Lv.62 暗殺者の呪術
俺は、懐かしい感覚に襲われて目が覚めた。
ライムがそばにいる気がしたんだ。
目を覚ましても、みんなが眠っているだけで、ライムはどこにもいなかった。
「お、目が覚めるなんてやるな」
「……随分元気そうだな」
俺が眠っていたすぐそばにあった窓の外には、首領がいた。仮面越しに、小屋の中を見ている。
「なんの用だよ」
「……体に不調は?」
「不調? ……首が熱いな」
「ちょっと見せてみな」
俺は服を少し捲り、首を首領に見せる。
首領は仮面越しでもわかるくらい、顔を顰めた。
そして静かに鏡を取り出した。
鏡に映った俺の首には、黄金に輝く首輪がついていた。
「……なにこれ」
「簡単に言えば呪いかな。詳しく言えば忘却、死、追跡、朦朧。それと黄金の混合呪術だ」
「どう言うことだ?」
「忘却はその名の通り忘れていく。死はそのまま、死ぬ。追跡はお前のいる場所が術者にわかる。朦朧は意識が朦朧とする。黄金はそれらの呪術をひとまとめにする役割だ」
「……え、俺死ぬの?!」
首領は大きく頷いた。俺の大声に反応して、他のみんなが目を覚ます。
俺は軽く事を説明した。
「それで、どうやればこの呪いは解けるんだよ」
「知らん。だが術者を探して殺せばなんとかなる、はずだ」
「はずって……」
「正直あんまりよくわかっていない。知っているのは、対象の名前を知ってなきゃ呪いをかけれないって事くらいだな」
名前……
そういえばあの王様俺の名前聞いてきたなぁ……とぼんやりと思い出す。
「王様、くらいか。俺の名前聞いてきたのって」
「シルヴァ、ぼーっとしてる……これが朦朧の呪い?」
アルが首領に問いかける。首領は大きく頷いた。
俺はその様子を見て自分の頬を張る。意識がはっきりし、俺は目を覚ましたような感覚に襲われる。
これは……非常にまずい。常に意識をしっかり保たなければ、、、
「……」
「シルヴァ!」
「あ! ……悪い、意識をしっかり保たなきゃすぐに朦朧としてしまうな。死の呪いとかが発動するのって、どれくらい猶予があるんだ?」
「死はおよそ三日。最短なのは朦朧と追跡、術がかかった瞬間だ。忘却はゆっくりと進行していって四日だな」
「つまりまだ誰も襲撃に来ていないって言うことは……うぅ。また意識が、、、」
俺はまた頬を張る。
『テレレテッテレ〜♪』
『レベルが上がりました〜!』
煽られている気がする。
「いや、今はここから移動する事が重要だ。術者を探すぞ」
俺達はここを出る準備をする。
「ふげ〜!」
誰かの声が、小屋の外から響く。
とても間抜けな声だ。
そう思っていたら、吟遊詩人がよろよろと森の奥から出てきた。
「蛇の足です……とんでもない数で押し寄せてきてます……」
「あ〜。やっぱりか」
首領はフラフラと歩く吟遊詩人を抱え上げる。
「おそらく王様が、蛇の足にお前の暗殺を依頼したんだろう。そこで暗殺者の呪術師が呪いをかけたのだろう。俺は用じがあるからもうここに居れないが……まぁ、頑張ってくれ!」
そう言い残して、首領は吟遊詩人を抱えたまま飛んでいった。
なんて適当な奴なんだ。
「準備できたよ! まずはどこいくの?」
「あ〜…………王様のところだ、俺の名前を聞き出したから怪しい」
「なら僕が案内しよう」
そう言って、イーグルさんは床板の一部を外す。そこには隠し階段が続いていた。
「これは城の地下まで続いている。地下闘技場に出て階段を登ると、一階の談話室だ。そこからはコーネリアに案内してもらえ」
「イーグルさんは?」
「僕は蛇の足を迎え撃つよ。なぁに、時止めの魔術師に任せな」
そう言って俺達の背中を押して、隠し階段に押し込める。
床板を直しながら、イーグルさんは思いだしたかのように動きを止めた。
「コーネリア」
「……なによ」
「先生の研究室だがな、この城にある可能性が高い」
「はぁ!?」
「俺はそれを探すために戻ってきたんだ。まぁ、この一件が終わったら一緒に探そうな、僕との約束だぞ」
「……分かったわよ。絶対約束だからね」
イーグルさんはその言葉を聞くと、床板を完全に閉じた。
俺達はいそいそと狭い階段を降り、手掘りで作ったであろう狭いトンネルを通る。
トンネルの終わりは、石煉瓦の壁だった。
俺がその壁を強く押すと、ボコリと石煉瓦の壁が崩れた。
「どこに出たんだ?」
俺達が出た場所は、暗い牢屋の中だった。
ギリギリ視界が確保できる程度の暗闇だ。おそらくナイトメアは出てこない……
「……いや、あかりのある場所に行こう」
「そうだね、またあの影が出てきたら難儀だし」
「あれ、アルはあれがナイトメアだって知らないのか?」
「……確かに似てるけど、悪夢持ちは日中も動くよ?」
「そうか……じゃあ俺の勘違いか? 誰から聞いたんだっけ」
思い出せない。これが忘却の呪いか。
「とにかく、今は急いで上にあがろう。一箇所に止まっていたら追手はすぐに追いついてくる」
「でも出口がわからないよ?」
「あたし、わかるかも」
そう言ってコーネリアは、ゆっくりと歩き出した。どこか不安げな足取りで、暗い通路に出る。
「昔、先生とここにきた事がある気がするの」
「先生って、魔術の?」
「うん。魔術の実験とか言って、先生は魔物と地下闘技場で戦ってた。あ、こっち!」
そう言ってコーネリアは走り出した。
俺達が後に続くと、強い光が俺達を包み込んだ。
目を開けると、無数の松明で照らされたコロッセウムが広がっていた。
観客席にもコロッセウムの中心にも、誰もいない。
「あそこから外に出れるはずよ。でもこの上は普通に王城……位置がバレてるのに誰も待ち構えてないはずがないわ」
「ここから先は…………」
「シルヴァしっかりして! この呪いめちゃくちゃ厄介ね」
「悪い……ふぅ。この先は死地って事だな?」
「そうよ。みんな、気を引き締めてね」
そう言ってコーネリアはコロッセウムの外周をぐるりと周り、階段を登った。
登り切った先は、ボリスの屋敷とそっくりな作りをした談話室だった。
「誰も……いないわね」
そう言ってコーネリアが先陣を切る。俺達五人は、誰もいない談話室に降り立った。
「王様ってどこにいるんだ?」
「多分自室。この城の一番上ね」
「ならチャチャっと登ろうか……?」
おかしい。違和感だ。でも意識が朦朧とするせいで、なにがおかしいのかわからない。
「シルヴァ?」
「どうしたの? また意識がぼーっとしてるの?」
「なんや、もうおねむか?」
一人、俺の方をじーっと見ている。
ナイフを取り出して、俺の方に寄ってきている。
俺はすぐさま近くに置いてあった花瓶を叩き割り、その破片を自分の掌に突き刺した。薄れていた意識が覚醒する。
「【火属性魔術】!」
俺の放った魔術は、ナイフを持っていた人物を丸焼きにした。
「わっ!」
「……蛇の足の暗殺者かしら。音もなくいつの間にかいたわね」
火だるまの蛇の足の暗殺者を蹴りながら、コーネリアがポツリと呟く。
「とにかく急ぐぞ!」
俺はそう言って部屋の扉を開けた。すると俺の顔に、ナイフが深々と突き刺さった。
「シルヴァ!」
「くっ! トラップか!」
「いて〜……でもあんまり痛くないな」
「意識が朦朧としてるからよ! 深手にすら気づかないなんて、めちゃくちゃ本気で厄介な呪いね!」
アルが俺の顔に刺さったナイフを抜き、すぐに治療してくれる。頬に刺さってくれたおかげで、喉奥までは行かなかったようだ。
コーネリアとセレンは周囲を警戒してくれている。
俺はその様子をぼーっと見つめていた。
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