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Lv.27 ライム、趣味を見つける

廊下の最奥。突き当たりの部屋から、ライムの歌が聞こえた。

船の構造的には、一番後ろ。一番大きな部屋だ。


「船長室って書いてあるわね」


コーネリアの言う通り、扉にはデカデカと船長室と書かれていた。デカすぎて一瞬文字と認識できないくらいにはデカかった。

俺は扉をノックする。

しかし、中からはライムの歌声しか聞こえない。


俺とコーネリアは顔を見合わせて、扉を開けた。


「へろー?」

「む、なんやもうバレたんか」


部屋の中には至る所にthe 財宝と言った物々が散らかっており、その奥にある大きな机にセレンとライムはいた。


「キュー!」

「ごふっ!」


少し怒った様子のライムが、俺の腹に突っ込んでくる。最近タックルの威力が上がっている気がする。

俺はライムを撫でてやるが、膨らませた頬を引っ込めてはくれなかった。


「もうバラすか?」

「キュー! キュキュー」

「あっそう。なら目的は内緒の方向やな?」

「キュ」


ライムは俺の腕の中で頷いた。

なんでみんなライムと会話できるんだ?


「船長さんはライムと何をしていたの?」

「うちはライムに歌を教えてたんや!」


セレンはふふんと胸を張った。腕の中のライムも同じように胸を張る。


「どっかのアホがうちに酷いこと言ったからな。それを見返すために、ライムに歌を教えてたんや」

「キュー」

「そう、ライムも歌を教わりたいって言ってたし。目的が一致したんや」

「キュキュ!」

「なんや、これは言ってもいい範疇やろうが!」


セレンとライムは、楽しそうに喧嘩する。少し嫉妬心が湧く。


「なんて言ってるか分かる?」

「コーネリアも分からないのか?」

「分かるわけないでしょ」


どうやらコーネリアも何を言っているのか分からないらしい。同類がいてちょっと安心する。

そんな俺たちの様子を見て、セレンが首からチョーカーを外した。


「なんで話せるか気になるか〜? それはこれ、【秘宝:新しい出会い(ニューギア)】のおかげや! 付けるだけで魔物と話せる便利な秘宝や。使い道ないと思ってたんやけど、取っといて良かったわ」

「キュー!」

「何言ったか分からんけど、悪口なのは分かるんやぞボケぇ!」


ライムは俺の腕から飛び出し、セレンの海賊帽に乗る。

セレンはライムを引きずり落とそうとわちゃわちゃしているが、ライムはするするとセレンの手を避けている。


「セレン、ありがとうな」

「あ?」

「ライムと仲良くしてくれてさ」

「お、おぉ? なんや気持ち悪いな」


セレンは俺を変人を見るような目で見る。


「それに、昨日は悪かったな」

「へ。……そ、そうか。まぁ許したるわ」

「キュー……」


セレンはもやもやした様子で、高価そうな椅子に座った。


「……うちの部屋にたむろするなや!」

「えぇ!?」

「シルヴァ、お前の踏んでる奴は一応秘宝やぞ!」

「マジで?」


俺は足を退けた。しかし、退けた先にも別の物品があった。


「それも、それも、それもや! というかこの部屋にある物全部秘宝やぞ!」


急にキレ散らかしたセレンが、俺たちを部屋の外に追い出した。

しかし部屋から中の叫び声が聞こえてくる。


「うがぁぁぁぁぁ! なんやあいつなんやあいつぅぅぅ!」

「盗み聞きはいい趣味とは言えないわよ。先に甲板に行くから、早く来なさい。続きやるわよ」


そう言ってコーネリアは、ライムを抱えて部屋の前から去っていった。


「分からん分からん分からん! もやもやするぅぅぅ!」


そう叫ぶセレンの部屋の前から、俺は早々に退散した。



甲板ではコーネリアが、魔導書を空中展開して待っていた。

コーネリアの頭の上では、ライムがコーネリアと同じポーズを取っていた。


「えっと、どう言う状況?」

「予定では明日にはエンジェルとやらと蜂会う。だから今日で特訓は一旦終了よ」

「それは分かってる。俺は何故ライムがいるのかを聞いているんだが?」

「最終試験よ。ライムが受け止めてくれるから全力でやりなさい」


コーネリアがそう言うと、もう一冊禍々しい魔導書を取り出した。


「あたしも本気出すから」


その一言をコーネリアが言い終わった途端。気づけば俺は船の外に飛ばされていた。船からだいぶ離れている。

海の上の俺に向かって、追い討ちの魔術が飛んで来ている。


「【水属性魔法】!」

(魔法は、魔術を使う許可や資格みたいなものよ)


コーネリアの言葉が繰り返される。

俺が今までやっていた事は、自動車免許そのものに乗っているのと変わらない。

俺は。


「魔術って、なんだ?」


と考えながら追い討ちの魔術を受け、海に落ちた。



体はボロボロ。傷口から海水が染み込み、じわじわとした痛みが全身を襲う。

口や鼻からは海水が入り込み、息を止める。


(魔術って、なんだ)

『や〜っと見つけました〜!』


真下から声が聞こえる。

下を見てみると、海底に大きな亀裂が入っていた。


『お久しぶりです〜』

(あぁ、女神か)

『レベルが30になった時に何もプレゼントできなかったので、探してたんですよ』

(前みたいなのはいらないぞ)

『そう言うと思って〜。別のものを用意してきました〜。えい!』

(……今度はなんだ?)


『テレレテッテレ〜♪』

『オート経験値を、さらに獲得しました〜』


「なんて????」


俺は海中にもかかわらず、口を開いて疑問を唱えていた。水がさらに口に入ってくる。

意識が薄れ始める。


『テレレテッテレ〜♪』

『レベルが上がりました〜!』


「がぼっぉ!」


肺の中の水が一瞬で消え、空気で強制的に満たされる。

しかしまたすぐに肺の中に水が入ってくる。

さっきは諦めの境地やら体の痛みやらで麻痺していたが、とても苦しい。


『あ〜……大変そうですね』

(なら助けてくれてもいいんじゃ?)

『ならばプレゼントが遅れたお詫びに、良いことを教えましょう。【水属性魔術】』


俺の周りに、渦巻きがいくつも発生する。


『本来この世界の魔術は、あなたのように対応する属性の物質を発生させる物です。ですがあなたは特殊ですよ。魔術は限界を突破し、世界のあり方を自由に変えます』

(なに言ってるんだ)

『魔術とは、奇跡である。です。では〜』


渦巻きが消える。

女神の声も、もう聞こえない。

何も分からなかった。


(世界のあり方を自由に変える。魔術とは、奇跡である)

(【水属性魔術】)


俺は心の中で、そう呟いた。

すると自分の体を渦巻きが包み込み、海上へと押し上げた。


「ぷっはぁ!」


海面から顔を出し、息をする。


「いた! いたいたいた! あそこ! 急いで!」


船がこっちに向かってくる。コーネリアが心配そうな顔で俺を見ていた。

それから無事に引き上げられた俺は、コーネリアから全力で心配された。


「大丈夫だった?」

「まぁ、なんとか」

「良かった……あんたが死んだらアルに顔向けできないよ」

「お前、結構な時間海から上がってこうへんかってんで」


セレンがそう言って、胸を撫で下ろしていた。

俺からすれば数十秒程度だと思っていたが、コーネリアとセレンの反応から見るに実際は数十分程度だったのだろうか。


「ま、無事ならええわ」


そう言ってセレンは舵を取り、進路を元に戻した。

コーネリアは最後に取り出した魔導書を、鎖を巻いてローブの中にしまった。


「とりあえず、最終試験はお預け。明日に備えて今日はゆっくり休むこと。良いわね?」

「分かった。今日まで付き合ってくれてありがとうな」

「ふん。アルから面倒見るように頼まれてるしね。それにこれからも特訓……と言うか修行をつけてあげるから、感謝しなさい!」


そう宣言して、コーネリアは船内に戻っていった。

残った俺は、ただ海を眺めながら甲板に座っていた。


「キュ」


ライムが俺の膝の上に乗ってくる。

そして、優しい音色の歌を聞かせてくれた。

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