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Lv.37 騒夜の告白

アルがみんなを部屋に集めてくれた。

なぜか宿屋の主人も連れてきたので、それは丁重にお返しした。


「あー……ここに集まってもらったのは、他でもない。コーネリアとの約束を果たすためだ」


みんなの顔を見ながら、言葉を紡ぐ。

すると、コーネリアが不満そうな顔をしていた。


「ちょっと、あたしの責任みたいに言うの止めてくれない?」

「あ、それはすまん……」

「あんたの選択でこうなってるのよ。あんたが秘密にしてる事が、全ての始まりなんだからね」

「分かってる」


コーネリアが、分かったならいいのよ。と言った顔で、浮かせた魔導書に座る。

するとセレンがおずおずと前に出た。


「えっと……うちはここにいてもええんか?」

「構わない」

「でも、うちは別に……その、仲間じゃないし……」

「え? 仲間だと思っていなかったのか!?」

「嘘?! あたし達と一緒にあれだけ船旅したのに?」

「私の事気遣って時々様子を見にきてくれたのに!?」

「え、うぅ……うちは仲間でええんか?」


俺たちは三人は全く同時に、大きく頷いた。


「ほ、ほな。居させてもらうな」


セレンは照れ臭そうに、椅子に座った。


「俺は?」


ドアの外から声が聞こえる。

俺はカトラスを投げつけ、宿屋の主人を追い払った。


「さて、これでみんな揃ったわけだが……」


俺は自分の膝の間を見る。本当はもう一人。いや、前に進まなきゃ。


「俺の秘密を明かさせてもらう」


_______________


「ってわけで、俺はこの世界にやってきたんだ」


短く、俺の異世界に来た経緯(いきさつ)を話す。

しかし、みんなの反応はあまり良くない。

アルはなんの話か分かってなさそうだし、セレンはもう既に眠そう。

コーネリアに至っては、苛立ちを顔に出している。


「頼む、本当の話なんだ」

「あー……私は、信じるよ?」

「そうなんやぁ……」

「……」


だめそうだ。


「なら、そこまでは信じなくてもいい。正直言ってどうでもいいし、俺も忘れたい過去だからな」

「じゃあなんで話したのよ! ブチギレよブチギレ! 焼き尽くしてやるわ!」


俺に魔導書を向けるコーネリアを、アルが必死に(なだ)める。

俺は自分の過去は一旦置いといて、コーネリアが興味を持ちそうな話を出す。


「まぁ、その時にスキルってのを受け取ったんだ」

「……で、そのスキルってのを説明してあげなさいよ」


コーネリアはイラついた表情のまま、また魔導書の椅子に座ってくれた。

しかし、魔導書の一つは俺に向いたままである。


「あー……簡単に言えば、魔法なんてなくても発動できる魔術?」

「卑怯よね。あたしにもよこしなさいよって……」

「いや、女神にもらったものだから俺に言われても……」

「なァァァ! その女神とやら! あたしにもスキルをよこしなさい! 今すぐに!」


しかし。何も起こらなかった。

俺は恐る恐るコーネリアを見る。怒り狂って俺に向かって魔術を連打してくるかと思ったが、普通に落ち込んでいた。


「あ、あの……」

「いいわよ……才能も何もなくっても、あたしには魔導書があるから……」

「い、いや。俺よりもコーネリアは凄いじゃないか。な? 魔術だってあんなに」

「いいからさっさと続き、話しなさいよ……」


俺は黙って頷いた。今は何を言っても逆効果そうだ。


「とりあえず。そんなスキルの数々は、みんなも知っているだろう」

「あの鎖もそうだって前に言ってたよね」


アルが手から鎖を出すジェスチャーをする。


「そう。それに」


『これも』


「こんな風に、普通では出来ないことができる」


そんな中、アルが手を挙げる。


「でも、それって魔術じゃないの?」

「実際魔力を消費しているから、まだ発見されていない魔術の可能性はある。それに魔術もスキルの中に入っているし……な?」

「……ふーん」


コーネリアは少しだけ、元気を取り戻したように見える。

セレンは椅子に座りながら、既に眠っていた。


「それでそのスキルの中に厄介なのがあってな……?」

「厄介なの?」

「それが……あー……強さを数字にして見れる能力があるんだが……えーっと……」


みんな頭にはてなを浮かべている。違うんだ。説明が難しすぎるんだ。どうやってレベルをわかりやすく説明するんだ? まずそもそもゲームの概念が無いから、レベルって説明から入らなきゃいけないし……


「一応聞くが、レベルって何かわかるか?」

「「……?」」

「あー……個人の強さを大まかにした数値だと思ってくれ」

「「……!」」


なんとか理解してくれたようだ。

俺はわかりやすく説明を続ける。


「その数値が、俺には分かる。それで、その数値は戦闘とか、食事とか、トレーニングとかこなすと上がっていくんだ」

「強さの数値だから、上がっていくんだね?」

「そう! アル、その通りだ! んで、その数値がある一定数を超えると、俺は死ぬらしい」


部屋を沈黙が包み込む。


「はぁ?」


最初に声を上げたのは、寝ていたはずのセレンだった。


「今、なんて?!」

「はぁっ!?」


次点にアルとコーネリアが、同時に声を上げた。


「強くなりすぎると世界が拒否反応を起こして、俺が死ぬ。ってのがわかりやすいかな」

「じ、じ、じ、じゃああたしが特訓してたのは、あんたの命を短くしてたの?!」

「まぁ、大まかに言えば?」

「……」


コーネリアは放心状態だ。


「いや、あのな?」

「シルヴァ、そこ動かないでね」

「え?」


俺の足の間に、アルの剣が突き刺さる。


「シルヴァ、強くなったら死んじゃうんだよね。じゃあこれ以上強くならないようにするから。大丈夫だよ、私がお世話してあげるから。私、討伐隊で腕も足もなくなった人を世話してた事もあるから。ね?」

「待って待って待って」


アルの目は、至って正常だった。正常に、俺のことを見ていた。めちゃくちゃ怖い。

あぁ、アルと出会った時も怖かったな。助けてライム。

なんて考えつつ、【鎖罠】でアルの動きを止める。


「大丈夫だよ。痛いのは一瞬だし、ね?」

「違うそうじゃない。俺はほっといても死ぬんだよ」

「……え?」

「女神が厄介なスキルを善意でプレゼントしてきたんだ。『勝手にレベルアップ』するスキルをな」

「……やだぁ。シルヴァ死なないでぇ……」


一瞬の動作停止の後、アルは急に泣き出して俺に抱きついてきた。

一瞬で俺の服は、涙でびしょびしょになる。というかコーネリアが魔導書で、俺の頭から水をかけてきている。


「頭冷やしたら? その冗談面白くないわよ? って顔だな」

「よく分かったじゃない。あたしの親友泣かす冗談に、次は火炙りの罰が待ってるわよ?」

「信じられるか、これほんとのことなんだぜ?」

「……マジ?」

「マジ」

「大マジ?」

「ガチマジ」


「……めちゃくちゃマジ?」

「だからマジだよ」


コーネリアは水を止め、頭を抱えた。

そしてパッと顔を上げた。


「なんであの時そこまで話してくれなかったのよ!」

「いや、混乱するかなって……」

「スキルの基本的な説明だけじゃ足りないわよ! 命の危機があるならそう言ってよ、もっとマシな案探したのに!」

「え? そんなの存在するのか?」

「あたしが知ってる中にはないわよ! このオタンコナス!」


オタンコナスってなんだよ。コーネリアの暴言のレパートリーが時々子供っぽくなるのはなんなんだ。

アルはまだ俺の胸に引っ付いて泣いている。

セレンに至ってはもう寝ている。確かにずっと船の操舵を任せていたから眠いのだろうが、少しは反応してくれたっていいじゃないかと思う。

しかしアルは泣きすぎだ。


「アル、泣き止んでくれよ」

「いやぁ……シルヴァが死んじゃう……」

「まだ死なないよ。それに、それを防ぐために俺は旅をしてるんだ」

「……ぐす。どう言う事?」


アルは、やっと泣き止んでくれた。


「俺のレベルが上がることを防ぐ手段を、俺は探している。海の秘宝にそれを願おうとしたが、海の秘宝はとんでもない大量殺戮兵器だったってオチだった」

「……もしかして黄金竜も?」

「コーネリアには少し悪いが、その通りだ。黄金竜には力を奪う能力があるって言うんで期待したんだが、力を奪うじゃなくて一時的に弱くするだけだった」

「……あたし、利用されてただけ?」

「いや、う〜んそうとは言い切れないが、不快に思ったんなら謝る」

「え〜、もうなんか複雑だしいいわ……この『いいわ』はどうでもいいわって事だから、そこ間違えないでね」

「了解」


コーネリアは疲れた表情で、俺の足元に寝転がった。俺の膝から先がないからって、自由すぎるだろこいつ。

と言うかそろそろ……


「コーネリア、退いた方がいいぞ」

「はぁ? あたし疲れてるんだけど?」


『テレレテッテレ〜♪』

『レベルが上がりました〜!』


「へぶっ!」


コーネリアはレベルが上がって生えた俺の足に押されて、ベッドから転げ落ちた。

アルもセレンも、信じられないものを見た目をしている。


「レベルが上がることにもメリットはある。強くなるし、傷が治るし、新しいスキルを習得できるようになったりする」

「は……はぁ〜???」


コーネリアはキレ気味に立ち上がった。


「あんためちゃくちゃよ! それにずるいわ! 死ね!」

「だから自然に死ぬっての」

「死なないで!」

「だから死なないように……あぁ、めんどくさい」


わちゃわちゃするみんなを見て、俺はこんな騒がしさも良いな。としんみり思った。前の俺では、考えもできなかった思考だ。

一旦みんなが落ち着くのを待って、俺は話の続きをする。


「今の俺のレベルは37……あれ、36だ。死ぬのは101レベルって事だけわかっている」

「つまり、それまでになんとかする方法を探さないと……」

「あんたが死ぬ……」

「って事やな」

「理解が早くて助かるよ。そう言うことだ」


みんなは頭を捻る。解決法は死ぬほど自分で考えた。それでも思いつかなかったんだ、誰も良い案を出せるわけがない。


「あたしの実家に……いや、なんでもないわ」

「え、良い案あるの?」

「なんでもないって!」


俺はコーネリアの足元に縋り付く。


「頼む俺だって死にたくないんだ! だから探して色々やってるのにどれもこれも上手くいかない。知らない世界、見知らぬ土地でいずれ必ず来る死に怯えながらずっと過ごすのは嫌だ! 頼む知ってることがあったら教えてくれよぅ……!」

「く……あぁもう分かったわよ! あんたの事は見捨てないから! 実家にそれっぽいのがあった気がするから!」

「じゃあそこに行こう! 次の目的地はコーネリアの実家だ!」

「……もう」


コーネリアは、少し頬を赤らめながらため息をついた。


「まぁ、俺が言うべきことはこれくらいかな」


俺はみんなの顔を見る。

アルは変わらず俺の顔を見ている。しかし最初とは違い、俺の膝の上に座っている。

コーネリアは顔を覆って天井を見ている。実家から家出してきたというが、帰りづらいだろうな。

セレンは……寝ている。アルが座ってた椅子を枕に、もう一つの椅子で体を支えている。ここ数日まともに寝れていない気がする。ここは起こさず寝かしておこう。


セレンがすやすやと寝ているのを見ると、俺も眠くなってきた。

ベッドにそのまま寝転ぶ。すると、アルが俺の腕を枕にして添い寝してくる。

するとどうしたことか、コーネリアも俺の腹の上に足を置いて、魔導書でベッドを作っている。


俺はそんな天国のような空間で、久しぶりによく眠った。

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