Lv.74 触手、戯れ
「当たるかよ!」
俺は触手を十分に引きつけて、触手達をジャンプで避ける。
やはりファイの体から離れているから、反応が遅い。触手と触手同士がぶつかり、粒子となって消えていく。
触手の上を走りファイ達の頭上を、部屋の円に沿って周る。
大量の触手は、俺が移動した所を追跡しながら延々と攻撃してくる。
「その触手、精度はあんまり良く無いんだな!」
「ふ〜ん! 代わりに数があるから問題はないんです……よぉッ!」
大量の触手が輝いて、俺の進路上から向かってくる。
俺は【鎖罠】を一纏めにし、前方に飛ばした。
地下の研究室から脱出する時の応用だ。
無数の鎖の塊が、輝く触手達に正面からぶつかる。しかし、鎖の塊はあっという間に触手達に破砕された。
「そんなに脆くはないんで〜す」
勝ち誇ったようにそう言うファイを横目に、俺は部屋の中心に向かって飛び降りた。
ドームの天井スレスレに頭を擦りながら、部屋の中央に着地する。
「ならこいつはどうかな!」
俺を追って、無数の触手が降りかかる。しかし、俺の背中側に展開された魔導書は、それに呼応するように光を放った。
次の瞬間大量の魔術弾が魔導書から放たれ、触手達とぶつかりあった。
キラキラとした触手の残骸粒子が部屋中に、何より俺の体に降り注ぐ。
その降り注ぐ粒子の雲を突き破って、輝かしい触手が俺の体を貫いた。
「シルヴァ!」
「よそ見してても、大丈夫なんですか〜ねぇッ!」
俺の方に注意を向けたコーネリアに、触手が襲い掛かる。
「このぉ!」
コーネリアは背中側は自動発動の魔導書に任せ、前方の触手を撃ち落とす事に集中していた。
俺は触手によって付けられた傷に手を当て、確認する。左脇腹、右太ももの中心、右の首の皮。どれもこれも浅く、致命傷とは言えない。
「っく……」
俺はマントで傷口を隠し、手を当てて【治癒(極)】をかける。速度は遅いが、確実に傷は塞がっていく。
コーネリアのすぐ脇を、背後からの触手が通り抜ける。
「くっ! 数が多いから自動迎撃が間に合わない!」
コーネリアの自動迎撃をくぐり抜けた触手が、コーネリアの体をかすめる。
コーネリアの小さな体の、小さな傷から、鮮血が散る。
俺は治りきっていない傷をそのままに、【火属性魔術】を触手に飛ばす。コーネリアに向かっていた触手は狙いを外れ、近くの地面を貫いた。
「こっちに気を向けたらどうだ?!」
「え〜死にかけの……おや? 治療魔術でも取得したんですか〜?」
ファイの顔は一瞬無表情になり、すぐに笑顔に戻った。そして触手達が一斉に、こちらに向いた。
「なら即死させなきゃ面倒ですね!」
「おぉぉッッ! 【火属性魔術】&【水属性魔術】!!」
手の中で二つの魔術を掛け合わせ、大量の水蒸気を発生させる。スモークとしては、最高の出来だろう。
襲いかかってくる触手達をしっかりと見つつ、水蒸気を止めて回避に専念する。
【五感強化】で視覚を強化し、触手達を次々と避ける。
だが、やはり。
「数がっ、多すぎる!」
膨大な数の触手を捌くのに全神経を集中させるが、どうしても捌ききれない。
正面からの触手はぎりぎり全て避けれているが、魔導書の自動迎撃をくぐり抜けた触手が俺の体にかすり傷を増やしていく。
「ならばっ!」
俺はその場から傷を覚悟で走りぬけ、水蒸気の煙幕から抜け出す。
地面に【地形変化】を使って盛り上げ、土の剣を作り出す。その剣を【鎖罠】で補強し、大量のファイ達に斬りかかる。
「【抜刀術(上)】!」
音速まで加速した土の剣は、一瞬で崩壊した。しかし、鎖自体は消えずに、ファイ達の体を一刀両断した。
「ぐわ〜っ!」
「真っ二つに〜!?」
「や〜ら〜れ〜た〜」
ふざけたように、真っ二つになったファイ達が口々に叫ぶ。
それもそのはず、真っ二つになったファイ達の切断面から触手が生えてくる。その触手は切られた体を求めて、うねりながら伸びていく。
俺はすかさずもう一本土の剣を作り出し、踵を返して反対側にいたファイ達に向かう。
「わわっ!」
「迎撃〜!」
「無駄なんですよ〜!」
大量のファイ達は、俺を狙って触手を飛ばしてくる。
「そうくると思ったぜ!」
土の剣を地面に突き立て、【地形変化】を使用する。向かってくる触手達に向かって、流線型の土壁を作る。
触手達はその流線型の土壁に沿って、俺の後ろに流れていく。
その触手達は、俺の後ろのファイ達。真っ二つになって、絶賛体を修復中のファイ達を次々と貫いた。
「はぎゃぁ!」
「カハッ!」
「グッ!」
そんな短い断末魔を残し、俺の後ろにいたファイ達はドロドロに溶けて消えた。
「普通の攻撃じゃ通じない。だが、どうやら自分自身の触手攻撃は弱点らしいな」
「……シルヴァ様のそういう鋭いところ、嫌いですね」
目の前にまだ残る大量のファイ達は、俺に向けて一斉に視線を集めた。
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