Lv.6 黄金の誘い
「全砲門、目標いけすかないあの女!」
空中の文字列群は赤青緑など様々な色に輝き出した。
「ッてぇ!」
自称大魔法使いコーネリアの合図と共に、全ての文字群は色とりどりの光弾を放った。
アルはそれを躱し、コーネリアの首元に剣を振るう。って
「ちょっ、アル! 殺すな!」
「ん」
間一髪のところでアルは剣を止めた。
「……」
コーネリアは恐怖のあまり、固まっている。
いや。顔がない。ここからでは帽子を深く被っているせいでコーネリアの顔が見えなかったが、アルの剣速によって帽子がずれた今ならわかる。あれはコーネリアの偽物だ。
コーネリアの偽物が光を放ち始める。あの光り方、ゲームなんかで見たことがある。
「アル離れろ!」
「っ!」
爆発寸前のエフェクトだ。
「キュー!」
ライムが馬車から飛び出し、アルと偽物の間に入る。
そして体を目一杯広げ、壁となる。
眩い光があたりを包み込み、轟音が耳を貫いた。
「……アル! ライム!」
「私達は無事!」
「キュ〜……」
まだ眩む視界の中、ライムを抱えたアルが馬車に向かって歩いてくる。
頬を張り、耳抜きをする。周りの状態がだんだんと鮮明になってきた。
「なんて威力だ……」
あの偽物爆弾を中心に、森の中にぽっかりと穴が空いている。ライムが守ってくれたおかげで、馬車のあった方向は何ともない。
少しぐったりしているライムを受け取り、馬車の中に寝かせる。
「おい、自称大魔術師」
返事はない。しかし、今もどこかでこちらを見ているに違いない。
「うちのライムに……いや、アルにも手を出したんだ。それなりの代償は覚悟していろよ」
「ふん! あたしの前で才能って言葉を使うのが悪いのよ!」
「そこだ! 【鎖罠】!」
「ギャン!」
何もなかった空中に向かって放たれた鎖は、コーネリアを縛り上げた。
そのまま身動きができずに、コーネリアは地面に叩きつけられる。
「うぅ……」
涙目で地面に転がっているコーネリアは、あいも変わらずアルを睨んでいる。
「おい、なんでこんな事した」
「ふん、あたしの前で才能って言葉を使ったからって言ったでしょ?! 脳みそ詰まってないの、この目つき悪男!」
「あぁ!?」
なんだこいつ。無性に腹が立つ。やっぱりアルを止めない方が……
「ごッ! かはッ……」
俺の目には鎖で巻かれたまま、アルに腹を蹴られるコーネリアが映った。
そんなコーネリアの口から、極小サイズの魔導書がポロリと落ちた。
「攻撃しようとしていたから、つい……」
「……次からはもっと穏便に済ませてくれ」
「ん……」
アルは申し訳なさそうな顔をしている。しかし、表情ひとつ変えないまま腹を蹴る姿は、怖かった。
「カヒュ……ケホッゴホッ……」
「こんな相手を尋問するのはどうかと思うが、仕方ない。なぜ襲いかかった?」
「才能って……あたしは才能……悪口言った……」
声が小さく、その上息も途切れ途切れなので聞き取りにくい。
「なんであたしばっかり……」
そう言ってコーネリアは涙を流し始めた。聞き慣れた言葉だったから、よく聞こえた。
自分で何度も言ったから。何度も聞いた。
俺は【鎖罠】を解除した。
「……どうしてあたしを解放するのよ」
「俺と同じ……いや、もう抵抗する気がなさそうだったからだ」
俺はそう言って馬車に乗り込んだ。アルも続いて馬車に乗り込む。
ライムは荷台の布団の中で、すやすやと眠っている。
「悪かったな、うちのアルがさ」
「申し訳ない」
俺がそう言うと、俺に続いてアルは素直に謝った。
コーネリアは唇を噛んで悔しそうにしている。何かをずっと繰り返しているが、声が小さくて聞こえない。
「お前の魔術すごかったぞ。じゃあな」
そう言い残し、俺は馬車を進ませる。
「待って!」
コーネリアのうわずったような声が、馬車を引き止めた。
「あたしも、殺そうとしちゃってごめん……でもあたし最初は殺す気なんてなかったの。これだけは、信じて」
「わかった。私こそ最初から殺そうとしてごめんね」
なんという物騒な会話だろうか。まるで1920年代のアメリカの治安のようだ。歴史の授業で聞いただけだが。
いや、下手な例えはいらないな。
「それにしてもすごい爆発だったね。あれはなんの魔術?」
「え!? じ、実は独学で作ったの……」
「え、すごい! 色んな人一緒に戦ってきたけど、独学で魔術を作った人は見たことないよ!」
何故かアルとコーネリアが仲良くなっている。ついさっきまで殺し合ってたよね君たち。
俺はライムが包まっている毛布を御者席に持ってきて、膝の上に乗せた。そして盛り上がるトークを邪魔しないように静かに干し肉を取り、ガジガジとかじり始めた。
_______
「あの、シルヴァ」
俺がもう味がしなくなった干し肉を齧り続けていると、荷台からアルが声をかけてきた。
その声色は、捨て猫を拾ってきた子供のようにおどおどしていた。
「なんだ」
「お願いがあるんだけど……いいかな?」
「はぁ……いいぞ、乗せろ」
「実は。っていいの!?」
「いい。早く行くぞ」
どうせコーネリアも乗せていっていいだろうかとかだ。無駄な問答をする気力はない。同乗者が一人増えるくらい、別にどうってことない。
「コーネリアよかったね!」
「うん!」
「んで、どこに行くんだ?」
「この先の街、『サンペトル』よ!」
俺の目の前に、急にウインドウが現れた。
『イベント:黄金竜討伐作戦 が開始されました』
ん?
「ちなみに最終目標とか……あるのか?」
「まずは黄金竜を倒す! そして私の名前を広めて、みんなが認める正真正銘の大魔術師になるのよ!」
何か。俺はとんでもない事を引き受けた気がする。
というか黄金竜って何。
そんな俺の顔を見て全てを悟ったのか、アルが助け舟を出す。
「ちなみに黄金竜というのは?」
「黄金竜はその名の通り体が黄金でできているの! だから硬いのよ!」
なるほど。物理攻撃が効かない系の敵か。
「しかも生半可な魔術も効かないのよ!」
俺は考えるのをやめた。
だって魔術も物理も効かないんじゃどうしようもないじゃないか。倒しようがない。
「んで、そいつを倒す算段があるのか?」
「あるわよ! 生半可じゃない魔術で消し飛ばせばいいのよ!」
「キュ……」
ついライムみたいな声が出てしまった。当の本スライムは俺の膝の上で寝ている。
しかし、ライムみたいな声が出るのも仕方がない。なぜなら、おそらく。
いや、確実にこのコーネリアという魔術師は馬鹿だからだ。そしてその馬鹿が考えた無茶苦茶な作戦に、内容も聞かずに許可してしていた俺も馬鹿だ。
今ならまだ断れるか。と思い口を開こうとする。
「キュ」
「……ライム」
「……」
いつの間にか起きていたライムは、黙って首(首?)を振った。まるで「男に二言はないっていうだろう? 乗りかかった船だ、最後まで行こうぜ……」と言わんばかりの、哀愁たっぷりの目を向けてきている。
「……はぁ。出発するぞ」
「ありがと、シルヴァ」
「よろしくね!」
「キュ!」
こうして束の間だが、旅のメンツが増えた。
馬車は一番近いからという理由で、当初より寄る予定だった『サンペトル』へと向かって進み出した。
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