Lv.82 脱出
俺達は出口を目指しながら遺跡内を練り歩く。
だが出口が分からない。どこもかしこも同じ景色、今自分達がどこに向かっているのかすら分からない。
俺達は、はぐれた後の話を情報交換していた。
「って事でコーネリアに任せてアルを探しにきた」
「ならまずコーネリアを探さなきゃ!」
「わかってる」
俺は口を閉じ、【通信】を使用する。
『コーネリア、聞こえるか?』
『はいはい。これ頭の中に直接声が入ってくるから嫌いなのよね』
『よかった、無事だったんだな』
コーネリアの元気そうな声が、頭の中に直接聞こえる。
『一度ここから脱出する。コーネリア、現在地がわかるか?』
『わかんないわよ。それに脱出するって本気? ……もしかしてアルに何かあったの!?』
『大丈夫だ。アルはキャットと戦っていた。生きているし、今は傷もない』
『ならよかったわ……あたしの現在地は『エルドラドにて生存している、全てのサイフォン魔物討伐隊に通達する』
コーネリアの声を遮って、首領の声が頭の中に割り込んでくる。
『全員今すぐ脱出しろ。三分以内にだ。出口が分かるなら、出口に向かう事を何より優先しろ。出口が分からないならば、地面を掘ってでも逃げ出せ。外にいる者は、今すぐ地上に向かって飛び降りろ。以上だ』
そう短く告げると、首領の声は消えていった。
「なに? 今の……」
「分からないが、早めに逃げた方がいいって事だけは確かだ」
『ちょっと! 今の何!?』
『分からない! コーネリア、現在地はさっきから動いていないか?』
『動いてないわ!』
『なら魔術で音を出してアピールとかできそうか?』
『無理、もう魔力がほとんど残ってないもの。せいぜい一発が限界ね』
『それなら待ってろ!』
俺は地面に手を当て、【地形変化】を使用する。地面に穴を開け、一つ下の階層に移動する。
そして壁に手を当て、また【地形変化】を使用し壁を崩しながらがむしゃらに直進を始める。
「どうしたのシルヴァ!」
「俺とコーネリアが別れた場所。そこはさっきの一階層下。だからこうやって縦軸合わせて、壁に穴を開けて進み続ければ……!」
「ん! いつかはコーネリアの場所にたどり着ける! って時間かかりすぎるよ!」
「それは俺も思ってる! だから!」
俺は【落雷】を放つ。しかし落雷の衝撃しか伝わってこない。それはそうだ。ここは屋内。雷を落としても、遺跡の表面に落ちる。だが、それが狙いだ。
「まだまだァ!」
俺は【落雷】を連打する。何度も何度も衝撃が遺跡内に響き、どんどんとその衝撃は近くなっていく。何十回かの【落雷】の末、俺の目の前に空から一直線に続く穴が空いた。
『コーネリア! 今の衝撃どの方向から聞こえた!』
『ええと……』
俺はもう一発【落雷】を放つ。俺達の目の前に、白い閃光が叩き落とされた。
『右! 私の真右!』
『方角とか……いや、コーネリア。最後の力を振り絞ってアピールしてくれ!』
『わかったわ! ……いくわよ!』
俺は地面に耳をつける。衝撃音が、遠くの方で小さく聞こえる。
そのおおよその方向と、コーネリアが聞いた雷の方向を照らし合わせる。
「こっちだ!」
俺はその方法で導き出した方向に走る。もちろん【地形変化】を使って壁をぶち抜き、一直線でだ。
合計で十二枚ほどの壁を抜いた時、見覚えのある空間にたどり着いた。
「コーネリア!」
「……」
コーネリアは目を瞑り、地面に横たわっていた。
見覚えのある冒険者達が、コーネリアを心配そうに囲んでいた。
「速攻で地面をぶち抜いて逃げるぞ!」
俺はコーネリアを担ぎ上げる。コーネリアはすやすやと寝息を立てている。魔力を使いすぎたと言っていたから、回復のために眠ると予想していたが……こんなに早く眠るとは予想外だ
俺は地面に手を当て、【地形変化】で一気に地面を掘り進める。
垂直落下にも近い速度で、遺跡内を掘り進めていく。
「シルヴァ、シルヴァ! 上、上!」
アルの声に反応し、俺は上を向く。俺が開けたばかりの穴を、何かが一緒に落ちてきている。
黒く蠢くそれは、見覚えがあった。
悪夢が、雪崩のように押し寄せてきているのだ。
「もっと! もっと速度を!」
悪夢の迫ってくる速度は、ぐんぐんと上がってきている。黒い触手がうじゅるうじゅるとひしめく音が、ついに俺の耳に届く。
それと同時だった。遺跡の最下層を突き破り、空に放り出されたのは。
強烈な風が俺達を煽り、俺が開けた穴から離される。次の瞬間、その穴から大量の黒い触手が噴き出した。俺達を探すようにバタバタと動いた後、静かに遺跡内に戻っていった。
俺達は落下しながらその光景を見ていた。
「オォォロ・シルヴァァァァァァァァ!」
「忘れてた!」
大きな叫び声を上げながら、背後から黒い触手で構成された黄金竜が迫ってくる。
「オラぼけぇ! どこ見とんねんやぁ!」
そう暴言を吐き散らしながら、セレンの船が黄金竜に横から突進する。黄金竜は吹き飛ばされ、遺跡の底部に叩きつけられた。
「よぉシルヴァ! とっとと乗りぃ!」
「セレン! 助かった!」
俺は鎖で全員を捕まえ、セレンの船にその鎖をつなげた。その鎖をよじ登り、甲板に上がる。
遺跡の底部に叩きつけられた黄金竜は、なぜか黄金の鎖で拘束されていた。
「さ、今のうちに逃げるで!」
「セレン、頭から血が出てないか?」
「あ? あぁ。まぁまぁやり合ったからな。船もうちもボロボロやで! ハハハハハ!」
セレンは血を袖で拭い、船の舵をきった。地上にゆっくりと降りていく船の中。俺達は頭上の巨大な浮遊島を眺めていた。
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