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Lv.2 狼。それと触手

ステータス画面を見ていると、次のページが存在している事に気がついた。

ステータスをスクロールすると、そこにはおびただしい量の文章が羅列されていた。

よく見ると下にまだまだスクロールできるようだが、眩暈がしたのでやめておいた。というか今もなおこの文章は増え続けている。


『呼吸:+3』『呼吸:+3』『呼吸:+3』

「完全に理解してしまった……このおびただしい量の文章は、全部俺の経験値獲得のログだ!」

『学習:+5(経験値ブースト込み)』


あぁ、理解するだけでもこれか。


『学習:+5(経験値ブースト込み)』


俺は更に次のページがあることに気づいた。


『学習:+5(経験値ブースト込み)』

『テレレテッテテ〜♪』

『れ、レベルが上がりました!』


もうこのページを見ることは止めよう。と決意して、次のページにスクロールする。

次のページには現在のレベルと、スキルポイント。そして現在獲得しているスキルが表示されていた。

『現在レベル:6 スキルポイント:5 現在獲得しているスキル:【オート経験値】【経験値ブースト】』

なんとも簡素な事だ。

ひとまずスキル獲得と書かれている部分をタッチする。

ずらり。と大量のスキルが視界いっぱいに広がる。しかしそのほとんどが灰色になっていた。

試しに【瞬間移動】と書かれたスキルをタップしてみる。すると『レベル51より取得可能』と警告文のようなものが表示された。

【次元斬】と書かれたスキルをタップすると、『称号:【剣の道(究極)】が必要』という文が出た。


「なるほどね……スキルを得るためには何か行動を起こさなきゃいけないってわけか」


俺は静かに目を閉じた。だって瞬間移動とかあったら便利じゃん。しかも一歩歩くだけで+5されるという、最悪の事態を回避できる。でも、そのスキルを取るためにはレベルを上げなければいけない。


「まさに虎穴に入らずんば虎子を得ずってわけだ……」


『称号:【物知り】を獲得』とステータスの隅っこに表示され、消えていった。俺は全力でそれを無視し、今取れそうな白い文字で書かれたスキルを見る事にした。

うん、嫌な現実から目を背けることも時には大事だよね。


「お、【魔物使い】って面白そうなスキルだな」


俺の足元ですやすやと寝息を立てるスライムを、チラリと見てみる。


「こいつ俺の靴溶かしてやがる!」


スライムから足を離す。まだすやすやと安らかに寝息を立てている。その寝息が少し忌々しいと、溶けた服と溶けた靴を見て思った。

しかし。

この魔物使いというスキルが思い通りのスキルならば。


「このスライムに復讐……いや、何もしなくても勝手に魔物が動いてくれるから経験値が入らないのでは!?」


俺はすぐにスキルをタップし、魔物使いのスキルを獲得する。

『称号:【駆け出し魔物使い】を獲得』と端に表示され、消えていった。


『テレレテッテテ〜♪』


体をびくりと振るわせる。もしやスキルを獲得すると経験値が入る仕組みだったのか!?

と思いログ画面に移動する。


「……良かった、増えてない」


以前変わらず呼吸によって経験値は増えているが、スキル獲得の影響はなさそうだった。


「ていうかこのページに次のレベルまでの経験値書かれてるんだ……」


今はレベル6の終盤。経験値はあと100程度で次のレベルだ。ひとまず一ページ目をプロフィール画面、二ページ目をログ画面、三ページ目をスキル画面と呼ぶ事にした。

とりあえず俺は獲得したスキルを使ってみる事にした。

いつの間にか目を覚ましていたスライムの頭に、優しく手を置く。


「さぁ、俺の仲間になれ!」


・・・

何も起きない。使い方を知らないから当然と言える。俺はスキル画面を開き、魔物使いの項目をタップする。

『魔物使い:魔物と友達になることで獲得可能。 効果:魔物を使役できる』

それだけだった。

自由度が高いと言えば聞こえはいいが、自由すぎて分からない。

その後も試行錯誤をしながら悪戦苦闘していた。


「……お前、なんで仲間にならないんだ?」

「?」


スライムは可愛らしく首(首?)を傾げた。

俺の足元から離れようとはしないこいつは、魔物というよりはペットのような愛着が湧いてきた。


「っと、もうすぐ日が暮れるのか」

「…!…!」

「ん、何か言いたいのか?」


スライムはぴょんぴょんと何か言いたげに、足元を跳ね回っている。

しかし言葉は通じない。ただ可愛い姿を俺に見せることしかできない。


「可愛い奴め。夜に明かりもなく歩き回るのは危ないから、今日はここで野宿するぞ」


スライムを抱え上げ、撫で回しながらそう言い聞かせる。最初のうちは目に見えて喜んでいたが、日が暮れて行くにつれてどんどんと不安そうな目になっていた。


「まぁまぁ、ここであるスキルを取る」


俺はスキル画面から【火属性魔法】のスキルを取った。

間抜けなファンファーレは無視して、手を擦る。


「さぁさご覧あれ!」


盛大に指パッチンをする。

・・・・・・まぁ知ってたさ。物事はそう単純な作りをしていないってな。

俺はあぐらの上に不安がるスライムを乗せ、スキル画面を注意深く見る。


「お、なるほど。今のは火属性魔法を使う免許みたいなスキルなのか。この【火属性魔法(初級)】を取れば使えるのか?」


試しに【火属性魔法(初級)】を獲得し、もう一度指を鳴らしてみる。

すると、今度は指の先に蝋燭みたいに火がついた。


「やったぞ!なぁ見ろよスライム、火が出せるようになったぞ!」


スライムも俺の成長を祝福しているように見える。

……成長?


周りを見渡す。しかし、間抜けなファンファーレも。レベルアップを告げる声も聞こえてこなかった。

俺はほっとして息を吐いた。


『テレレテッテテ〜♪』

『れ、レベルが上がりました〜……』


夜だからか小声でそう告げられる。油断して息を吐いた俺が悪いのだろうか。

スライムは俺の頬をぺちぺちと、励ますように叩く。


「ありがとな……お前となら、なんとかやっていけそうな気がするよ」


しかし、スライムは頬を叩くのをやめない。それどころか俺の背後を気にしている。

振り向き、火を向けてみる。


そこには大きな口、そこから伸びる鋭い牙。火を向けられて、鬱陶しそうに細めた目。赤い体毛に覆われつつも、強靭であることが窺える巨大な身体。

なんというか。


「明らかに人、殺しますみたいな見た目の狼だ……」

「…!」


スライムに引っ張られ、頭が下がる。すると、さっきまで頭があった場所に何かが通った。

パラパラと何かが落ちて、スライムの上に乗る。それは、俺の銀髪の一部だった。

獣の唸り声と共に、夜の帷の中を何かが動いている。

俺は指先に灯っていた火を地面につけた。炎は少し広がり、獣の全容を明かした。


狼の背中からは黒い触手のようなモノが伸びており、それが闇の中を何十本も蠢いていた。


「ガウ!」


狼の小さな鳴き声と同時に、全ての触手が俺の方を向く。その触手たちの先端には鋭利な返しがついていた。

俺は全力で走り出した。もちろんスライムを抱えて。


「ガウ!」


その鳴き声と共に風切り音が鳴る。タイミング良く横にずれたおかげで、全ての触手は俺の横を通り抜けた。しかし俺の前方で触手たちは急旋回し、再び俺の方へと向かって来た。


「…!」


スライムが俺の体を、触手が通って行った方へと引っ張る。


「…!」


スライムは必死に体を伸ばしたりして、何かを伝えようとしている。何かを、伝えようとしている。両手(?)を結んでいる。


「……わかった、そういう事か!」


スライムを信用し、触手の通った方へとスライディングした。頭上に輝いていた月は一瞬見えなくなった。向かってきていた触手の先端は、俺のいた場所を貫き、また急旋回し俺の後を追ってきた。

そう。触手なのだ。先端以外も存在しているのは当然である。そして触手の通り道に触手が残っている事も、また当然なのだ。


スライディングし、触手の反対側に出る。先端は相変わらず俺を狙って、背後から向かってきている。

俺はさっきのくぐった触手をジャンプで超え、旋回した触手によってできた穴に入る。


「グラァ!」


そんな獣の悲鳴とも取れる声が聞こえた。振り返ると、目論見通り黒い触手は絡まり動けなくなっていた。


「はっはぁ!やってやったぞ!」

「…♪…♪」

「ありがとな、スライム!よ〜しよしよし!」


スライムの頭を全力でなでなでする。スライムも嬉しそうだ。

しかし、俺の背中に鋭い痛みが走る。振り返ると、そこには赤い毛の狼が、その爪を血に染めて立っていた。

やられた。触手ばかりに気が向いていて、狼本体を蔑ろにしていた。


「くっ……」


するとスライムがするりと俺の腕から抜け出し、狼に向かって立ち塞がった。


「…!……!!」


何か鳴き声のようなものをあげ、狼に向かって飛びかかる。出会った時のような飛びかかり方ではなく、戦う意志を持った力強い飛びかかりだった。


しかし。


狼の爪の一振りで、スライムはバラバラに刻まれた。地面にばらけて、落ちた。


「オォォォ!!」


俺は雄叫びを上げながら走り出した。火属性魔法が、握った拳をいつの間にか包み込んでいた。

本能のままに、拳を狼の顔面にぶち込んだ。

そして、そのままその場に倒れ込んだ。血が足りない、頭に靄がかかる。


ぼやける視界では、狼が全身火だるまになりながら暴れ狂っている。


すると、何か冷たい感覚が俺の頬に触れた。

半透明のジェル。さっきのスライムだという事は、理解できた。

薄れゆく意識の中、スライムを優しく握る。


狼は、すでに動かなくなっていた。



目が覚めた。死後の世界とかではなく、狼と死闘を繰り広げた草原だ。背中に触れてみると、服は無惨に裂かれていたが傷は跡形も無かった。

俺はすぐにログ画面を開く。大量のログを読み返していくと、事の真相が判明した。

昨夜のログには『ナイトメア:紅蓮の大狼 を討伐』と言うログを皮切りに、『レベルが上がった』というログが九個ほど連続していた。呼吸ログが出る暇すらなく、一気にだ。

『レベルが上がった』ログには小さく、体力が全回復した。と書いてある事から、今も死なずに済んでいるのだろう。

思えば最初。スライムに指を溶かされた時も、レベルアップすれば指が治っていた。


「スライム……」


短い時を共に過ごした相棒に、思いを馳せた。手のひらの中には、あのスライムの欠片が握られていた。


「キュッ!」


と言う小さな鳴き声が後ろから聞こえた。

振り返ると、そこにはスライムが立って(立つ?)いた。

俺の手のひらの欠片をスライムが食べ、満面の笑みを向けた。いや、つぶらな目しかないんだけどね。


「スライム!」

「キュキュッ!」


スライムに抱きつくと、スライムの方からも俺に抱きついてきた。


「お前無事だったんだな!よかった!」

「キュキュッ!キュー!」


スライムは何かを伝えようとしているのか、自分の体でジェスチャーを始めた。

四角い何かを形作って、上に伸びをする。


「……わかった!ステータスだな?」

「キュイ!」


俺はプロフィールを開き、観察する。すると、また下にスクロールできることに気がついた。

下にスクロールすると、そこにはスライムのステータスが表示されていた。

名前、空白。見た目、ただのスライム。称号、シルヴァの使い魔。とほぼ空白のプロフィールだった。


「ところでシルヴァってかっこいい名前は誰だ?……あっ俺か〜〜〜!!」

「キュイキュイ!」


スライムが俺の足をぺっちぺちと叩く。

どうやらツッコミをしてくれているらしい。かわいいね。


「キュイ!」

「ん、違うのか?」

「キューキュ!」

「……名前が欲しいのか?」


スライムは大きく頷いた。

俺はスライムを持ち上げ、そのつぶらな瞳をじっと見つめた。


「ならば、お前の名前は()()()だ!ス()()()()()()だ!」

「キュ〜!」


嬉しそうに体を伸ばしている。どうやらお気に召したようだ。


「ところで、ライムはオス?メス?」

「キュ……」


なんだか、がっかりされたようだ……

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