Lv.77 離脱
俺は呼吸の浅いコーネリアの元に駆け寄る。
「大丈夫か?」
「えぇ……あんたといると良く死にかけるわね」
「そうだな」
コーネリアの体に触れ、【治癒(極)】をかける。どうやらコーネリアには使えるようだ。
コーネリアの傷は、ゆっくりだが確実に治っていく。
「うげぇ……血が足りないのがわかるわ」
「本当に傷が治るだけなんだな。血液か……」
輸血とかのスキルがあればいいのだが、とスキル画面を見てみる。
しかしそれらしいスキルは見つからなかった。
「俺は力になれなさそうだ」
「はぁ……それならせめて温もりを頂戴。寒くて死んじゃいそう」
「了解」
俺は【火属性魔術】で小さな火種を作り、コーネリアに熱波が届くように近くに置いた。そしてマントを外し、コーネリアにかぶせてやった。
「寒いわ……」
「地面は石だし、血は足りないし、それにここは地上からだいぶ離れている……地上から離れている?」
アルは大丈夫なのだろうか。ここは地上から離れている。あの呪いが発動していないとも限らない。
「アル……一体どこいったんだ」
「心配ね。なんならあたしを放って探しにいってもいいわよ?」
「え……いや、それはできない」
「あんたならそう言うと思ったわ」
しょうがないなといった表情で、コーネリアは笑う。
探しには行きたいが、今ここを離れてコーネリアに何かあってからでは遅い。だが今この時、アルが無事という保証もない。
動きたくても動けない。そんな状況が、俺の心を揺さぶった。
「お〜いたいた」
上の方から声が聞こえ、誰かが飛び降りてくる。
俺達の目の前に降り立ったのは、数人の冒険者風の装いをした人達だった。
「首領からあんたらを手伝うようにって言われたんだが……手伝うことはあるか?」
「あぁ、あんたら魔物討伐隊の……今は大丈夫だ。強いて言うならコーネリアの血液が足りない」
「血液か……これなら使えるか?」
一番強そうな男が、瓶に入った赤い液体を取り出した。
「一応首領お手製の『内臓活性化薬』らしい。内臓の働きを促進させ、治癒力を高める効果があるらしい」
「あぁ……もう神にも縋りたい気持ちだから、頂戴」
「はいよ、嬢ちゃん」
コーネリアは受け取った薬を一気に飲み干す。しばらくすると、コーネリアの血色は良くなった。
「ただまぁ……デメリットもあってな」
「何? あたしの体に不利益でも生じるの?」
「あ〜……内臓の働きが活性化されるから……体の老廃物とか、そういう……な? それらも促進されるんだ」
「……」
コーネリアは黙ったまま、魔導書で俺達の間に壁を作った。
その魔導書の壁は一斉に光りだし、魔術弾を無茶苦茶に撃ち出した。
「【地形変化】!」
俺は地面を盛り上げ、壁をさらに作る。その壁の向こうで騒音を立てながら魔術弾が破裂している。
「おい! あの嬢ちゃんどうしちまったんだ!」
「あ? 音姫ってやつだよ、異世界仕様のな」
「おと? なんだそれ?」
「黙って待ってな」
五分ほど経っただろうか。魔術弾の騒音が止んだ。壁を退けてみると、コーネリアが顔を赤くしながら立っていた。
「……聞こえた?」
「いいや。聞こえなかった」
「そう。ならいいわ」
コーネリアはそう言ってふらりとつまづいた。
俺は咄嗟にコーネリアを支える。
「魔力を結構消耗したし、その上血液を大量に作ったせいで疲れたわ……」
「なら少し休もう」
「でもアルが心配なんでしょ? 早く探しに行かなきゃ……」
その時だった。また誰かが降りてきた音がした。
音のした方を見ると、そこにはさっき倒したはずのファイがいた。
「なんで生きてるんだ!」
「まだまだ……終わりませんよ!」
さらに数人のファイが飛び降りてくる。しかし数人は着地に失敗して顔から落ちた。
「クソッ。まだ生まれて間もないせいで、不完全です……!」
そう言いながらファイは、近くに落ちていた瓦礫を持ち上げて構える。どうやら不完全な個体は触手が使えないらしい。
「おいおいおいおい、俺らに任せてくれよ」
「討伐隊の人……」
サイフォン魔物討伐隊の数人が、俺達の前に立った。
「あんたら誰かを探しに行きたいんだろう? ならこいつは俺らに任せて行きな」
「わかった」
俺はその提案に迷うことなく乗った。そしてコーネリアを抱えて、上にある出口を目指そうとした。
「あたし、残るわ」
コーネリアがそう言って、俺の腕から降りた。
「まだ不調だし、ここでこの人達を見捨てるわけにはいかないわ」
「何言ってるんだコーネリア!」
「ふん。死ぬわけじゃないんだから、そんなに焦らないの。大体そんなに心配だったら、すぐにアルを見つけて戻ってきなさい。いいわね?」
「……わかった」
コーネリアのテコでも動かない鋼の意志を、その瞳から感じた。だから俺はそのコーネリアの言葉に強く頷いた。
上にある出口に登り、下を見下ろす。数人のファイ達は弱く、討伐隊の人達に押されていた。
「早く行きなさいシルヴァ。それともあたしの事が信じられないの?」
コーネリアはそう言って、俺の方に笑顔を向けた。
俺は軽く手を振り、アルを探しに走り出した。
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