Lv.71 頼み事
遠くの空に浮かぶ島は速度を上げ、あっという間に俺達のすぐ上にやってきた。
まだ日の昇っていない夜空に、小さな光が無数に輝いている。
「あれはエルドラド。過去、神話の時代にこの世界を破滅させようとした男がいた。それこそが黄金卿と呼ばれる男だ。黄金卿はその力で、黄金郷を作り上げた。世界をぶち壊す拠点としてだ」
島の中から、ところどころキラキラと輝く物。黄金が光に反射して、輝いて見える。
「俺がその企みを潰して、エルドラドをボーリー山の下に封印した。今はボリスって奴が管理していたはずだが、鍵であった屋敷ごと殺された」
「ボリス……」
「結果第一の封印が解かれ、あとは研究室の魔法陣だけが頼みの綱だった……それすらも解かれ、今エルドラドは解き放たれた。さらなる戦力を得てな」
島。エルドラドから、無数の人影が飛び降りてくる。【五感強化】を使いよく見てみると、それはさっき襲ってきた暗殺者達だった。背中から黒い触手を靡かせながら、街の反対側に降りていった。
「首領! ご報告が!」
「なんだ。っと、その老人を連れて来い」
魔物討伐隊の下っ端らしき人間が、老人を連れてやってくる。
ドワーフだろうか。背が低い割に、がっちりしている。
「あぁ! お前うちの船を任せてたジジイ!」
「首領、ご注文の品です」
セレンの叫びを無視し、ドワーフの老人は首領の前に膝をつく。そして、布に包まれた小さな船を渡した。
セレンの船……に似ている。
「それうちの船やろうが! 返せ!」
「あぁ。返すさ」
セレンが素早くピストルを取り出すが、首領は怖じける事もなく船をセレンに投げ渡した。
セレンは自分の船を手の上でクルクル回して、眺めている。
「特別仕様に改造しておいたんじゃ。魔術を利用して、空も飛べるぜ」
「ほんまかジジイ!」
セレンは船を持って、目を輝かせている。
首領は俺達に向き直り、突然頭を下げた。
「実は、頼みがある」
おおよそ察しはつくが、聞くだけ聞いてみる。
首領は頭を下げたまま、言葉を続けた。
「俺達サイフォン魔物討伐隊を乗せて、エルドラドまで頼めないか?」
「……それだけ? てっきり俺達にも黄金卿を倒すのを手伝えとか言うかと思ったんだが」
「まぁ……それはおいおいな」
首領は言葉を濁して、顔を逸らした。
そんな怪しい首領と俺達の前に現れたのは、セレンだった。
「しゃあないのぅ! うちの船に乗りたいんやったら乗せたるわ!」
「ありがとう。早速メンバーを集めて来よう」
首領は短くそう言って、部下らしき人間にテキパキと指示を出し始めた。
腕組みをして得意げなセレンを引っ張り、首領から距離を離す。そして俺達で囲う。
「なぁ、セレン。勝手に承諾するなよ」
「ええやろ! たかが船乗ってあの島行くだけやろうが!」
「シルヴァ、私からもお願い。首領があんなに真面目な表情するのは、私初めて見た」
アルとセレンは、協力する気満々なようだ。
「ねぇシルヴァ、これなんて読むの?」
「コーネリアはさっきから何してるのさ!」
「先生の研究室から持ち帰った燃えカスを解読してるのよ」
「あぁ……そう……」
「あ、あたしは別にどっちでもいいわよ。読む時間が欲しいだけだし」
コーネリアはまた、手元の燃えカスに視線を落とした。燃えカスと言うよりも、炭? それで何が読み取れるかはわからないが、コーネリアは本当にどっちでも良さそうだった。
「えーっと、一応二対一で協力するって事でいい?」
「え、シルヴァは?」
「俺? ……俺かぁ」
どうとも言えない。悩みに悩んで、俺は頭をひねる。
なんとも言えない気持ち悪さ。俺の選択は協力する。という結論だ。しかし、それは自分自身の選択ではないような気がする。
「……う〜ん? まぁ二人がそう言ってるなら協力しよう」
「結論は出たようだな」
首領が数百人ほどの部下を後ろに従え、俺達の前に立つ。
誰も彼も、歴戦の猛者と言った顔だ。
「さぁさみなさまご覧あれ! うちのちょーかっこよくなった、真・勇気あるもの達の聖櫃を!」
「あいつ、いつの間に屋根の上に……」
セレンは近くの建物の屋根の上から、大々的に宣言した。そうして手の中から、小さな船を空中に投げた。
一瞬きらりと光ったその小さな船は、一瞬で巨大化して俺達の前に落ちてきた。そう、普通に地面に叩きつけられたのだ。
「あぁぁぁ! うちのおニューの船がぁぁぁぁぁ!」
「そりゃ魔力で浮かぶ仕組みなんだからなぁ……魔力込めなきゃ落ちるじゃろうて」
「それ先言えやジジイ!」
セレンは屋根から飛び降りて、船の中に着地する。
「お? はいはい。あ〜そう言うことやな……ここをこうして、こうか? いや、こうや!」
船の中からセレンの賑やかな声が聞こえると、船はゆっくりと浮かび上がった。
地上から数メートルだが、確かに船は浮いていた。
「ほら、これで登れるやろ」
そう言って船から梯子が降ろされる。俺達は先に船の中に入る。
「あんまり変わってないな?」
「ちょっと綺麗になった?」
「まぁこんなものよね」
「なんや揃いも揃って! ふん!」
「お邪魔するぞ」
首領達が梯子を登って、船の中に入ってくる。ぞろぞろ、ぞろぞろと。あっという間に広かった船の甲板は、満員になった。
甲板の上の人間は、数名を残してあっという間に船室に消えていった。
「みんな、汚さないようにな」
「当然やろ!」
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