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Lv.46 ド腐れメイド

「おめでとう、シルヴァ」


死体の山の上に座りながら、キャットは拍手をし続ける。


「本当ならこのまま全員殺す予定だったんですけどにゃ〜」


あの無表情とは打って変わって、にちゃりと嫌な笑みを浮かべる。


「お前、だったんだな」

「正解だにゃ」

「その不愉快な語尾の『にゃ』をやめろ」


キャットはますます笑みを強める。


「お断りだ。にゃ」


ファイが立ち上がり、懐からナイフを取り出す。


「殺す」

「やってみろにゃ」

「ッ!」


ファイはナイフを振りかぶって投げつける。

しかし、それはキャットによって指で摘まれ、止められる。


「どうして。飛び道具に弱いんじゃ!」

「あ〜……あれはメガネなんて、慣れないものをつけていたからにゃ」

「くっ……! ご主人の仇ぃ!」


ファイは壁にかかった短刀を持ち、キャットに斬りかかる。

しかしキャットは欠伸をしながら、その短刀を足の指で受け止めた。


「ふざけるなぁ! まともに戦え!」


そんなファイの叫びを聞いて、キャットはますます笑顔を輝かせる。

次の瞬間、ファイの体が後ろに吹き飛ぶ。

俺達の目の前を抜け、壁に叩きつけられる。その腹には、足跡がくっきりついていた。


「いや〜昂った昂ったにゃ。やっぱり人の嫌がることをするのは気分がいいにゃ〜?」

「性格カスってわけか」

「正解〜……にゃ。この語尾もお前が嫌がるからやめな〜いにゃ」


アル含め、周りのメイドが剣を抜く。


「ふふふふふ。勝てると?」

「この人数相手。暗殺者程度なら数人の犠牲で済む」


アルの言葉を聞いて、キャットは腹を抱えて大笑いした。

アルはその様子を見て、眉一つ動かさなかった。


「お前。暗殺者じゃないな」


俺の言葉に、笑いがぴたりと止む。


「ほぉ……そこまで見抜いたかにゃ〜? 確かに。私は暗殺者なんかじゃない。蛇の足、殺戮部隊唯一のメンバーにして、蛇の足総リーダー。その名も…………」


俺達はキャットの言葉に、耳を集中させた。

キャットは、そんな俺達の様子を見て笑みを浮かべた。


「やっぱり教えてやんね〜にゃ〜!」


馬鹿にしたような笑みを浮かべて、俺達に中指を立てた。

そんなキャットに、アルが斬りかかった。

アルの剣を避け、キャットは死体の山から飛び降りる。

着地するが、着地点はすでにメイド達によって包囲されていた。

振り上げられた何本もの剣が、一気に振り下ろされる。


「ひゅ〜! 流石にいい連携だにゃ〜!」


キャットの声が、俺の後ろから聞こえた。

直後、俺の横腹に激痛が走る。


「内臓の掴み取りにゃ〜!」


その言葉の通り、俺の横腹を突き破ってキャットの手が俺の内臓を鷲掴みにしている。

胃を掴むなどと言うが、文字通り掴まれる奴なんてこの世で俺くらいだろう。


「おっと動くなにゃ〜。間違ってぶっ殺しちゃうかもにゃ〜?」

「この外道が……ぶっ殺してやる」

「にゃ〜♪ 好きな人の前で、そんなはしたない言葉遣いでいいのかにゃ〜!」


アルはキャットの挑発に乗り、剣を持ってキャットに襲いかかる。

キャットは内臓を掴んだまま俺の背中に隠れ、俺を盾にする。

アルの表情が歪み、剣を逸らす。


「きゃ〜! キャット様あぶな〜い!」


キャットはそう言って俺の体をまるで腕ハメ人形のように振り、アルが逸らした剣に斬らせた。

俺の足から鮮血が吹き出す。完全に切れてはいないが、骨まで切れたようだ。


「はっはははははは! いい表情にゃ〜! どうだ、お前の愛する者を自分の手で痛めつけた気分は〜? ん〜?」

「違う……違うのシルヴァ……」


アルは青ざめた表情で首を振り、剣を床に落とす。

肝心の俺は、血を失いすぎて逆に冷静になっていた。


「ま、守れ! 我らのご主人の仇をうてぇ!」


メイド達が剣を持ち、キャットに一斉に飛びかかる。

キャットは俺を投げ捨て、飛びかかってきたメイド達を次々と殺していく。


「有象無象どもめ! ボリスからすればお前達など使い捨てのちり紙程度の認識だったんだ! その証明に、簡単に私に殺されるんだにゃ!」

「み、耳を貸すな! 我らはご主人の魂と共に!」


メイド達は波となって、キャットに襲いかかる。恐怖に青ざめる者、涙を流す者、怒りを燃やす者、みんなみんな次々と死んでいく。


「今のうちにこちらへ」


俺の体を、誰かが支える。

見てみれば、いつぞやの三つ編みのメイドだった。


「アル様も、こちらへ」

「あ、いてて」


俺の腹から、内臓が出そうになっているのがわかる。それを三つ編みのメイドは、手で押さえてくれている。

いつまで経っても動かないアルの首元を引っ張り、医務室の隣の部屋に入る。


「みんな、あなた達を逃すために犠牲になっています」

「……なんで、俺達なんだ?」

「あなた達は、私達の何倍も強いことを知っています。あの場で一番に切り込んでいけるなど、相当な修羅場を潜ってきたと見えます。だから、みんなあなた達に託そうと思ってるんです。……私なんて、怖くて漏らしてしまいましたから……」


三つ編みのメイドは、そう恥ずかしそうに言う。

しかしすぐに自分の頬を張り、近くの棚から救急箱などを取り出す。


「今から応急手当てをします。どうか死なないでください」

「まぁ……頑張るよ」


三つ編みのメイドは慣れない手つきで傷を治療する。しかし、内臓を握りつぶされているのか俺の出血は止まらない。


「死なないで……死なないで……」


アルが、何度も何度も小声で繰り返す。

抜け殻のように壁に寄りかかったまま、俺の事をぼうっと見ている。

廊下からは血が勢いよく壁にまでかかる音、メイド達の骨が砕かれる音、絶命する瞬間の断末魔。そして、キャットの笑い声が聞こえてきた。


部屋の扉が、ゆっくりと開いた。


「お待たせにゃ〜」


そこには、返り血を余す所なく浴びたキャットが満面の笑みで立っていた。

三つ編みのメイドが立ち上がり、小さな針を構える。必死の治療のおかげで腹の穴は塞がったが、俺の内臓はズタボロのままだ。


「まだ死ねないなんて難儀だにゃ〜。あの薬ってそんなにやばい物だったんだにゃ」


そう言いながら、三つ編みのメイドを殴り飛ばす。

一撃で失神したのか、三つ編みのメイドは壁に当たってピクリとも動かない。


「お前がこの屋敷に来なければにゃ〜。みんな死ぬこともなかったのににゃ〜」

「うぐっ……」


俺の首を片手で絞めながら、キャットは俺を持ち上げた。


「お前のせいだ、お前のせいでみんな死んだにゃ。お前の責任で、アルベルドも、セレンも、コーネリアも死ぬにゃ」

「ぐ……」


キャットはニヤニヤしながら、首を絞める手に力をゆっくり入れる。

そしてそのままアルの目の前に持っていく。


「正気を失ってるにゃ〜。ほらほら、死んじゃうにゃ〜?」


しかし、アルは反応しない。

キャットは俺を顔を、アルの顔に近づける。

しかし、アルは一切反応しなかった。

その目は、俺の瞳の奥を見ていた。


「は〜〜〜つまんないにゃ」


キャットは俺を扉に向かって投げつけた。扉を突き破り、廊下の壁に叩きつけられる。


「ゲホゲホ……体、動かないな」

「ほぉら。絶望しろにゃ。お前が殺したも同然のメイド達にゃ」


キャットは廊下を指さす。そこには、メイドの死体が廊下を埋め尽くしていた。


「こいつらに何か言うことはないかにゃ〜? えぇ?」


俺は、キャットの顔に唾を吐いた。


「お前のねネーミングセンスどうかしてるぜ。蛇の足ってなんだよ」

「……」


キャットは明らかにイラついた顔をした。


「この世に存在しない影の組織にはピッタリな名前にゃ。それに、私の好きな蛇足という言葉も込めてるにゃ」


俺の前に立ち、拳を振り上げる。


「メイドの土産話にはなるにゃ。おっと冥土だったにゃ」

「くだらない。蛇の足って最低集団はジョークのセンスも最低なのね」


廊下の奥から飛んできた火球が、キャットの体を吹き飛ばす。

廊下の奥。火球が飛んできた方向には、コーネリアが魔導書とメイド達を連れて立っていた。

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