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Lv.68 忘却と朦朧の檻の中で

俺の手は勝手に動き、魔女服の少女が持っていた本を弾き飛ばしていた。


「……シルヴァ?」

「?」


なぜ俺も手が勝手に動いたのか分からない。この少女は誰なのか。あの本はなんだったのか。自分自身が誰なのかすら分からない。

それでも、何かをやらねばならない気がする。

何かを。


「……」


俺の視界は、黒い鎧を纏った大男を捉えた。

こいつを、倒さなければならない。

なぜだか分からないが、俺の心がそう叫んだ。


「……」

「今、私を見たのか?」


俺は周囲を見渡す。

視線は、地面に倒れている鎧を纏った金髪の少女で止まった。

なぜだか分からないが、俺は喉を震わせて音を出した。


「アゥ……ラゥ……」


本能的な、獣のような低い声だ。

しかし金髪の少女は何かを感じ取ってくれたようで、血をぼたぼたと垂らしながら立ち上がった。


「分かったよ、シルヴァ」


そう小さく呟き、金髪の少女は鎧と盾を捨てて走り出した。その手には鋭く光る剣を持って。

俺めがけて。

地面に寝ている俺の前で立ち止まり、剣を俺の腹に突き立てた。


「やるよ」


俺の返答を待たずに、金髪の少女は俺の腹に剣を差し込んだ。


激痛が走る。


その剣はまるで電流を繋ぐ電線のように、俺の思考を繋ぎ合わせた。


「アル、ありがとうな」

「ん。無理しないでね」


俺はアルの剣が腹からこぼれ落ちないようにしっかりと片手で固定し、アーサーの方を睨みながらゆっくりと立ち上がった。

腹に走り続ける激痛に顔を歪める。重力に伴って剣がゆっくりと落下し、内臓をゆっくりと引き裂き続けている。


「おいアーサー。俺のタイムリミットはもうすぐだったよな」

「お、お前……そんな傷治らない事が分からないのか! 無茶苦茶だ! 朦朧の呪いをかき消すために……異常者め!」


俺は困惑しているアーサーに向けて、手を向けた。


「【鎖罠】」


数百本もの鎖が空中からアーサーめがけて飛んでいき、アーサーの体をがんじがらめにした。


「こんなものエクスカリバーで!」


そう言いながらアーサーは鎖を剣で切る。しかし切った途端に新しい鎖が数を増やしてアーサーに巻きつく。

その鎖は縛る力をどんどんと増していき、アーサーの鎧にヒビが入りだす。


「無尽蔵か! 貴様ぁ!」

「底はあるさ、遠いだけでな」

「ならばぁ!」


アーサーは鎖を引っ張りながら、俺の腹に刺さった剣を掴む。

引き抜こうと手を引くので、俺は両手で剣を抑える。


「その剣が痛みを引き起こし、正気に戻ったことはよく分かった! ならばその剣を引き抜いてしまえば、お前は元の廃人に戻る!」

「あぁそうだろうな! その程度予測済みだ!」


俺はスキル画面を開き、素早く一つのスキルを取得した。


「【毒手】!」


俺の左手は毒に染まり、紫に変色した。

しかしそれに怯むことなく、アーサーはどんどんと剣を引き抜いていく。


「毒など恐るるに足らず! このまま引き抜いてくれる!」

「そうとも。お前を毒に侵した程度では、なんの解決にもならない! だからこうする!」


俺は左手を、腹の傷口に勢いよく差し込んだ。

その瞬間、腹に刺さったアルの剣がアーサーによって引き抜かれる。血は吹き出し、意識は朦朧の檻へと逆戻り……


腹部中心から、全身へと。血管を通って毒が全身を蝕む。全身に刺すような痛みが走り、俺の意識ははっきりと保たれた。

目を見開き、目の前のアーサーを睨む。


「こ、こいつ……激毒を自分に打ち込む事で、朦朧の呪いを掻き消しているのか!」

「へへ……きついが、お前をぶちのめすことはできそうだ!」


地面に捨てられていたアルの剣を拾う。

スキル画面を拾い、剣で使えそうなスキルを取る。【抜刀術(上)】【死線斬り】【岩石斬り】【バスターソード】【転昇斬】の五つ。

そしてアルの剣をアーサーに向けた。


「生きて帰れると思うなよ」

「く……ど素人に何ができる!」


俺は剣を腰に当て、納刀するような型を取る。

そして一気にアーサーとの距離を詰め、剣を振り抜いた。


「【抜刀術(上)】」


抜刀した瞬間に音速まで急加速した剣は、アーサーの鎧を軽々しく切り裂いた。しかし鎧の中にまだ何か着ているようで、肉にまで剣が届かなかった。

アーサーは俺の動きに動揺しつつも、大剣で俺を薙ごうとする。


「【死線斬り】」


俺の視界に一本の線が見える。アーサーが横方向に振った大剣の中心に向かって、アルの剣から光の道が見えた。俺はその通りに剣を動かし、俺の頭を狙うアーサーの大剣を剣で叩く。

すると大剣はバランスを失い、俺の頭のすぐ上を通っていった。


「な、何ぃ!」

「【転昇斬】!」


剣を下から振り上げる。すると剣に引っ張られるように、体が中に飛ばされる。その一撃はアーサーの兜に縦方向のヒビを入れた。

そのまま剣を下に向け、上から押しつぶすように落下する。


「【バスターソード】!」

「オォォォォ!」


俺を迎え撃つように大剣を振り上げるアーサー。俺の持つ剣とかち合うが、アーサーの剣に大きなヒビが入る。

俺の体はバスターソードの効果で重力が三倍ほどになったかのような感覚と共に、アーサーの剣を粉々に砕いた。

アーサーの兜に剣が突き刺さる瞬間、折れた大剣を捨てたアーサーが俺の剣を挟み取った。


「宝剣を破るとは見事! だがお前は死の呪いの効果で数分後に死ぬ! お前は私を倒しても、どの道死ぬのだ。大人しく死を受け入れろォォォ!」

「【岩石斬り】!」


俺は剣を持つ手に更に力を入れ、剣の上に逆立ちする。

その状態で体を倒し、その勢いで剣をアーサーの手から抜く。そのまま回転して落下し、アーサーの鎧を真っ二つにした。

勢いのついた剣を地面に叩きつけ、停止する。

アーサーの方を振りむくと、アーサーの鎧は中心の剣の軌跡から血が流れ出ていた。


「俺は自分が死ぬことが決まっているからって、足掻くのをやめたりしない。最後まで足掻いて足掻いて、最後の瞬間まで生きる道を探し続ける。それが俺の旅の目的だ」

「シルヴァ……! 地面!」


アルが叫びが俺の耳に届いた時、俺の体は落下していた。

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