世界は死ぬ時はあっさり死ぬからね。みんな何かに命を預けなきゃやってられないんだよ」

「生まれ育った環境でここまでカルチャーショックが起きるのは、驚きだな」

「さぁさ問答はここまでだよ。最終攻略戦の準備だよ。今回は僕も行くから頑張ろうね」


そう言って吟遊詩人は拳を握り込んだ。

俺は本を閉じ、本棚に戻す。


「あれ? 一冊足りない……」


本棚には、一冊分の隙間ができていた。


「あぁ。そういえばアルに一冊渡したままだったっけな」


俺はそう納得し、その部屋を後にした。



吟遊詩人の後に続いて、城の玄関ホールまでやってくる。

玄関ホールには、もう既に十数人が集まっていた。コーネリアは高級そうなソファで寝ているが……アルの鎧も目立った傷は無いし、セレンは元気いっぱいそうだった。

他はサイフォン魔物討伐隊の人達のようで、目が据わっていて怖い。

だが、たったそれだけだ。俺、アル、コーネリア、セレン、吟遊詩人、討伐隊が数人。吟遊詩人は最終攻略戦と言っているが、戦力的には心もとない数だ。


「みんな集まったようだね。じゃあ船長、船を出してもらえるかな?」

「お? おぉええで!」


セレンは外に出て、船を出す。さっきついていた傷が、応急処置されている。そこら辺にあった木材でつぎはぎされており、アンティーク感が出ている。


「さぁ、見た目はボロいけど最強の船や! 乗るんやったら、はよ乗りぃ!」


コーネリアはいの一番に、船に飛び乗る。

俺達も船に乗り込み、動き出す時を待つ。


上空では、未だ黄金郷(エルドラド)から生えた無数の触手は蠢き続けていた。

俺は自分の手を見る。この手が、この体があんな触手になるのだろうか。そう思うと、気分が悪くなってくる。


「な〜んて顔しとるんや。シルヴァ」

「セレン」


セレンが俺の背中を走りと叩き、俺の隣にどかりと座る。俺もそれに釣られて、セレンの隣に座り込む。


「なんでそんな顔しとるんや?」

「……嫌な事を聞いてな。いや、他にも色々あったから疲れてるんだ」

「ほ〜……嫌なことあったらうちに相談するとええで。なんてってこの船の船長。シルヴァやアル、コーネリアの船長やからな!」

「……なぁセレン、お前はなんでこの戦いについて来るんだ?」

「喧嘩売っとんのか?」

「いや、そう言うことじゃなくて」


そう俺が否定すると、セレンは笑いながら俺の肩を叩いた。


「わかっとるわ! 冗談の通じひん奴やな」

「……アルはどうせ俺の為って言うだろ。コーネリアは……コーネリアも俺達の為って言いそうだな。でもセレンはどうしてここまでついてきてくれるのか」


そこまで言うと、セレンは俺の頭をはたいた。

ついでに背中を一発殴ってきて、胸に拳をぶつけてきた。


「さっきも言ったやろ? うちは船長や。お前ら船員を守ったり、面倒見んのも船長の仕事や」

「それだけ……?」

「そうやで? ……いや、まだあったわ。あのクソドラゴンぶち殺す。うちの船ボコしやがって……容赦はせえへんで。それに黄金って名前がついてる島なんて見逃せるかいな! あぁあと」


そこまで言って、セレンは照れ臭そうに笑った。


「まぁ、理由を簡潔にまとめるとうちが海賊やからって事やな。へへへ」

「なんで照れ臭そうなんだよ」

「うち、ちゃんと海賊やれてるんやなって思ったんや。子供の頃からの夢やったんやで、へへ」

「……そっか、みんな結構自分勝手な理由なんだな」

「そうやで。そんな中でもうちが一番自由や」


セレンは誇らしそうに胸を張る。

俺はそんなセレンを見て、クスリと笑う。

セレンはそんな俺を見て、にかりと笑った。


「ええ顔になったな。さ、そろそろ出航や! 準備しぃ!」


セレンは手をヒラヒラとさせ、船の中のロープを操る。ロープはグネグネと触手のように動き、船の帆を張った。

帆にはデカデカと、翼の生えたセイレーンのマークが描かれている。


「あ」


誰かが声を出した。


黄金の煌めきを発しながら、何かが落下してくる。


「首領だ! 船長、今すぐに出航を!」

「うちに指図すんなや!」


セレンはそう反抗しながらも、船を浮かばせる。空に向かって船首を向け、全速力で上昇する。

いつの間にか黄金郷(エルドラド)から生えていた触手達は、見る影も無くなっていた。


「……! なんだ今の悪寒」

「玉座にたどり着いた証拠だ。早く行こう!」

「ならとっておきを出したるわ! 【秘宝:進み続ける者への祝福(ぶっちぎれ、我が愛船)!!】!!」


船の先端部から、何かの仕掛けが動く音がする。船の先端に、ロープで繋がれた何かが取り付けられる。

チラリと見えたそれは、セイレーンの像だった。


「うぉっ!」

「振り落とされんなや!」


船が急加速し、あっという間に黄金郷(エルドラド)の底部まで辿り着く。

しかしセレンは速度を緩める様子はなかった。


「ヒャハハハハ! これが海賊のやり方やボケェ!」


セレンのその叫びと同時に、船の先端が黄金郷(エルドラド)の底部を突き破る。そのままの勢いで、船の半分以上が黄金郷(エルドラド)の底部に入り込む。

外から見れば、浮島の底部に真っ直ぐ海賊船が突き刺さっているのだろう。さぞ面白かったに違いない。


「【秘宝:進み続ける者への祝福(ぶっちぎれ、我が愛船)!!】は一定時間速度を上昇させて、船首でぶつかった物をぶっ壊す。その間の船体へのダメージは全て無効化。正真正銘うちの秘宝や」

「そう言うことは先に言ってくれ……」


俺達は遺跡の中に足を踏み入れる。最底部から二階層くらいぶち抜かれている。


「みんな降りたな? ほんならうちはこっから別行動や」


セレンはそう言って、船を後退させる。


「どうするんだ?」

「さっき言ったやろ?」


セレンがそう言って、下を指差す。


「オォォォォォロ・シルヴァァァァァァァァ!!」


元気な声が聞こえてくる。勘弁してほしい。


「あんな奴あれがあればイチコロやのになぁ……まぁ無くてもぶっ殺せるわ。今日の晩飯はドラゴンのステーキや、楽しみに待っとけや!」


セレンはそう言って、船を黄金郷(エルドラド)から引き抜いた。

数秒後、派手な砲撃音が聞こえ始める。


「こっち!」


先導する吟遊詩人の後に続き、俺達は遺跡の中を走り始めた。

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