Lv.53 家出少女
宿屋・家出少女は縦長な建物で、隣の宿屋達に挟まれて細くなったような形だ。
二階の宿泊部屋はワンルーム……というかカプセルホテルのような一人用の部屋だった。そのため横に狭いこの宿でも、6部屋用意できているようだ。
三階は三部屋しかないが、大きめ広めで団体客も利用できる部屋だった。
そして俺達のいる四階。スイートルームと呼ぶにふさわしい大きさ、フロア一個を丸々部屋にしている。
ちなみに一階は宿屋の主人、俺がコーネリアのお母さんと勘違いした人が住んでいる。名前はスーザンさんと言うらしい。
さて。
スイートルームにて荷物を置き一階、スーザンさんの居住スペースに集められた。
もちろんコーネリアが、集まるように言った。
丸テーブルを俺達四人と、スーザンさんが囲んでいる。
テーブルの上には、パンの入ったバケットが置かれている。
「えぇと。お茶とかいるかしら?」
「ありがとうスーザン、もらっておくわ」
スーザンは手早くお茶を全員分テーブルの上に置く。
コーネリアは一口飲んで、話を始めた。
「まずはこれからの行動を伝えるわね」
「ちょっと待ってくれ、結局ここには何のために来たんだ?」
「ここは昔から、あたしが家出した時に使ってた隠れ家よ。四階はあたし専用の部屋なの」
コーネリアはスーザンさんをチラリと見る。
「えぇ。昔からコーネリア様にはよくして」
「様は余計よ」
「はい。コーネリアはよく家出される人で、家出する度にここの四階に寝泊まりしていたんです。最初は何年前でしたかね……十四年前でしたか?」
「そうね、あたしが五歳の頃だったかしら」
「ふふふ。だからいっそ専用の部屋にしてしまいました。部屋の掃除は毎日欠かさず行っていたので、安心してくださね」
「もう! 毎日は大変だろうからたまにでいいって言ったじゃない!」
「いつ家出して転がり込んでくるかわからなかったので」
コーネリアとスーザンさんは、思い出話に花を咲かせている。
本当の親子のように見えるのは、それだけコーネリアと過ごした時間が長いのだろう。
そしてそれは、それだけコーネリアが家出していた事も表していた。
俺達を置いてけぼりにしていた事に気づいたコーネリアは、咳払いを一つした。
「と、とにかく! この国ではここを拠点として動く! わかった!?」
「はい」
「はいシルヴァ! 質問かしら?」
「料金は一泊いくらですか?」
「タダよ!」
「……スイートルームなのに?」
コーネリアは頷く。
俺はスーザンさんの方を見るが、ニコニコしながら首を振った。
どうなってるんだ。いくら専用部屋と言っても無料だなんて。
「でも家事の手伝いはしてもらいますよ?」
「う。わかってるわよ!」
コーネリアはバケットからクロワッサンを掴み、一口で食べた。
「明日からの予定は、明日あたしの実家に帰る! 次の日、国を出る! 以上!」
「たったの三日? それだけ?」
「そう、それだけよ!」
「もっと実家でゆっくりしなくていいの?」
アルの発言で、コーネリアとスーザンさんが顔を曇らせる。
やっぱりコーネリアとコーネリアの実家との仲は最悪なようだ。
ではなぜ。
「なんでそんなに仲悪い実家に戻るんや?」
セレンが火の玉ストレートを投げつける。
スーザンさんは困ったような顔をするが、コーネリアは冷めた表情になった。
「一応、もう戻る気はないって言う事を伝えるためよ」
「スジを通すって事か」
「えぇ。一応世話にはなったから、別れの挨拶をね」
「本当にもう帰ってこないのですか……?」
「えぇ。もう帰ってこないわ」
コーネリアは決意を固めたようにそう言った。スーザンさんは口元を覆って泣き出した。
「もう決めたことよ。もう魔術師として生きていく事を決めたの」
そう言ってコーネリアはスーザンさんにハンカチを渡した。そして手を叩き、俺達を見回した。
「さぁ! この国には三日しか滞在しないのよ! この国の商業品はどれもこれも一級品よ、買い物をするならうってつけだわ。それに上級エリアは警備が厳しいけど、高級志向な商品が大量にあるからそこもおすすめよ」
そう言って俺達を部屋から押し出した。
「コーネリアはどうするんだ?」
「あたしは……あたしはいいのよ!」
コーネリアはそう言って俺の尻を蹴った。
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