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Lv.17 セイレーンの歌

ライムを弄ぶ海賊達の前に、勢いよく飛び出る。


「おい、とっととライムから手を離せ」

「あぁ!? なんだテメェ!」


海賊達はカトラスや、拳銃を抜く。


「まぁ待てお前ら」


そんな海賊達の背後から、大男がやってくる。海賊達の頭を軽く叩き、武器を降ろさせる。


「お前さん旅人だろう? この街の桟橋の上は海の上判定だ、ぶっ殺されても文句言えないぜ?」

「あんたは?」

「俺はマングル。名前の通りマングル海賊団の船長だ。ほら、離してやんな」


マングルが命令すると、ライムは解放された。

俺の足元まで走ってくると、俺の胸に力一杯頭突きをした。


「悪かった。ごめんライム」

「キュー! キュー!」

「仲がいいんだな。羨ましいぜ! ハハハハ!」


そう言ってマングルは船員達を連れて、俺の横を通り抜けていった。

桟橋の終わり、街の入り口では、街の人たちが心配そうに俺のことを見ていた。


「大丈夫そう?」


桟橋の下から、アルが顔を出す。


「心配かけたな」

「もう、ライムも大変だね」

「キュー」

「いや、本当に悪い」

「とりあえずは一件落着かしら?」


いや。まだ海賊達には用がある。海の財宝とやらの情報を聞かなければならない。しかし、海賊達がそんな大事な情報を教えてくれるだろうか。


「いや、あれだけ親切なら教えてくれるだろう」


俺たちはひとまず宿屋に戻った。


_______________

「マングル海屋団がどこにいるか? 昼間はやめとけ」


宿屋の主人はカウンターに突っ伏しながら答える。


「昼間は、海で取ったお宝を隠しに行ってるんだ。探すのはタブーだぜ」

「夜には帰ってくるのか?」

「まぁ、夜は基本的に街でどんちゃん騒ぎを起こす。んで次の日に必要なもんを買い漁って、船員達の自由時間。それで夜明けには出港する。それがこの街に寄港する海賊達のルーティンだ」

「なるほど、じゃあ夜まで暇になるな」

「なら入江に行くといい。運がよければセイレーンが見れるぜ」


主人はカウンターの下から、『スライムでもわかる、このまちのれきし』と書かれた手作りの本を取り出した。

ペラペラとページをめくり、あるページで止める。そのページには、入江の岩場に紫髪で下半身魚の女性が歌っている絵が描いてあった。


「これだ。160年前に一度だけ発見されたセイレーンの姿だ」

「ほぉ……」

「ま、それ以降一度も見られていないけどな」

「その本よく見せてもらっても?」

「いいぜ」


俺は本を受け取り、本を最初から読む。最初はこの街の成り立ち。海からの幸に目をつけた人たちがここに町を作った。そして同じ事を考える者達は、別の場所に同じような街を作った。

するとそんな街を襲う海賊達が現れた。他の街は滅ぼされ、この街だけが残った。なぜ残ったかというと、それはセイレーンのおかげ。海賊達がくる前にセイレーンが歌うので、戦う準備ができたらしい。

そしてそのセイレーンの絵。


「ん?」


今まで現実的だった絵が、おどろおどろしい宗教画のような物に変わる。海から巨大な黒い影が出て、街を押しつぶしている絵だ。


「あ〜。それは『海の神』だ」

「海の神?」

「ちょうど160年前に暴れた怪物だ。普段は海の底で眠っているらしいが、100年くらいの期間でこの街……いや、世界中で暴れるらしい」

「随分とアバウトだな」

「ま、みんな死んじまったからな。その時の生き残りはうちの爺さんだった。去年寿命で死んだがな。エルフとかならもっと詳しい話が聞けるんじゃないか?」

「エルフがいるのか?!」


この世界に来てから、一度もお目にかかれていないエルフが存在している。その言葉が、俺の心を大きく揺さぶった。


「この街にはいねぇよ。エルフっつったら森だろ。昔は街に買い物にも来てたんだがな、最近はめっきりだ」

「そうか……」

「……お前街で見たエルフと恋仲になろうとかはやめとけよ」

「何かまずいのか?」


店主は顔を近づけ、俺の耳元で囁いた。


「エルフは百歳を超えるまでは村や集落の中で過ごすんだ。だから街に来てるエルフは……」

「全員百歳を超えている?」

「あぁその通りだ。お前人間だろう? なら相手は人間にしておけ」


店主はそう言ってカウンターの椅子に深く座った。


「ま、お前は女に困らなくて良さそうだよなこの野郎」


そしてカウンターの下に隠してあった酒を、ぐいと飲んだ。

この場にいると永遠に愚痴を聞かされそうなので、俺はその場から離れた。


「おぉい! 俺がお前くらいの歳じゃ女っ気もなく店をただ繁盛……」

「ふぅ。めんどくせぇ」


宿屋から結構離れてしまった。このまま暇を潰すために、ひとまず俺は入江に行くことにした。



街の人たちに道を聞きつつ、一時間ほど。俺は入江にたどり着いた。

崖下にぽっかりと穴が空いており、そこに岩場がぽつぽつある。確かに、本で見た通りだ。


「……?」


誰かがいる。後ろ姿しか見えないが、長い紫の髪が遠くからでもよく見える。


(セイレーン……?)


俺は息を潜めながら近づいていく。しかし、足元の水が跳ねて音が出ている。

これはまずいと、スキル【隠密行動】を取得する。

早速【隠密行動】を使い、静かに近づいていく。足元で跳ねる水も、俺の息遣いも、全て無音になる。

近くの岩の裏に隠れて、様子を伺う。


「はぁ……」


セイレーンがため息をついた。ため息の音だけでわかる。めちゃくちゃ可愛い声だ。こんな声聞いたことがないくらい可愛い。声優等に関しては無知そのものだが、世界最高と言っても過言ではないだろう。


「すぅーー……」


セイレーンが大きく息を吸った。

次の瞬間、俺は不協和音を飛行機並みの音で聞かされたショックで、意識を失った。

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