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Lv.80 傷まみれのアル

キャットを追って辿り着いたのは、金銀財宝が山のように積まれた部屋だった。

アルは剣を杖代わりに歩き、部屋の中に入る。

宝の山に隠れているが、奥に部屋が続いている。宝の山をかき分け、奥へ奥へと進んでいく。


「……」


そこには、サイフォン魔物討伐隊の見知った顔がいくつか。死体となって落ちていた。

その死体の山の中には、当然といった顔でキャットが立っていた。


「一足……遅かったにゃね」

「……いや、間に合った」

「仲間の命がいくつもここで消えたのに、間に合った? お笑いぐさにゃ」


アルは言うことの効かない体を必死に動かし、剣を構える。

傷もそうだが、体が言うことを効かない。あぁ、そう。シルヴァから聞かされた事を思い出す。


『アルの体には、何かの呪いがかかっている。地上から離れていると弱体化するみたいだから、海とか湖とかは避けて通ろう』


海とか、湖とか。

今、アルは天空に浮かぶエルドラドの中。地上からは遠く離れている。その呪いで弱体化しているのだろう。思えばボリスの屋敷でも、力が入らなかった気がする。

今のように。


(でも、あそこは地続き……いや、細かいことは考えてられない。回復される前に、ケリをつける……!)


アルは剣を構え直す。

それに対しキャットは、宝物庫の最奥。大きな扉を指差した。


「あそこは、私の部屋にゃ」

「あっそう」

「そしてここは、私の部屋の玄関にゃ」

「ふーん」

「わかってないにゃ〜?」


キャットはチラリと、アルの背後を見た。

アルは静かに、勘付かれないように、剣の反射で背後を見る。

背後の宝の山には、剣が雑に積まれていた。


「つまり、よく使うものは置いている……ってわけにゃ!」


キャットはアルの背後にある宝の山……とは違う宝の山へと走り出した。

アルもそれを追って、走り出す。宝の山に手を伸ばしたキャットは、宝を掴むことなく方向転換した。

その進む先は、雑に積まれた剣の山。しかし、それはアルの予想通りだった。

アルもキャットと同時に方向転換し、雑に積まれた剣の山の前に陣取った。


「予測済み」


キャットが剣の山に手を伸ばす。しかしそこは、アルの剣の届く範囲内だった。

ただの剣の一振り。その一振りで、キャットの右腕は切断された。


「ぎにゃ!?」


右腕を切断されたキャットはバランスを崩し、剣の山に頭から突っ込んだ。

剣の山が崩れ、キャットが無数の刃の下敷きになる。


「死んだか?」

「死んでないにゃ!」


剣の山を跳ね除けながら、キャットが立ち上がる。

身体中切り傷まみれだが、血液は一滴も出ていない。そしてまだ残っている左手には、赤い鞘に収められた刀が握られていた。


「はぁ〜……この体にはこの武器が一番しっくりくるにゃ」

「剣を持ったところで何も変わらない」

「それはこの刀身を見ても……言えるかにゃ!」


そう言いながらキャットは赤い鞘に手をかける。勢いよく鞘を引き、刀を抜こうとする。

しかし、鞘はびくともしない。


「……にゃ?」

「何やってるの?」

「いや……にゃ?」


アルは一瞬呆気に取られたが、すぐに攻撃のチャンスであることに気づいた。

深く、深く踏み込み。刀をガチャガチャとやっているキャットに向かって剣を振り上げる。


「ふっ!」


息を一気に吐きながら、剣を振り下ろす。この切り方は隙が大きい。しかし、このように何か別の事をしている敵には効果は絶大。のはずだった。


「……結構鞘でも丈夫なんにゃね」


アルの渾身の一撃は、キャットの持っていた刀の鞘で防がれていた。

キャットは軽くその刀を振り、アルの腹を殴りつけた。アルは飛ばされ、壁に背中を強く打ち付けた。


「にゃ〜! これ抜かなくても強いにゃ〜。忌々しい銀の刀身を見せることができないのは残念にゃが……」

「ぐ……はぁ……」

「体の芯にガツンとくるにゃ? 息もできないにゃ〜?」


アルは精一杯息を吸い込む。しかし肺はいつまで立っても膨らまず、口から空気が漏れ出るだけであった。

最後の手段として、アルは自分の横腹を力一杯ぶん殴る。肺に衝撃が走り、激痛と引き換えに一瞬肺が膨らむ。その一瞬で呼吸し、壁から這い出る。


「お〜。お前は本当に強いんにゃね〜? この刀の一撃を食らっても死なない。私の腕を切り落とす。本当に見事にゃ」


キャットはブンブンと刀を振り回しながら、倒れたアルに近づいてくる。


「さてさて、この右腕はどうしたものかにゃ〜。あ、お前の腕を貰えばいいんにゃ〜?」


そう言って近くに落ちていた刃物を取り上げた。それをペロリと舐め、アルの顔を舐めるように見る。


「……体が、軽いや」

「にゃ?」


アルはゆっくりと立ち上がる。そして剣を軽々と持ち上げ、いつもと変わらないようにブンブンと振った。


「いつもと同じように……動く……」

「にゃ〜。随分と空元気なようでっ!」


キャットは刀でアルの体を滅多撃ちにする。アルは黙ってその攻撃を耐えると、静かに息を吐いた。


「うん。やっぱり体が軽くなる!」

「は、は〜〜〜? なんなんにゃお前!」


キャットは刀を大きく振り上げる。しかし、その刀が振り下ろされることはなかった。


「が……にゃ……」


キャットの首から、横一線に血が流れ出る。

一瞬。一瞬でアルが剣を振り、キャットの首を切断していたのだ。


「ふぅ……」


アルは息を吐き出す。まだ膨らみきっていない肺から、全ての空気を吐き出す。

アルはそのまま、ゆっくりと前のめりに倒れた。

傷まみれのアルの体は、既に限界を迎えていた。

苦しそうな声を漏らしながら、壁を伝って奥の扉に歩いていくキャットをぼんやりと見る。

そのまま、静かに気を失った。

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