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Lv.63 試練

俺の傷の治療が終わると同時に、俺達はコーネリアの後に着いて王城の中を進む。兵士達が度々襲ってくるが、アルやセレンの敵ではない。

アルは襲ってくる兵士を峰打ちで。セレンは容赦なくピストルで急所を外して撃つ。


俺はというと頭に靄がかかったようで、考えた事を行動に移せなかった。

兵士が剣を持って飛び出してきた。俺は手を向け、【鎖罠】を放とうとする。しかし、ぼんやりとその気がなくなる。結果アルやセレンに助けられる。

その繰り返しだ。


「ごめん……助かった……」

「シルヴァは戦わなくていいから。私達に任せてよ」

「せやで! 呪いのせいで朦朧としてるんや、今は歩くことだけに集中しいや!」


二人の温かい言葉が、俺の胸を抉る。頬を張ったり、気を引き締めたりすれば一瞬意識は鮮明になる。しかし、すぐにまた朦朧とし始める。しかも段々と効果が薄くなってきている。

俺は朦朧とした意識のまま、コーネリアの後を追う。すると、コーネリアが急に立ち止まった。

俺は止まれず、足がもつれて派手に転ぶ。


「なにやってんのよ」

「……あぁ」

「ほら、起きて。寝室への階段はまだ先よ。こんなとこで寝ないの」


コーネリアの手を借り、立ち上がる。なんとも無様で、情けないのだろうか。

そう思い、俺は拳を握りしめた。

そんな様子を見て、コーネリアはわざわざ足を止めた。


「あんた、どうしたのよ」

「俺……足、引っ張ってるよな」

「そうね。あんたのせいでこんな羽目になってるんだし」

「ごめん…………」

「……いいのよ」


そう言ってコーネリアは、俺の頭を撫でた。なにが起こったのか分からず、困惑する。


「ダメなシルヴァを支える、それも仲間の役目でしょう? 『コーネリアは俺達の仲間だ』ってあんたが言ったんだから、忘れないでね」


コーネリアは、優しい声で語りかけた。俺はその優しさに涙が溢れてきて、何度も顔を拭った。

俺の涙が止まると、俺達はまた移動を開始した。俺が泣いている間に兵士達を抑えていてくれたアルとセレンには、感謝しかない。


「ここよ! この螺旋階段で上に!」


コーネリアは鍵のかかった扉を魔術で壊し、中の螺旋階段を登っていく。螺旋階段は人一人分ほどの幅しかなく、狭い。

俺は何度もつまづくが、その度にみんなに支えられる。


「ほらシルヴァ、足をしっかり上げるんや!」

「もう少し!」


俺は必死に足を上げ、螺旋階段を登り切った。

また鍵のかかった扉をコーネリアが壊し、中に入る。

そこは、小さな窓が一つついた寝室だった。ベットの上では、王様が寝巻きで俺達を待っていた。


「ふん……」

「単刀直入に聞くぞ、俺の呪いは誰がかけた」

「蛇の足最高幹部が一人、暗殺部隊の隊長だ」


王様は隠す事なく正直に言った。


「どこにいるんだ」

「我も知らぬ。これは試練だ」


王様は、コーネリアを指差す。


「お前が本当に冒険者としてやっていけるのか。それを見極める試練だ」

「……どういう風の吹き回し?」

「……気が変わったのだ」


王様はバツが悪そうに顔を背ける。


「お前の仲間、オーロ・シルヴァが呪いで死んだ時。お前に冒険者としての力は無いと判断し、冒険者をやめて王位を継いでもらう」

「そんな勝手な……」

「シルヴァは黙ってて」


コーネリアに止められ、俺は開いた口を閉じた。

コーネリアはしばらく考え、決意を固めたように大きく頷いた。


「いいわ。シルヴァの呪いを解いた時、あたしは自由に冒険者をやらせてもらうわ」

「王家の誓いとして、誓うか?」


そう言って王様は、縫い物用の針を差し出してくる。

コーネリアはそれを受け取り、自分の耳に穴を開けた。


「誓うわ」


あの日船の上で、コーネリアにピアス穴を開けられた光景がフラッシュバックする。

俺は無意識のうちに、自分のピアスを触っていた。


「お前が王家の誓いを使い、我に大見栄を切った男だ。期待しているぞ」


そう言って王様は、ベッドに寝転んだ。


「あまりうるさくはするなよ」


その王様の言葉と同時に部屋の入り口から、髑髏の仮面をつけた黒い服の人間が大量に流れ込んできた。


「蛇の足?! 罠やったわけか……」

「シルヴァ……逃げ道が塞がれたよ、どうする」


アルとコーネリアとセレンが、守るように俺を囲む。そのさらに外側には、蛇の足の暗殺者達が隙間なく蠢いている。

誰も彼もが鉄爪の先をこちらに向け、静かに俺達を狙っている。

俺はコーネリアの耳に開いたピアス穴から流れる血を見て、静かに手をある方向に向けた。

頭を真っ白にし、逆に意識全体を朦朧とさせる。


「【鎖罠】……」


真っ白な頭の中で、その言葉だけを強く念じる。念じた言葉は口を飛び出し、身体中を駆け巡った。俺の体の魔力が反応して、手から鎖が飛び出し暗殺者達の上を通っていく。その鎖は部屋に唯一あった窓を突き破り、外に飛び出した。


「なんで……俺はあんな方向に……?」


真っ白な頭で必死に考える。しかしそんな必要はなく、アルが俺の体を抱えて走り出した。

アルは俺を抱えたまま、割れた窓から外に飛び出した。セレンもコーネリアも後から続く。

窓の外はもちろん空中。しかも今飛び出した王様の寝室は、王城の塔の一角だった。だから近くに飛び移れる建物なんてないし、クッションになりそうなものは無かった。

おおよそビルの三十階程度の高さ、地面は硬い石造り。

『死』という言葉が脳裏をよぎった。

そして、朦朧とした意識に飲み込まれた。恐怖のあまり、目を瞑る。


「シルヴァ! 意識を保つのよ! 起きてるだけでいいから!」


俺は目を開く。俺達は落下していなかった。正確には塔の外壁にくっついていた。


「シルヴァ、あんたの鎖を伝って地上まで降りるから! 絶対解除しないでね!」


鎖は俺達が飛び出した部屋から塔の外壁を垂れ下がっており、それを掴んで地上に降りていた。

数人の暗殺者が俺達を追って、同じように鎖を伝って降りてくる。


「シルヴァ、合図したら鎖を消してくれる?」

「……やってみる」


アル達は足で塔の外壁を蹴り、勢いをつける。


「今!」


アルの合図に従って、俺は【鎖罠】を解除する。俺達は勢いがついた状態で鎖から離れ、城の屋根の上に着地した。暗殺者達は壁から飛んだが勢いが足りず、地上に落下していった。


「シルヴァ、走れる?」

「あぁ……大丈夫だ。早く術者を、探すぞ……」


俺はフラフラと歩き出す。

おかしい、俺の先に道が見えない。そう思っていたら、コーネリアに腕を掴まれた。

朦朧とした意識の中、そこから先に足場は無いことを知覚した。


「あぁ……ありがとう」

「いいのよ、シルヴァ。でもあたしから離れるの禁止ね」


そう言って屋根の上に引き戻された。

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