Lv.11 仮面と、炎
宿に戻り、コーネリアを部屋に送った後。俺は宿屋の前でアル達を待った。
「力を奪う能力か……」
あの吟遊詩人の語った言葉。
その言葉が、俺の中で反芻していた。
俺のレベルを、経験値を減らしてくれるかも知れない。しかし、その根拠がない。確証がない。
アル達が現地にいるので確かめることもできるが、そうするとアル達の身が危ないかも知れない。
それに、力を奪うと言ってもレベルを下げてくれるかはわからない。物理的な力、筋力などが奪われる可能性もある。
生憎ギャンブルは好きじゃない。そんな可能性に賭ける、なんて事はしたくない。
しかし、しかしだ。
そんな力を持つ黄金竜と戦うのだ。あまつさえ殺そうとしているのだ。
黄金竜は当然持てる力の全てを使ってくるだろう。
今の所黄金竜の力で予想できるのは、吟遊詩人の語った『力を奪う能力』。遺品の話から見えた『物を黄金に変える能力』。そして『物理、魔術の効かない体』だろうか。
現物を見なければわからないが、これだけで強力だろう。ただでさえ物理も魔術も効かないのに、さらに力まで奪われる。力を奪われたところを黄金化させてゲームオーバー。が基本的な戦闘スタイルだろうか。
「この程度なら攻略するのは簡単だな」
俺はスキル画面から【地形変化】のスキルを取る。
「シルヴァ〜!」
「キュ〜!」
アルがライムを抱えて、夕日を背に帰ってくる。
ライムもアルも泥だらけだった。
「おかえり、どうだった」
「キュ〜……」
「実は、あんまりよくわからなかったんだ」
「……まぁ詳しい話は中で聞こう」
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清潔な水の入った桶を渡し、アルは自分の部屋で。ライムは俺の手で汚れを落とした後。
コーネリアを呼び食堂に集まった。
しかし黄金竜についての報告は、予想通りで期待外れであった。
「黄金竜は一日中洞窟の前から動かなかったんだ」
「ほう」
「時折何かに反応して首を動かしたりしてたけど、結局何もしていなかった」
「キュ〜……」
「もっと近くに行こうとしたら、ライムに止められちゃった」
ライムを見ると、少し膨らんでいる。何か不満なのだろうか。
いや、同じ魔物として何か感じ取ったのかも知れない。
だが、それらの情報で基本の攻略法が確定した。
しかし
「コーネリアは黄金竜をどうしたい」
「え? あたしの魔術で倒すのよ」
「なるほどな。ならチャンスは一度きりだと思った方がいい」
「一度で十分よ!」
「よし、その意気だ」
俺はその場で作戦を伝え、今日は解散とした。
ライムを抱え、部屋に戻る。
「キュー?」
ライムが尋ねるように鳴く。
「まぁ、色々あったんだ」
「キュー」
「……そうだよな、一時の仲間でも大切にするのは当然だよな」
「キュ!」
ライムに慰められているうちに、眠気がやってくる。眠気は体の力を奪い、俺の体をベッドに押し倒した。
『黄金の夢を奪おうとする略奪者め』
俺は、煙たさと熱波ですぐに目を覚ました。
「げほっ。なんだ、一体!」
辺り一面火の海で、部屋の中は煙が充満していた。
さっき聞こえた声の主はどこにも見えない。
ライムを探すと、俺の枕元で苦しそうに眠っていた。
「ライム! 起きろ!」
「……キュ」
ライムの体が濁っている。煙を吸ってしまったのか、苦しそうだ。
俺はライムを布団で包み、自分の口と鼻を布団の端で覆った。
荷物を掴み部屋の扉を開けようとする。しかし、開かない。
振り返り窓を見るも、閉じられている。眠っていた時は確かに空いていたはずだ。
「ならば」
部屋の扉にタックルをかます。普通ならば開くことはないだろう。
しかし、俺は21レベルだぞ。木の扉を破ることなど、不可能ではなかった。
三度目のタックルで扉が開く。俺の部屋の外も地獄絵図で、全てが炎に包まれていた。
『シルヴァ! どこ!?』
アルから通信が入る。
『部屋の前だ! そっちは?』
「らぁッ!」
鋭い斬撃が、俺の目の前の炎を吹き飛ばす。
そこには既に鎧を着こんだアル、が剣を持って立っていた。
「シルヴァ、怪我は?」
「俺は大丈夫だ。でもライムが煙を吸った」
「コーネリアは?」
「今から確認しに行く。ライムを頼んだ!」
「シルヴァ!」
俺はアルにライムを預け、コーネリアの部屋に急いだ。
そこまで広い部屋ではない。すぐにコーネリアの部屋に着いた。
扉を破り、中に入る。しかし、部屋の中はもぬけの空だった。
「窓が空いている……?」
窓から外を見てみる。
そこには猿轡をされたコーネリアと、コーネリアを連れ去ろうとする男達がいた。
俺は窓から飛び降りた。
「コーネリア!」
「……!」
男達は黒い布と骸骨の仮面で姿を隠し、俺の事を凝視していた。
「【鎖罠】!」
昼間のように飛び出した鎖は、男達に向かっていった。しかし、数人は捕らえられたが、ほとんどはその鎖を避けた。
「敵だ……」
「敵……」
「殺さねば……」
男達は小声で口々にそう呟き、するどい鉄爪を装備した。
一斉に男達が飛びかかってくる。
【地形変化】のスキルを使い、自分の周りに壁を作る。
男達の爪が土の壁を突き抜け、先端が壁の中に入ってくる。その位置からおおよその位置を予測し【鎖罠】を放つ。
「グェ」
「ギッ」
声からして二人捕まえた。
「アル!」
俺は土の壁の中からそう叫んだ。
「ハァッ!」
壁の外からアルの声が聞こえる。必ずくると信じていた。俺が鎖で捕まえていた男達の首は、地面に落ちていた。
「コーネリアが捕まってる」
「分かった。殺してもいいんだね」
「あっちがその気なんだ。遠慮してる暇はない」
俺は近くにいた男の足に触れる。触れた瞬間に【分解者】を発動させる。【分解者】は微生物を異常活性させるだけのスキルなので、連発は可能だ。機動力さえ削げば、アルがトドメを刺してくれる。
それに俺の俊敏さは、レベルのおかげで仕上がっている。骸骨の仮面を被った男達の足に次々と触れていく。
鉄爪で俺を攻撃しようとするも、近距離は【地形変化】で。中距離は【鎖罠】で対処する。
「ちょこまかと……」
誰かがそう呟いた。小さな火の玉が飛んできて、俺の体に着弾した。
次の瞬間、俺の体は炎に包まれた。
冷静に【水属性魔法】を使い、消火する。
「ラストッ!」
アルの鋭い一撃が、その男の首を襲う。骸骨の仮面を被った男達の死体が、数えて35人分落ちていた。
「動くな!」
首から血を流した男が、コーネリアに爪を向けている。
「こんなはずでは……」
「これが現実だ。コーネリアを離せ」
「断る。我々はたとえ命が尽きようとも目的を果たす」
「『蛇の足』か」
アルがそう呟いた。
「蛇の足は暗殺を主とした闇の集団。誘拐やスパイ活動も高額で請け負ってる」
「そんな奴らがどうしてコーネリアを?」
「なんだ。知らないのか」
蛇の足の男がそう溢す。
「知らないのならば宿に火を放ったのも納得だな」
「何? お前達が火をつけたんじゃ?」
「……? 我々はコーネリア様の奪還を」
そう呟いた男の背後から、斧を持った男が音もなく現れ。そして蛇の足の男の頭を叩き割った。
すると宿の裏手の森の中から、松明を持った人間達がぞろぞろと現れた。
「黄金の夢を覚まさせはしない」
誰かがそう呟き、こちらに石を投げた。
その中に見たことのある顔が数人いた。
「街の奴らだ」
鎌を持っているのは酒場のウエイトレス。
松明を掲げているのはあの老婆。
血のついた斧をこちらに向けているのは、あの鳥串を売っていた男だ。
「黄金の夢は我々だけのものだ」
口々に、街の住人はそう言った。
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