Lv.31 幽霊船
渦潮の中心部は、目測でも測りきれない。海に落ちた時のことを思い出すと、およそ海底まで続いているのだろうか。
その渦潮の外側には嵐の壁が張られており、俺たちの逃げ道を塞いでいる。
空には厚い雲が張られており、絶えることなく破裂している雷が光源になっている。
そして何より、船嘴に刺さったボロ船。かろうじて、蛇の描かれた海賊旗らしきものが判別できる。
「ようこそ〜〜〜♪ これがうちらが目指した、うちが負けた神海や〜〜〜♪」
「ここが神海? もっと神秘的なところを想像してたんだが?!」
「うるせぇ!」
セレンの飛び蹴りが、俺の腹に直撃する。
「もう後戻りはできん。船嘴に刺さった海賊船、あれはサッチの船や」
「……ってことは」
「うちらは実質全ての海賊を蹴散らしたってことや。何より嵐の壁を突破できたことがその証明や」
「でもサッチとか言うのも、俺たちを無視して神海に入れたんだろ?」
「……それでも突破できたんや。あとは」
「光の島?」
セレンは大きく頷いた。
俺は海に落ちないように体と船を結びつけたまま、船縁に寄りかかった。しかし、どこにも光の島らしきものはない。
というか光は、空で輝いてる雷くらいだ。
「どこにもないぞ!」
「だからうちもお手上げやねん」
「……ってことは何も考えずにここに来たのか!? なんの対策も、なんの解決策も用意せずにか?!」
「……」
つまり俺たちは、死地に連れてこられただけ。
セレンに対して、怒りが湧いてくる。
俺はセレンに近寄り、その胸ぐらを掴んだ。
「今すぐ引き返せ!」
「無理や。この嵐の壁は越えられん」
「ふざけるなよ! なんでここにくるまでになんの解決策も用意してなかった!」
「いいや。解決策はある」
そう言ってセレンは俺を指さした。
船嘴に刺さったサッチの船は、ずるりと落ちて水飛沫を立てる。
「そのためにお前達を連れてきたんや。副船長」
セレンは俺の喉を指で突く。俺は手を離し喉を押さえる。
セレンはそんな俺を気にすることはなく、舵に手をかけた。
「一人使い物にならんのは予想外やったが、代わりに優秀な魔導書使いがおる。戦力としては十分や」
「何、言ってるんだ……?」
セレンは思い切り面舵を切った。船は右を向き、渦潮の流れに乗る。
渦潮に乗って大きく回転する。その進行方向には、ボロボロの船がいくつか見えた。
「さぁ来るで。目標正面! 幽霊船!」
正面のボロ船達は、一斉に穴だらけの帆を張る。その全てに、いろんな種類の髑髏マークが描かれている。海賊船だ。
海賊船達は一斉に動き出し、俺たちの船に向かってきた。その船に乗っているのは、海賊服を着たスケルトン達だ。
「あれがこの神海の番人、うちが負けた要因や」
「あれを倒せばいいのか!?」
「そうや! あれさえ潰せば、前のうちを越えれる! 先に行ける! 海の秘宝に近づける!」
セレンの目は、狂気に染まっていた。
「海の秘宝はすぐに目の前、うちの、うちの物や! 邪魔するなぁぁぁ!」
セレンは手を振り回す。船からロープが放たれ、幽霊船を拘束する。そしてそのまま幽霊船を、こちら側に引っ張ってくる。
「おい、あいつやばくないか!?」
「えぇ、正気を失ってるわね」
コーネリアは冷静にそう言って、魔導書から光球を放つ。光球は幽霊船に直撃し、爆発した。バラバラになったスケルトンがまるで噴水のように打ち上がり、海に落ちていった。
「でもやらなきゃやられるってのは、いつも通りよ」
「ハハハハハハハハハ〜〜〜♪」
セレンの狂ったような笑い声が、神海に鳴り響いた。
セレンは舵を取り、幽霊船に向かって突っ込んでいく。
幽霊船は船嘴に串刺しになり、そこからスケルトンが乗り込んでくる。
そのスケルトンの中。一人だけ大きなスケルトンがいた。
俺をまっすぐ見据え、両手にカトラスを三本ずつ持っている。爪のように。
「お前……マングルか?」
そのスケルトンは俺に向かって、ゆっくりと向かってくる。
そのスケルトンは他のスケルトン共から腕を引っこ抜き、自分の体にくっつけた。
大きなスケルトンは両腕を三本づつ生やした状態で、それぞれの腕にカトラスを装備した。
「それがマングルの本気ってわけか」
スケルトン。いや、マングルは大きく頷いた。
マングルはケタケタと口を動かした。
俺には
「マングル海賊団船長、マングル」
と言ったように聞こえた。
俺はカトラスを抜き、一歩前に出た。
「セイレーン海賊団副船長、オーロ・シルヴァ」
俺も名乗りをあげる。マングルは、カトラスを構えた。
次の瞬間、瞬きをした時にはマングルは目の前にいた。しかしマングルの足元から火が噴き出し、マングルの体を焼いた。
来ると思って【火属性魔術】を仕掛けておいた。
「ケタケタケタケタ」
マングルはカトラスを振って火を消そうとしているが、火は消えない。あのカトラスは秘宝ではないのだろう。
しかしマングルは、何かを思い出したかのように動きを止めた。
「……もしかして骨だから火が効かない?」
「ケタ」
マングルは燃えたまま、俺に向かって飛びかかってくる。三本の右腕が振り上げられ、俺に向かって振り下ろされる。
一本目を【鎖罠】で止め、二本目を【真空刃】を飛ばしていなす。三本目の右腕を持っているカトラスで切り落とす。
「あの時の俺とは違うぞ」
マングルは三本の左腕を横に振るう。俺はその場で飛び上がり、カトラスを避ける。ついでにマングルの頭に飛び蹴りを入れた。
マングルの頭は回転し、また俺の方を向いた。
「物理も効かない?」
「ケタケタケタケタ」
マングルは笑う。
マングルは全ての両腕を振り上げ、連続で斬りつけてくる。
俺はその場から飛び退き、微塵切りになるのを避ける。
マングルは俺の方に向き直り、また飛びかかってくる。
しかし、俺たちの間に火のついた筒が投げ入れられた。
マングルはその場から飛び退く。俺はそのマングルの動きを見て、危険を感じ取った。
「【鎖罠】!」
俺は鎖とマストを結び、自分の体をマストに引き寄せた。次の瞬間、その筒が爆発した。
「なるほど。ダイナマイトってわけか」
いつの間にか、俺たちの船の隣に幽霊船がピッタリと付いていた。その幽霊船に乗っているスケルトン達は、みんなその手にダイナマイトを持っていた。
マングルは爆煙の中、俺目掛けて駆けてきた。
俺はカトラスを振り上げ、マングルの左腕の一本を切り飛ばす。
しかし残り二本は受け止めることができず、肩口から胸元までばっさりと切られる。想像を絶する痛みが襲ってくる。しかしマングルのカトラスは俺の体を貫通し、マストに止められてそれ以上切れない。
「かかったな……マングル」
俺は【鎖罠】で隣の船からダイナマイトを奪い、マングルの体の中に入れる。骨だから、簡単に入る。
俺は【鎖罠】で、マングルと自分の間に壁を作る。
派手な爆発音と共に、マングルの体の中に入れた腕が吹き飛ぶ。
『テレレテッテレ〜♪』
『レベルが上がりました!』
そのファンファーレとともに、俺の腕も、俺の肩口の傷も。その全てが治る。
【鎖罠】を解くと、そこにもうマングルは跡形もなかった。
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