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Lv.3 落雷、閃光。あと狼

なるべく大きな歩幅で、近くの街まで歩いてやってきた。

やはり歩行での経験値獲得は移動距離ではなく、歩数によるものだった。おかげで半日歩いていてもレベルは一つも上がらなかった。しかし股関節が痛い。

しかも、昨日焼き殺した狼を引きずって持ってきていたからさらに大変だった。

運搬用にスキル【工作上手】を使い草で編んだソリを使っていたが、それでも重かった。


「ま、苦労のおかげで金を得る事ができたのは幸運だな」

「キュキュ」


俺は金の入った袋を、かちゃかちゃと鳴らす。

あの狼はいい金になった。なんの魔物だったかはわかっていなかったが、毛皮が良かったらしい。


「……丸焼きにしたのにか?」

「キュ〜?」

「まぁ気にすることはないな! とりあえず宿を探すか、足が棒みたいだ」

「キュ〜」


ライムは俺の頭にぴょんと乗った。頭のてっぺんがひんやりと冷たく、疲れた体に心地よい。

するとライムは俺の気持ちを汲み取ったのか、笠の形に変形した。


「ありがとうライム。だけどな、笠ってのは日差しを遮る物だから、半透明のライムじゃ効果は薄いんだよ……」

「キュ……」

「でも頭の上にいてくれるのは涼しいから助かるよ、ありがとうな」

「キュキュ!」


ライムは幸せそうな声を出しながら、元のスライム形に戻った。



ひとまず宿を見つけ、チェックインを済ます。魔物同伴可の宿は見つからなかったが、ペットだと説得してなんとか許可をもらった。

ってな問答をしていれば当然時は過ぎてしまう。昼などはとうに過ぎて、空は暗がりへと移ろいでいた。

部屋は二階の角部屋。椅子テーブル窓付きで、古いベッドが一つ。料金に見合った程度のグレードだろうか。

ライムは、古いがきちんと清潔にされているベッドが気に入ったようだ。満足げにだらけている。

俺は椅子に座り窓から外を眺める。

甲冑姿の人間が集まって、何かを相談しているようだ。金髪の兜をつけていない少女が、一際目立つ。


「こんな時に酒をかっこよく傾けられる大人になりたいな……」

「キュ〜?」

「こんなふうに外の様子を見ながらワインの入ったグラスを傾けてさ、『俺も随分、歳をとったな……』な〜んて言いながら一息で飲むんだ。痺れるだろ?」

「キュー……」


どうやらライムには響かなかったようで、冷ややかな目を向けられる。いいさいいさ、スライムにはわかんねえよ!


『テレレテッテテ〜♪』

『レ、レベルが上がりました〜!』

「久しぶりに上がったな。今、何レベなんだ?」


疑問に思い、ステータス画面を開く。


今現在のレベルは19レベル。随分と早い。体感で言えば一個目のジムのある街に来た気分なんだが?体感で言えば何度もすれ違う王子のいる国に初めて来た感覚だが?

しかし、何やらステータスが騒がしい。具体的にはログ画面に移動するための矢印に、点滅するびっくりマークが付いている。


「ライム、おいで」

「キュ」


ライムを膝の上に乗せる。何か嫌な予感が、ひしひしと背中をよじ登ってくる。

意を決し、ログ画面を開く。


『警告:悪夢襲来』


と赤文字でポップアップ表示が出ている。しかも画面の真ん中、ログを覆い隠すように。

悪夢襲来とはなんだ。

そう考えることなど、無用だった。


ちらり


窓の外で、光が動いた。街の遠く、民家の陰。

同じようにいくつか光が動く。俺は窓から身を乗り出し、街の様子を見た。


「……囲まれてる!」


街の周りはその光。いや、松明の光で囲まれていた。そしてその松明を持っているのはさっき見た甲冑姿の人間だった。


「そうだったそうだった。俺は異世界転生したんだ、適当な理由で追われる身になる事も予想しておかなきゃなっ!」

「キュ!」


荷物を掴み、窓から飛び降りる。ライムがクッションとなってくれて、怪我なく降りる事ができた。

とりあえずステルスゲームで培った動きで、物陰から物陰へと渡っていく。

甲冑姿の男たちは、みんななぜか背中を向けている。


「そこのお前!」


急に背中から声をかけられる。びっくりして振り向くと、そこには甲冑姿の男が。


「おい、とまれ!」


俺は走り出し、甲冑男たちの壁をすり抜けた。

見つかったんならしょうがない。鬼ごっこと洒落込むかい?

なんて甘い事を考えていた。


「正面だ!」

「正面?」


俺は言われた通りに正面を向く。するとそこには昨日の狼の小型版が、四匹で俺のことを囲んでいた。


「またお前らか! 量産型に落ちぶれた中ボスに、なんの魅力も感じねぇよ!」


俺は指先から火を出し、それを拳に纏わせる。

昼間に練習したおかげで、スムーズに出せる。


「よいっしょっ!」


飛びかかってきた一匹を殴り、遥か後方に吹き飛ばす。

レベルアップしたおかげか、吹っ飛ばし力的なのが強くなっている気がする。というか強くなっている。


「こんなもんじゃイージーモード以下だぞ!」

「キュー!」


カッコつけていると、頭の上のライムに顔を引っ張られる。目をこじ開けさせられて、周囲の状況をマジマジと目に入る。

四匹などではない。数十。いや、数百匹だろうか。

とにかく無数の獣の目が。怒り狂った獣の目が、俺を仕留めんとこちらを向いていた。


俺は一目散に甲冑の人間たちの元に走り出した。


「キュー!」


とライムがさも、「お前が始めたんだから自分でなんとかしろ」と言わんばかりに後ろ髪を引いてくる。

わかっているとも。だから今、戦略的逃走をしてるんだ。だからこれ以上髪を引っ張らないでくれ禿げたくない!

俺は走りながらスキル画面を開く。昼間に丸焼き狼を運びながらスキル画面を見ていた時、面白そうだと目をつけていた。

【フラッシュ】【鎖罠】【水属性魔法】【水属性魔法(初級)】【落雷】この5つのスキルを一気に取る。


「ライム、目を一瞬瞑れよ!」

「キュ!」

「【フラッシュ】!」


手のひらから強烈な光が放たれる。狼達はその光を真正面から受け、動きが止まる。


「【鎖罠】! そんで【水属性魔法】で水をばら撒く!」


【鎖罠】は文字通りのスキルで、狼たちの体に巻きついた。そして手のひらから出た水が、狼たちに引っかかる。


「そしてトドメの【落雷】!」


轟音。空を切り裂く光の剣。文字通りの雷が、狼達の中心に落ちた。

水に濡れていて、鎖という鉄によって別の狼とも繋がっている状態。電気の通しやすさは抜群だった。

狼達の体に雷が駆け巡り、内臓を、肉を、血液を丸焼きにした。


「ふぅ……」


あたりに肉の焼けるいい匂いが漂う。そういえば晩御飯を食べていなかった。お腹が空いてきた。

力が抜け、その場に尻餅をつく。


「キュキュ〜!」

「いや〜なんとかなったな」

「キュ〜……」


ライムは疲れたのか、俺の頭の上でだらけている。


「もう一頭くるぞ!!」


甲冑の人たちが、そう叫んだ。

丸焼きになった狼達のその向こう。一際大きな狼が、こちらを睨んでいた。

おおよそ群れのボスだろうか。俺は地面に手をついて、立ち上がろうとする。


「あれ?」


力が入らない。

狼はゆっくりとこちらに向かってくる。

大きな口を開け、俺の目の前に。


誰かが、俺の前に立った。


「よく戦ったね。あとはこの私に任せて!」


金髪。甲冑。宿の窓から見たあの少女だった。

剣を狼に向け、勇猛果敢に俺を守ろうとしている。


「グラァ!」


狼は短い鳴き声をあげ、飛びかかってくる。

少女は盾を使い、狼の突進を防ぐ。

狼は少女に気を留めず、俺だけを見ていた。


「私のことを、見たらどうだ!」


鋭い剣の一撃が、狼の喉に刺さる。

狼は後ろに大きく飛んだ。そして俺ではなく、その少女に目を向けた。


「決着をつけましょう」

「グララァ!」


狼が大地を蹴って飛びかかる。少女はそれを躱し、狼の首に剣を通した。

狼の首は切断され、こっちに飛んでくる。俺の目の前で、狼の目の光が失われていく。


「私の名前はアルベルド。アルって呼んでね、シルヴァ」

「あ、あぁ……いつ俺が名乗った?」

「いや、そこのスライムくんが教えてくれたんだ!」


甲冑姿の少女アルは、俺の手を引っ張り立たせてくれた。

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