Lv.8 闇夜、いつか。いつか。
夜。
星の出る夜空の下。
俺は一人で、宿屋の裏にある森を散歩していた。
いやなに、眠れないだけだ。
ライムは部屋に置いてきた。
適当にスキル画面を開き、役に立ちそうなスキルを探す。
すると、面白そうなスキルを見つけた。
【通信】というスキルだ。
効果は、『離れたパーティーメンバーと話せる』と言うものだ。
「戦を変えるのは情報伝達速度。取っておいて損はないな。しかしパーティーメンバーってなんだ?」
俺はその説明を求めて、ウインドウを色々といじくり回す。
すると、ステータス画面の下。ライムのプロフィールの更に下にアルのプロフィールが書かれていた。
「勝手に見るのは……失礼だよな」
見ないように、更に下にスクロールする。そこには、コーネリアのプロフィールも書かれていた。
なるほど、仲間、というか行動を共にしている奴はパーティーメンバーとしてプロフィールが見れるのか。
「馬車を引いてくれる馬のプロフィールは見れないのか……」
そう呟いた直後、馬のプロフィールなんてなんの面白味もない事に気づいた。
とりあえず取っておいて損はないので、スキル【通信】を取る。
そしてその場にしゃがみ込み、右手の人差し指を耳に当てた。
『ゼロ少佐、聞こえるか』
なんつってな。
『シルヴァ?』
『あれ、聞こえた?』
どうやらこんなやり方でも使えるらしい。アルが返事をした。
『夜遅くに悪いな』
『ううん。シルヴァはどこ? 頭の中に声が響くだけで姿が見えないんだけど』
『俺は今外だな』
『今から行くね』
そう聞こえると、アルからの通信が途絶えた。
「お待たせ」
「ヒュッ」
いつの間にか背後にアルが立っていた。鎧を着ていないアルは少し新鮮だったが、そんなことより音を立てず後ろに立つのはやめてほしい。心臓が一瞬止まった気がする。
「こんな夜更けにどうしたの?」
「いや、別に呼んだわけじゃないんだ……」
「そっか。一緒にいてもいい?」
「構わないけど」
アルは俺の隣にぴたりと立つ。
ふんわりと甘い匂いが漂ってくる。
アルは今薄着だ。薄着? いや、布一枚だ。俺の目は誤魔化せない。
月明かりが降り注ぐ、静かな森の中。街の喧騒は聞こえるが、それも今は遠く。
月の光を浴びたアルは、どこか絵画のように神々しかった。
胸の膨らみによって作られた影は、アルの足元を闇に染めている。
綺麗な顔だ。美しい顔だ。俺のことをじっと見ている。どこか狂気に浸ったような印象を受けるが、今は俺だけを見ていることがわかった。
と言うか、アルが顔を近づけてきている。
「おわっ」
現実に引き戻され、後ろに倒れそうになる。そんな俺を腕をアルは掴んだ。
まるでダンスの一瞬を切り取ったかのような光景。しかし、それなら俺とアルは逆でなければ。
「よっと」
「ありがとう」
「ん。怪我はない?」
やだイケメン。俺の事を引き戻すだけじゃなく、心配までしてくれるなんて。
俺は頷いた。
アルは優しく俺の手を離した。
「さっきの頭の中に聞こえてきたのってなに?」
「え、あぁ。スキルで面白そうなものがあったから、ちょっと試運転してた」
「へぇ。スキルってなにか聞いてもいい?」
「え?」
スキルを知らない。なら今までの俺の行動はどう写っていたんだ。
「えっと、魔術みたいな?」
「……あの鎖を出したりしていたのもスキル?」
「そう、だな」
「へ〜、すごい! 他にはどんなスキルがあるの?」
「……いろいろ?」
不安。自分の使っていたスキルが世界に認知されていない。それだけで不安要素がどっと増える。何か、禁忌とされている魔術などが存在していたとすれば、それと似たスキルを使う事にはリスクが伴う。
それだけじゃない。魔術だと偽っていれば、いつか使い方を聞かれるかも知れない。その際に魔術でない事を知られれば、その先の反応を予測することができない。異端者として捕まるとか、研究対象とされるとか、どの結末にせよハッピーエンドは見られない。
ここはどうにかして誤魔化して、それかr
「大丈夫だよ」
アルが、俺の手を握る。
「私はシルヴァ、いや、君の味方だから」
なぜだか。涙が出てきた。
「ん」
アルは、そんな俺の事を抱きしめた。
暖かくて、心音が、心地、いい。
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いつの間にか寝ていたのか、膝枕をされている。
「おはよう、シルヴァ」
「どれくらい寝ていた?」
「ん〜、十分くらい?」
「そうか。ごめんな」
「そこはありがとうの方が嬉しいな」
「ありがとう」
アルは、地面の上に直接座っていた。少しの申し訳なさと、心がスッキリした感覚が精神を支配する。
俺はアルの対面に座った。
「今一度聞いてもいいか?」
「ん、なに?」
「どうして俺なんだ?」
アルは一瞬びっくりした顔をしたが、すぐにイタズラっぽい笑みを浮かべた。
「シルヴァだから」
「そうか」
いつか本当の事を話せる日が来るのだろうと、俺は心の中で確信した。
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