表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/104

Lv.50 敗北の味

半壊して風通しの良くなった屋敷の中で、生き残ったメイド達に傷の治療をしてもらう。

アルは重症。セレンは背骨に一撃を食らって、体が動かない重体。

コーネリアは魔力切れを起こしてもなお魔術を使ったせいで、生命力を消費して生死の境を彷徨っていた。

俺はレベルが上がったおかげで無傷だ。


メイド達は怪我人や生き残りを一部屋に集めて、そこを一時的な病室に改造していた。

俺達は客人ということもあってか、その隣の部屋が俺達のために用意されていた。部屋の中はベッドが四つ、そのうち三つに包帯まみれのアル、うつ伏せに寝かされたセレン、まだ顔色が白いコーネリアが寝かされている。

俺はというと、残ったベッドに腰掛けていた。


「はぁ……」


本は取られた。コーネリアから託された本。ボリスが遺した本。

それに、キャットに全く歯が立たなかった。途中でキャットの様子がおかしくなったから、攻撃が通ったんだろう。その証拠に、逃げる寸前のキャットはピンピンしていた。

完全敗北と言っても過言ではないだろう。


「俺、弱いな……」

「何言ってんのよ」


コーネリアが、うっすらと目を開けてそう言った。

その視線は、天井を向いている。


「コーネリア……」

「あんたはあたしが鍛えたのよ。強いわよ」

「でもキャット達に逃げられた。それに、本も取られた……」

「あぁ、そのことだけど」


コーネリアは思い出したかのように呟いた。


「逃げられてないわよ」

「え?」

「あの魔法陣、おおよそ転移系の魔術よ。だから魔法陣の内側、転移範囲内にあたしの全魔力を注いだ……魔力爆弾を詰め込んだの。だから逃げた先、恐らく蛇の足の本部は今頃木っ端微塵よ。運が良ければあいつら死んでるかも」


コーネリアは目を閉じて、うめき声を上げながら上半身を起こした。

そしてローブの中から、一冊の禍々しい魔導書を取り出した。


「シルヴァに渡した本、あれ偽物よ」

「えぇ?」

「あたしのローブの中が一番安全なんだから、敵の目の前で渡すわけないじゃない」


そう言って、俺に本を差し出してきた。

俺が本を受け取ると、コーネリアはだるそうにまた寝転んだ。


「注意事項はあの時と同じよ……あ、他の人間に渡さないようにね」

「……わかった」


その言葉を聞くと、コーネリアは寝息を立て始めた。しかし、顔を歪ませている。


「……もしかして」


俺はコーネリアの荷物の中からゴンザレスパジャマを取り出し、コーネリアの体の上に広げたやった。

すると、コーネリアは安心したような表情になった。


「おやすみ、コーネリア」

「……もう空気読まんでええか?」

「セレン、起きてたのか?」


うつ伏せのままのセレンが口を開く。

うつ伏せだから、枕で声がくぐもっている。


「ぷはっ。息苦しいわ……なんでうちだけうつ伏せやねん」

「背骨がやられてるからな。今治療中だとさ」

「けっ……シルヴァのレベルアップとやらが羨ましいわ」

「そう言えば、セレンは今まで何やってたんだ?」


セレンは枕から頭だけ上げて、枕でフィルタリングされていない新鮮な空気を吸った。

しかし首が疲れたのか、また枕に顔を埋めた。


「うちはコーネリアに言われて、図書室におったんや。『宝探しは海賊のお家芸でしょ、よろしく頼むわ』って言われてな」


みょうにクオリティの高いコーネリアのモノマネをしながら、セレンはそう語った。


「宝探し……ボリスの本か」

「そ。うちが見つけたんや。クック、ゴースト、うち。最後らへんはコーネリアも参加して、大冒険やったで」

「そうか……メイドさん達にも感謝しなきゃな。クックさんとゴーストさんは?」

「ゴーストは死んだ。あの闇の中で何かからうちらを逃してな。クックは闇の中でメイド達を守りに行くって言って別れたわ」

「死んだのか……そうか……」


実際あまり会話もなかったが、助けることができなかったのが悔やまれ。


「ま、なんや。闇の中にいるべからず〜って言いよる理由がわかったな」

「そんなこと言うのか?」

「へ? ……あぁ、そうか。みんな子供の頃から言われんねん。完全な闇の中には、絶対に入るな。ってな」

「その理由があの影の化け物?」

「多分そうやな。うちのピストルやカトラス食らっても平気そうな様子やったしな〜……怖いわぁ」


セレンは急に京都弁になって、そのまま静かになってしまった。


「失礼します……!」


そう言って、赤短髪のメイドが必死に声を抑えて部屋に入ってきた。

さっきセレンとの会話で名前が上がった、クックだ。


「お食事を持ってきました……!」

「ありがとう」


俺はクックから、シチューの入った器を受け取る。

それからクックは、三人の枕元に蓋をした器を置いた。若干シチューの匂いが漏れている。


「あの……!」


クックさんが、俺の目の前にやってくる。


「どうしたんですか?」

「いえ……まだ、メイド長とファイさんが暗殺者だったことが信じられなくて……!」

「あぁ…………俺もだ」


二人の間に気まずい空気が漂う。


「……私が代理のメイド長になったのですが、やるべきこととかがわからなくって……! アドバイスをもらえませんか? お願いします!」

「アドバイスって言ってもな……」


俺に言えることなんて、何もない。


「俺は、自分のために戦ってるからな……他人のために戦うメイドに対してのアドバイスは、俺は何も持ち合わせてないよ」

「自分のために……戦う……」

「そこそんなに変だった?」


クックはしばらく同じ言葉を繰り返し、勢いよく部屋を飛び出した。

俺は、呆気に取られた後。シチューを飲んだ。

・感想

・いいね

・ブックマーク

・評価等


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ