Lv.13 黄金の囚人
黄金のブレスが落とし穴から逆流し、空高く放たれる。
大小様々なサイズの黄金の欠片が、空から降り注ぐ。雲が黄金になって落ちて来たのだろう。
俺は地面から抜け出しながら、そんなことを考える。
「黄金の右足とはよく言ったものだ。重くて歩けないっての」
金になった右足を引きずってコーネリアの元に行く。
「生きてたのね」
「まぁな。右足は見ての通りだが」
「どうやって逃げたの?」
「地面を掘って、壁を作ったんだが無駄だった。だから黄金ブレスの通り道を作って、その脇に避けた……んだが右足は間に合わなかった」
最初は右足の先だけだったが、今はふくらはぎあたりまでが黄金になっている。侵食してくるタイプだ。
俺は自分のステータスを開き、ログ画面を確かめる。
「コーネリア、斬撃とかできるか?」
「できないわよ? どうして?」
「そうか。ならアルの手が空いたら任せよう」
俺は落とし穴の中の黄金竜に向き直る。
「コーネリア、やれるな?」
「えぇもちろん!」
コーネリアはローブの中から大きな魔導書を取り出した。
その大きさはコーネリアの身長と同じほどの大きさだ。
「魔導書の利点って知ってる?」
「……魔術が使えない人でも魔術が使える?」
「そう。でもあたしはそんなことしなくても、魔術が使える。でも魔導書には、もう一つ利点があるのよ」
「もう一つの利点?」
「魔術の多重同時使用。魔法も魔術も何もいらない。必要なのは魔導書と、それを発動する方法だけ」
コーネリアは次々と魔導書を取り出す。取り出した魔導書を一撫ですると、魔導書はページを開いて空中に浮かび上がる。
数秒もしないうちに何百冊もの魔導書が、コーネリアの頭上を円を描いて回る。
「全魔導書、照準!」
コーネリアの声に反応し、全ての魔導書が黄金竜に向く。
「や、やめろぉ! 我々の神を、殺すなぁ!」
背後からアルの足止めを抜けた男が、コーネリアに襲いかかる。
俺はその男を黄金の右足で蹴り飛ばし、踏みつける。
「よく見ておけ。夢の終わりだ」
「素晴らしきコーネリア様の偉業は、ここから始まるのよ!」
「インペリアル・マジックストリーム!!」
コーネリアがそう叫び、魔導書から光が放たれる。魔術の束は黄金竜の入っている落とし穴を襲い、何に反応したのかわからないが大爆発が起きる。
立ち登る土煙。周囲に飛び散った黄金のかけら。そして魔術の束の軌道には、色とりどりの火が落ちている。
俺は落とし穴を覗き込む。
黄金竜の体は、その体積の半分が吹き飛んでいた。
「どう?! もちろんやってるわよね!」
「あぁ、半分に吹き飛んでるよ」
「やったー! やっぱり魔導書は最強なのよ! 才能なんていらないのよ!」
と楽しげに言いながら、コーネリアは俺に飛びついてくる。
俺はコーネリアを肩車し、声高らかに叫んだ。
「黄金の夢は終わりだ! 黄金竜は死んだ! 偉大なる魔導書使いコーネリアによって黄金竜は討ち取られた!」
すると、アルが山の斜面から顔を出した。
俺はアルに手を貸し、引き上げる。
「どうなったの?」
「黄金竜は消し飛んだ」
「そっか。だからみんな動きが止まったんだね」
落とし穴の前で、さっきまで踏んでいた男が倒れている。街の住人に、何か魔術的な物でもかかっていたのだろうか。
ひとまず俺は、落とし穴の中に【分解者】を放つ。黄金竜の後始末は、分解してこのまま埋めるのがいいだろう。
「夢は、覚めない」
落とし穴前の男が立ち上がる。
「夢は、まだ覚めない」
街の住人たちが次々と、這って落とし穴に向かってくる。
「おい! 止まれ!」
「夢は、覚めてはならない」
落とし穴の中に、人が次々と落ちていく。
「夢が、覚めるのなら。せめて、幸せなままで」
そう言って、追手の最後の一人が落ちて行った。
その虚ろな微笑は、脳裏にこびりついた。
「後味悪いな」
「でもこれで目標達成よ!」
「そうだな。俺の目的は果たせなかったがな」
そう。さっきログ画面を確認した時。俺の経験値は減っていなかった。ただ弱体化のデバフだけが、かかっていた。
結論は、黄金竜に力を吸い取る能力はなかった、だ。正確には黄金竜には相手を弱くする力があった、だ。
「黄金竜は倒したわよ……?」
「まぁ、いいんだ。こんな大物倒してしまったから、後が大変そうだがな」
そう言って俺はログ画面を開いた。
「……経験値が増えていない?」
俺はログ画面を確かめる。
黄金竜を倒したのなら、『イベント:黄金竜討伐作戦 が達成されました』とか表示が出てもおかしくないはず。
俺は周囲を見渡す。
「なんだ……? あれ」
黄金竜が立ち塞がっていた洞窟から、大量の黄金が溶け出している。その黄金の川は落とし穴に向かって伸びている。
「うおっ!?」
俺は右足の支えを失って倒れそうになる。
俺の右足は、太ももの中心から先が溶けていた。
「アル、切れ!」
「んっ!」
アルの斬撃が俺の足を切り飛ばす。太ももの付け根あたりから下がすっぱりなくなる。莫大な痛みが襲ってくるが、歯を食いしばる。激痛に意識が飛びそうになるが、水を顔にかけ気付けをする。
アルに寄りかかり、なんとか立つ。
「止血したよ」
「ありがとう……」
「ごめんね……」
「治るから大丈夫だ」
「キュー!」
背後からライムの声が聞こえる。振り向くと、ライムがぴょこぴょこと跳ねている。何かを指しながら。
「キュー! キュー!」
「……上に跳べ?」
「キュー!」
ライムは激しく何度も頷く。俺は【地形変化】を使い、俺たちの周囲だけを空中に持ち上げた。
すると次の瞬間、山の斜面を黄金の川が駆け上がってきた。
膨大な量の金は、止まる事なく、溢れる事なく穴に吸い込まれていく。
三人とも。ライム含めて四人ともその光景を唖然として眺めていた。
「収まった……?」
「ようね……」
「キュ……」
俺たちは黄金が全て吸い込まれた後に、やっと動き出せた。山の下にある街に以前のような煌びやかさはなく、寂れた廃村のような見てくれになっていた。
「ねぇシルヴァ、何か出てくる」
何かが、穴の中から這い出てくる。
黄金の塊。いや、人型の黄金だ。
空気が抜ける音と同時に、人型の黄金の口の部分に穴が開く。
「外だ……」
その人型は、確かに喋った。
呼吸をするたびどんどんと色が付いていき、普通の人間の男と変わらない外見になる。
「お前は誰だ」
「……?」
俺の声は聞こえているようだった。しかし首を傾げている。
「シルヴァ、あいつ何かやばい」
「キュ……」
「何か、怖い」
俺以外、全員が怯えていた。
黄金から出てきた男は、納得したような顔をした。
「殺すね」
その男は、手から黄金の剣を生み出した。
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