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Lv.12 黄金の夢。

「黄金の夢……?」

「貧しかった我々に救いを齎してくれたのは、黄金竜様だった」


街の住人たちは口々に語り出した。


「我々の村は貧しかった」

「それに黄金竜様がたびたび村を襲った」

「そんな時にある冒険者達がきた」

「冒険者達は黄金竜に挑み、死んだ」

「そして遺品は黄金となって山から落ちてきた」

「我々はそれを売ってなんとか生きた」


ここまでは宿屋の店主からも聞いた話とあっている。


「その時に買ったあの肉の味」

「忘れることはできない」

「美味だった」

「他の者達は皆こんな良いものを食べていたのか」

「そう思った」

「許せなかった」

「他の者は贅沢をしていた」

「次は我々が贅沢をする番だ」

「今まで贅沢をしていた者達が生贄になり」

「我々の贅沢となるのだ」


何を言っているんだこいつらは。

街の住人たちはこちらに武器を構える。

その瞳には、狂気的な金色が宿っていた。


「貴様らの酒場での戦い」

「万が一、黄金竜様に怪我でもあれば」

「どこかへ行ってしまわれるかもしれない」

「だから貴様らはここで半殺しにし、黄金竜様への供物とする」

「今まで贅沢をしてきたのだろう? なら諦めて我々の糧となれ」


街の住人たちは一斉に走り寄ってきた。どこからか飛んできた鎌が、俺の頬を切り裂く。


『アル、目をつぶれ!』

「【フラッシュ】!」


眩い閃光が、街の住人たちの目を焼く。しかし、こちらの位置は割れている。すぐに移動しなければならない。

俺はコーネリアに駆け寄り、担ぎ上げる。

猿轡をされたままのコーネリアはモゴモゴと言っているが、今はわがままを聞いている時間はない。


「アル! 逃げるぞ!」

「了解!」


燃える宿屋のど真ん中を、アルが切り抜く。

宿屋の中を通り抜けている時、血溜まりに倒れている店主を見かけた。

通ったすぐ後、宿屋は真ん中の支え失った事で崩落した。


「シルヴァ、どこに逃げるの!?」

「……」

「シルヴァ!」

「山だ。このまま黄金竜を叩く」

「……わかった」


山は宿屋とは反対方向。街を超えた向こう側に見えている。

アルはライムを抱え、俺はコーネリアを抱えて街に足を踏み入れた。


「狂ってる」

「え?」

「この街は狂ってる。黄金竜のおかげで儲かったと言っているのに、まだ金を稼ごうとしてやがる」


煌びやかな看板も、派手に光る壁の模様も、街中に掲げられた黄金竜の像も。全部全部誰かの命と引き換えに作られたものだろう。その中でまだ稼ごうとする。まるで呪いのように。


「何が黄金の夢だ。そんなもんぶっ壊してやる」

「でも人間ってそういうものでしょ?」

「……」


俺たちは街を抜け、山の麓までたどり着いた。

しかし、入り組んだ街が足止めになったのか、既に街の住人たちは山への入り口を塞いでいた。


「黄金竜様の元には行かせん!」

「【フラッシュ】!」

「無駄だ!」


街の住人たちは、街の入り口で売っていた遮光機を装着していた。

一度使った戦術は効かないのか。


「ならば【火属性魔法】!」

「どこを狙っているのだ!」


俺は小さな火の玉をいくつか空に撃ち出す。

小さな火の玉が列になって、街の住人たちの頭の上を超えていく。


「【鎖罠】!」


俺は【鎖罠】を、火の玉に向けて発射した。

鎖は火の玉を掴み、空中に静止した。


「アル!」

「わかった!」

「な、何ぃっ!?」


俺たちはその鎖を足場に、街の住人たちの頭上を飛び越えた。

街の住人たちは俺たちを追ってこようとするが、【鎖罠】を使い足を止めさせる。


俺たちはそのまま山の頂上へと向かって走った。


「ぷはっ! このままやるのね!」

「あぁ、そうだ」

「作戦は変わりなく?」

「事前準備ができないから作戦は軽く変更だ」


俺はコーネリアを担いだまま、作戦を練り直した。


「まず落とし穴を作る。そこに黄金竜を誘導し、落とす」

「落とし穴を作る時間が確保できないんじゃない?」


コーネリアが山の下方を指さす。松明の光がいくつも追いかけてきている。


「安心しろ、俺のスキルで時間を短縮する」

「そう! それで次は?」

「【分解者】でじっくりとバラす予定だったが、時間が無いのでここでコーネリア投入だ」

「え!? いいの?」

「チャンスは一度なのは変わらない。弱った黄金竜か、全快の黄金竜かの違いだ」


コーネリアは俺に抱えられたまま、ローブの中から魔導書を取り出す。


「全力全開で行くわね!」

「その間にアルと俺は追手の処理、逃走経路の確保だ」

「シルヴァ、追手は殺してもいいの?」

「こっちを殺そうとしている奴らに関しては、俺が止めない限りは殺していいと思ってくれ」

「わかった」

「さぁ、頂上だ!」


俺たちは山の頂上にたどり着く。休みなしで走ったからか、心臓がこれまでにないスピードでビートを刻んでいる。

山の頂上、正確には頂上に近い広場のような場所だった。山上部分を切り取り、小さな洞窟を置いただけ。その洞窟の前に黄金竜はいた。その名の通り全身が黄金色に輝いており、背中に異形の大きな羽を持っている。

俺たちの事を見て、怪訝そうな顔をしている。

俺はコーネリアを地面に下ろし、山の下方に向かって【火属性魔法】を放つ。火はあっという間に広がり、追手の足を止めてくれる。


「【地形変化】!」


目測で黄金竜の大きさを測り、地面に穴を掘る。黄金竜がすっぽり入り、上がって来れないように形を作る。

燃え上がる山の下方から声が近づいてくる。どうやら予想よりも時間はないらしい。


「アル! 黄金竜をどうにかしてこっちに誘き寄せてくれ!」

「任せてよ!」


アルが黄金竜に向かって走り出す。黄金竜はアルに注意をむけ、姿勢を低くした。

本当は囮役は俺の方が良かった。しかし、苦渋の決断。ここは一番動けるアルに任せるしかない。

アルは黄金竜に向かって飛びかかる。その瞬間


「グギャァオ!」

「わっ!」


黄金竜が吠えた。アルはその音圧で吹き飛ばされ、俺は咄嗟に耳を塞いでしまった。

アルの方を見ると、ふらふらと立ち上がりこちらに向かって走ってきている。しかし、遅かった。

黄金竜はアルに向かって、大口を開けて走り寄る。


「アル!」

「シルヴァ……! 力が入らない!」


力を奪い取る力。

吟遊詩人の言った事は本当だった。


「走れ!」


アルのスピードは、黄金竜に負けていた。数秒後には、アルは黄金竜の腹の中に入ってしまうだろう。


「【鎖罠】!」


【鎖罠】は黄金竜を縛り上げる。五十メートルはあるかと思う巨体が、地面に押さえつけられる。


「グギャァァァ!」


耳をつんざく咆哮。【鎖罠】はボロボロと崩れ去り、また黄金竜が走り出す。

その時、コーネリアが俺の袖を引いた。


「鎖を引いて!」

「……! わかった、【鎖罠】!」


俺は鎖を手から伸ばし、アルを捕まえた。そして、その鎖を力一杯引いた。


「オラァッ!」

「わわっ!」


アルは釣り上げられた魚のように、勢いよくこちらに飛んできた。俺はそんなアルを、なるべく優しく抱き止めた。


「ナイスキャッチ」

「そりゃどーも。やれるか?」

「うん! 離れたら少し力が戻った気がするよ」

「なら追手を止めてくれ!」


俺はアルを地面に下ろし、落とし穴の前に立った。

落とし穴とは名ばかりの、ただの穴。そんなものに生き物は引っかからない。


「さぁ、俺に向かって来い! 黄金竜!」

「グララララァァ!」


黄金竜は四つん這いの状態で、俺に向かって大口を開ける。その喉の奥には黄金色の輝きが見えた。

あれが物を黄金にする力。


「【分解者】!」


【分解者】を使い、自分が立っている地面を分解する。黄金竜の吐いた金のブレスは、俺の頭上を通り抜けていく。

地面を失った俺の体は、落とし穴の中に落ちていく。黄金竜はそんな俺に向かって突き進む。頭から穴に入って来た。

俺は体を真っ直ぐにし、落とし穴の一番下に作った避難スペースにすっぽりはまる。体の節々が痛いが、ここで止まってはいけない。

落とし穴の中に黄金竜が収まる。俺に噛みつこうとするが、避難スペースは小さい。黄金竜の牙が届かないようになっている。すぐに【地形変化】を使い脱出路を作る。


「グラゥァァァァ!」

「まずい、ブレスだ!」


また黄金竜の口に金が宿る。ここは落とし穴の中。逃げ場はない。

俺は【地形変化】で黄金竜との間に壁を作り、脱出路を急いで掘る。

壁越しに、黄金の光が見えた。


そして無惨にも、壁はブレスによって破壊された。

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